私が通う話、場所は学園 パート⑭
気づいたらお気に入り件数が100件を超えていました!(゜ω゜)
本っっっっ当にありがとうございます!!
電車の中なのに泣きそうです…泣
今後もよろしくお願いします!!
孤児院に戻り、ヴェルトを極端に避けていると子供たちに喧嘩したのかと聞かれた。
「シスター、いんちょーと喧嘩したの?」
「え?いや、そう言う訳じゃないけど…」
「いんちょー先生寂しがってるよ」
「いんちょー先生シスターのこと大好きだもん!」
「そうそう!シスターといんちょー先生は結婚するんでしょ!」
わいわいと騒ぐ子供たちの発言に、私は打ちのめされそうだった。
…そ、そうなんですか…
「早く仲直りしてね!」
「俺たちいんちょー呼んで来ようか?」
「いい!呼ぶな!早く仲直りするから!いいから早く寝ろ!」
「まだ朝だよ」
「いいから!」
子供たちを追い払い、私はさっさと学園に向かった。
実技試験が今日から始まるのである。
学園に行けば、畏怖の視線が九割と生暖かい視線が一割と二つの視線を注がれた。
私はと言えば昨日のことに悶々としつつ、マリアナたちに遭遇しないようにしていた。
「あ、キリヤ様!」
「ぐへっ」
呼ばれて背中に衝撃を食らい、私は廊下に見事に倒れた。
この声の主はアリスだったので、多分腰に巻きついているのはアリスだろう。
「アリスさん…」
「あ、アリスと呼び捨てください、キリヤ様!」
「それはちょっと」
「敬語もお止めください!」
…どうした?何があったのこの子。
「とりあえずアリスさん、私の上から退いてください、それと抱きつくのも止めて」
「は、はい!」
わんこのように素直にアリスは私から退いた。
私が立ち上がるとアリスも立ち上がり私の手を掴む。
…期待の籠もったキラキラした目で見られてるんだけど。
「…えーっと、とりあえずおはようございます」
「は!!私ったら、キリヤ様にご挨拶してないなんて…申し訳ありません!おはようございます、キリヤ様!」
「うん…で、キリヤ様って何?」
「昨日のお姿…私、感激しました!あの威圧された中でお一人涼しげな表情で…賢者様に向けられた慈愛のこもった微笑み!その後の恥じらわれるお姿も可愛らしくて…」
「もう止めて!お願い!何この羞恥プレイ!」
恍惚とした表情で語る彼女の口を私は押さえた。
アリスはきょとんとしていたが、素直に黙ってくれた。
「…とりあえず、急に抱き付くのとキリヤ様って呼ぶの止めてください」
「急に抱き付くのは危険ですし止めます。けれど、キリヤ様はキリヤ様です!」
「…や、でも」
「キリヤ様です!それと、私にも砕けた話し方でいいです」
「…分かった」
もう面倒になってきた。
周りも好奇の目を向けてくるしさ。
アリスが私に友好的になったんだからそれでいいか。
「じゃ、教室行こうか。今日から実技試験だったよね」
「はい!」
何故、こめかみにキスされたくらいでヴェルトのことを避けているのかと言えば、ヴェルトがそういう接触を好まないからである。
そういう接触…いわゆる、女性との性的な接触である。
ヴェルトは娼館や酒場に入り浸るが、そういう接触は全くしていない。
いや、監視してたとかじゃないけど。
本人がそう主張してたの!
