私が通う話、場所は学園 パート⑲
私は部屋の中を歩き回り、中心と端の中間あたりに立った。
用意してきたチョークで、地面に小さく魔術陣を描く。
前からヴェルトに手伝って貰って作った魔術陣だ。
複雑な魔術陣にサイアス先生が唸るような声を上げた。
「では、始めます。少し離れててください。…水よ、我が声に従い、地上へと、現世へと現れよ!」
地響きがして、大きな音と共に魔術陣から水が吹き出した。
まるで山が噴火したかのような水の量である。
噴き出した水は一定の高さまで来ると、床に染み込むようにして消えて行った。
ポカンと口を開けたサイアス先生たちに私は笑いそうになったが、このまま魔術を放っておくと危険なので、止めることにする。
「水よ、我が声に従い、その恩恵を止めよ」
声と共に魔術は収まって行った。
「では、次の魔術やりますね。…危険ですから、サイアス先生は一番強い魔術を用意していて下さい」
「…」
「サイアス先生?」
「あ、あぁ…」
サイアス先生がゆっくりと魔術の用意をするのを見て、完成されたのを見て紙を取り出した。
真っ白な紙に、先程と同じチョークで魔術陣を描く。
さっきよりも複雑な魔術陣を一応アリスに見せた。
アリスはキョトンとして、それから食い入るように魔術陣を見る。
少しだけ待って、紙をサイアス先生に向けて私は木の棒を出した。
「…炎よ、我が声に従い、かの者を燃やせ!」
木の棒と共に魔術陣をサイアス先生に向けて投げる。
魔術陣は木の棒に巻き付き、真っ直ぐに飛んだ。
魔術陣は炎を纏い、速度を上げてサイアス先生…の魔術に向かって行った。
サイアス先生が放った魔術は炎と闇の混合魔術で、難易度は高い。
さすが教師といったところか。
サイアス先生の放った魔術に私の魔術が突き刺さり、爆発した。
轟音を立て煙が部屋を覆う。
しばらくして、少し煙が晴れてきた。
やはり、サイアス先生もアリスたちも、ぽかんと口を開いている。
私は風で煙を消し去った。
「サイアス先生?今の、どれくらいの成績になりますか?」
「…は、?」
「特殊クラスよりも良い成績ですか?」
「…あ、あぁ。…いや、分からない。彼らの成績は知らない。だが、君の成績は…」
「水なら満点取れてるんじゃないですか?さっきの炎は難しい魔術じゃないんで何とも言えませんけど」
私の発言にサイアス先生が口を噤む。
「…そう、だな。確かに難しい魔術ではなかった」
「水魔術の成績を付けるなら?」
「最優秀だろうな」
成績は劣、優、秀、優秀、最優秀とある。
これはクラスの表記と同じで、最優秀の代わりに特殊クラスがある。
もちろん私たちのクラスは劣クラスだが。
「では、炎魔術は?」
「…あれも最優秀だろう。魔術の難易度も見るが重要なのは威力だ。あれほどの威力を出せる魔術はあの難易度では見たことがない」
「先生は、あれらが何だったか分かりますか?」
「…あれらの魔術陣は幾つもの陣を組み合わせた物だな?それぞれ三つの陣が組み込まれていたはずだ」
「はい。全部今までに習ってあるものを使いました」
「あぁ。私たち教師や研究者の中にもその魔術陣の研究をしている者がいたが…何故成功したんだ?」
え、ちゃんと研究されてたんだ…
教えないから誰も思い付かなかったのかと思った。
「その研究者は魔術陣を重ねる研究をしてたんじゃないですか?」
「そうだ。教師や研究者は魔術陣をどう重ねれば発動するのかを研究していた」
「それでは成功しません。魔術陣にはそれぞれ一部分にだけ意味を持ちます。それさえ気付ければあとは簡単ですよ。…先入観というものですかね?生徒たちは教師が教えてくれないから無いものだと思い教師や研究者は今までなかったからないものだと思い…賢者様も教えればいいの…」
「面倒だったんだよ」
「っ、ヴェ…賢者様!!」
私が解説とヴェルトの悪口を言ってると、ヴェルトが現れた。
本当心臓に悪い…
…もう転移陣ついた耳飾りつけるのやめようかなぁ…
「人間ってのは一回頼ると頼りきりになる奴が出るからな。本当はキリヤがこいつらに教えるのも反対なんだ」
「え?そうなの?…じゃあ、みんなにはヒントだけあげるよ」
ヴェルトは私の右横に立ち、少し不服そうに唇を尖らせた。
私は妥協案を出すことにした。
「魔術陣を解体してサイアス先生に持ってきてね」
クラスメイト達は「は?」という顔をしていた。
…なにこれ、面白い。
テストが終わり、私は特殊クラスへ来ていた。
特殊クラスは丁度講義が終わったようで、教室から少ない生徒たちが出てくる。
その中の銀髪に私は声をかけた。
「ハルト」
「…姉さん!!」
私を見て、ハルトは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お疲れ様。講義はどうだった?」
「まぁ、普通だな。俺たち特殊クラスに講義なんてあってないようなものだから。今の講義だって俺らの研究の発表だったし」
「え、研究なんてしてるんだ」
「あぁ。学園で教えられるところは全て教わってるからな」
「へぇ。ハルトは何の研究?」
「精霊王についてだな。精霊王を連れてるのは俺だけだから」
「なるほど…」
確かに、この国で精霊王を連れているのはハルトと執事さんだけだもんね。
執事さんはこの国の出ではないらしいし、オルディーティ家一筋だから学園に勧誘したところで無駄だろうし。
研究という言い方は好きじゃないが、ハルトがルーチェとシルフィを理解しようとしているのは良いことだと思う。
「それで、姉さんはどうして…」
「決まってるじゃん。約束を果たすために、ね!」




