私が通う話、場所は学園 パート⑬
翌日、教室に入った私に真っ先に近づいてきたのは水色の髪と瞳の少女…アリスだった。
「…お、おはようございます」
「おはようございます」
挨拶されて返せば、アリスは少しだけ嬉しそうな顔をした。
席に向かえば何故か後ろからついてくる。
私は椅子に座り、鞄の中から本を出す。
本は法律について書いてあるもので読め、とトーマから渡された物である。
そういや荷物持ちいつするんだろう?
「…あの」
「…なんですか?」
相変わらず目の前に立つアリスに視線を向けた。
「…この間は…ごめんなさい」
「えーっと、別に気にしてませんよ。私も生意気でしたね。不快にさせて申し訳ありません」
「許してくれるんですか…?」
「や、別に怒ってたわけじゃないんで。許すとか許さないとかないし…」
私がそう言うと、アリスは嬉しそうに笑った。
…うん、可愛い。
「あのっ、お、お友達になって貰ってもいいですかっ!?」
「…へ?え、うん。いいですよ」
「…ありがとうございます!!」
私は思わぬ友人を得ることになった。
それから試験は何事もなく終わった。
うむ、開始五分で寝た私を許してほしい。
…だって前回より簡単になってたし。
昼食時、相変わらずマリアナの横に座らされている。今回は珍しくアリスを私が連れて来たので、マリアナとジョットに誘拐?と聞かれた。二人には後で何かお見舞いしておこう。
食事が出され、さっさと食べ終わる。
コーヒーのような飲み物を飲み、お皿は給仕の人が下げて行った。
私は、ヴェルトを待っていた。
少しして、学園長とヴェルト、トーマが入ってきた。
珍しい。
ヴェルトが力を解放している。
とは言っても一億分の一程度だけど。
だが、それに生徒たちは耐えきれなかった、
そこら中から、ガタンッと音がして皆床に縫い付けられている。
「…賢者様。ほどほどにしといてくださらんかのう。生徒どころか教師ですら耐え切れておらん」
学園長の言葉に先生がいる方を見れば、殆どが机に突っ伏している。
特殊クラスですら、誰も立っていることが出来ないでいる。
ヴェルトが一人佇む私を見つけ、手招きした。
真剣そうだったので素直にそちらに向かう。
「…よぉ。この間は来なかったよなぁ」
「だって行く必要なかったじゃん。今は賢者様が真剣そうだったから来て上げただけだからね?」
「そりゃどうも。そろそろ戻すか」
ヴェルトは力を戻した。
周りから息を整える声がしてくる。
「チッ…これだけでアレかよ。よくそれでキリヤに喧嘩ふっかけれたな」
「いや、私たちが異常なだけだから」
私の言葉に何故かヴェルトが嬉しそう顔をする。
うん、最近のヴェルトの嬉しいスイッチがよく分からない。
ヴェルトは私の腕を掴み、直ぐ隣に移動させた。
「静かなうちに言っておくぞ。テメェら、くだらん事にキリヤを巻き込んでくれてどうもありがとな。お陰で俺のやる気が無くなったが。だが、キリヤが俺にどうしてもと言ったから続けてやる」
「そんなこと言ってな」
「今後、同じようなことがあれば、俺はキリヤを連れて帰る。一生ここには来ねぇ。それに、テメェらも分かったよな?キリヤとの力の差を」
気づけば、生徒から向けられる視線は畏怖になっていた。
あれほどの重圧で立っていられたことが恐ろしかったのだろう。
マリアナたちを見ると、マリアナとジョットは自分のことのように誇らしげにしている。
…そのドヤ顔やめい!
そして、その横のアリスは、何故かキラキラした目を向けていた。
…どうしたアリスちゃん!
トーマの方をちらりと見れば、ヴェルトを恍惚とした表情で眺めていた。
…一瞬ヴェルトが身震いしたのは気のせいだろう、うん。
そして、ヴェルトは私のこめかみにキスすると、どこかに転移してしまった。
「…は?」
私は学園長に揺すられるまで、どうやら意識をそこらに飛ばしていたらしい。
「キリヤさん」
「…あぁ、学園長ですか。ええと、アレ?私は何してたんでしたっけ?」
「…先程昼食の時間が終わりましてのう。賢者様が生徒たちに忠告をしていかれましたぞ。そこまでは覚えているかのう?」
「…えー、あー……」
私は硬直した。
一瞬にして先程のことが脳裏に甦る。
「…う、あ、ぁ…うにゃー!!」
思わず力を解放して、基地のあった山まで一気に転移した。
流石に翌日までには戻ったが、ヴェルトの顔をまともに見れなかったのは言うまでもない。