一回本気で男色なのかと聞いてみたら殴られた。
心配して言っただけなのに。
組織に滞在していた時も、私だけじゃなく他のみんなにも触れ合うような行動を避けていたところがある。
だから、ヴェルトは人と触れ合うような行動を嫌ってると思ってたのに…
「あー!何も考えたくない!」
「…実技試験を始めてもいいか?」
設備の整えられた大きな部屋に私たちのクラスは集まっていた。
実技試験の会場である。
私は端で一人悶々としていたらサイアス先生に注意された。
クラスメイトは遠まわしに私を見ている。
アリスは一人だけニコニコしていた。
「…どうぞ、始めてください」
「…よし、説明を再開する。実技試験は二種類、一つ目は自分の持つ属性で現時点で出来る最も難しい魔術を披露してもらう。二つ以上持つ者は自分の得意な方で構わない。二つ目は自分の持つ魔力すべてを使って魔術を放ってもらう。魔術は何でも構わない。その威力を見て点数をつける。…わからないことはあるか?」
私は手を上げた。
サイアス先生のみならず、全ての生徒がこちらを見る。
「…なんだ?」
「本当に魔術はなんでもいいのですか?」
「あぁ。…何故そんなことを?」
「いえ、確認です」
そう、確認だ。
ここで学園長の期待に答えてあげようと思う。
昨日のマリアナたちとのやり取りを再現させるのだ。
「…わからない奴はいないな?10分時間を与える。その間に魔術を決めてくれ。…キリヤ、話がある。少しこちらに来てくれ」
「え、あ、はい」
真剣なサイアス先生に呼ばれ、クラスメイトが話し合う中、私はサイアス先生と部屋の端に向かった。
サイアス先生は前振りもなく頭を下げた。
私は慌ててサイアス先生に頭を上げて貰うよう頼んだが、頭は下がったままである。
「すまなかった」
「いえ、気にしてないしお願いですから頭を上げてください」
「…私は教師として恥ずべきことをした。君が怒るのももっともな話だ。教師であるなら、君を守らなければならなかった」
私は苦笑する。
こちらの世界では教師は聖職だが、学園内での立場は低い。
尊敬に値する人であれば、敬われ慕われるだろうが大した力を持たなければ教師など貴族の力によって簡単に捻り潰される。
サイアス先生はそれをよく知っているんだろう。
「いいんですよ。学園長は私を学ばせるために編入させたわけじゃないし」
「だが、君が生徒であるなら私はその役目を全うしなければならない。職務を怠ったのは私だ。それに…君に濡れ衣を着せた生徒の処分が甘いものになってしまった。そこも合わせて謝罪させてほしい」
「や、気にしてないんで。それに、甘いものでよかったですよ。彼女にはまだ可能性があるのに、潰してしまうのは勿体無いから」
私に濡れ衣を着せた女子生徒は一週間の停学となった。
当然、試験は零点となる。
「…先生。謝るなら賢者様にしてください。私が怒ってたのも賢者様のためだから」
「…あぁ。ありがとう」
サイアス先生はやっと頭を上げて微笑んだ。
…格好いい!
お父さんと同じ匂いがする!
渋いところがいいんで…
「おい、何してんだ、キリヤ」
「…う、わぁぁぁぁ!?」
いつの間にか背後にいたヴェルトに私は背後から羽交い締めにされた。
「な、なんでヴェルトがここに!」
「嫌な予感がしたからな」
…嫌な予感って…
「…何かあるのかな…?」
「分からん。が、嫌な予感が若干弱まったからな。とりあえず一つは防いだというか消したというか…」
ヴェルトは一人何やらブツブツと喋っていたが、私は聞いていなかった。
私の背筋を冷たい汗が流れる。
ヴェルトの感じる予感。
それをハッキリと私も感じたからだ。
嫌な予感が高まってくるのがよく分かる。
「…アリス!クラスメイトをつれて部屋の端に寄ってろ!」
「へ?は、はい!キリヤ様!」
アリスに声を掛け、部屋の端に寄らせる。
クラスメイトも訝しげに部屋の端に寄った。
私は少し能力を解放させ、クラスメイトに結界を張る。
驚くサイアス先生にそこで留まるように言い、私とヴェルトは中央へ歩いた。
…来た。
圧倒的な魔力と存在感が部屋を圧倒した。
私はその気配に違和感を感じる。
…どこかでこの気配に私は会っている。
それは静かに部屋に降りたった。
魔術ではない。魔法によって、だ。
だが、それは魔物とは違う。
私はそれを見て言葉を失った。
「…よぉ、キリヤ」
それは、異形と化した右腕で私に手を振った。
「…ディグ、ザム?」




