私が通う話、場所は学園 パート⑧
泣き疲れて眠ったキリヤをベッドに横たえ、俺は食堂へ向かった。
食堂にはトーマとエレナと、数人の子供らがいた。
「いんちょー先生、シスターは?」
「どうしたの?」
「シスター嫌なことあったの?」
駆け寄ってきて服の裾を引っ張りながら聞いてくる。
見上げてくる瞳は不安気で、キリヤを慕っていることがよく分かる。
「あいつなら寝てるぞ。嫌なことどころか良いことがあったんだと」
「そーなの?」
「あぁ。心配すんな。何なら俺の部屋で寝てるあいつと一緒に寝てこい」
「うんっ!」
子供らは俺の言葉に素直に頷き、食堂を出て行った。
俺は溜め息をついて食堂の椅子に座る。
目の前に水が置かれ、遠慮せずに飲む。
「…大変ですね、賢者様」
「…本当にな」
微笑むエレナに苦笑を返す。
俺がキリヤを好きだと気づく前に既に周りに知られていて、恥ずかしい思いをしたのはいい思い出だ。
エレナなんかは出会った時から気付いていたらしい。
トーマは断りをいれて目の前の席に座った。
その横にエレナも座る。
「ふふ。賢者様は本当にキリヤさんが好きなんですね」
「…まぁな。正直俺も信じられねえけど。ったく、幾つ年が離れてると思ってんだよ…」
「恋なんてそんなものですわ。それに賢者様は年を取られないのでしょう?」
「キリヤも20歳になれば年を取らなくなるけどな。…一応それまで手は出さねぇつもりだが」
「まぁ。いいのですか?学園には素敵な方もいらっしゃるんじゃないですか?」
「キリヤからしたら子供だと思うが…そうだよなぁ。外見年齢は18歳なんだよなぁ…」
テーブルに突っ伏して考える。
キリヤが相手にせずとも、周りは違う。
だからあの姿で特別講師をすることにしたのだ。
それに、困ったことにキリヤはこちらを兄か何かとしか思っていない。
いつ男にかっ攫われてもおかしくはない。
「…せめて意識さえしてくれれば、な」
もう一度溜め息をついて、今日はどこで寝ようかと考えた。
朝、起きると何故か子供たちと一緒に寝ていた。
しかもヴェルトのベッドの上で。
…確かに、泣き疲れて眠った記憶はあるが何故子供たちまで?
子供たちを起こさないようにベッドを降り、自室へ向かう。
タオルと着替えを取り、風呂へ向かった。
汗を流してヴェルトの部屋へ戻ると、子供たちはまだ寝ていた。
彼らを起こして食堂へ向かう。
エレナさんはまだ起きていないようなので、私は簡単に朝食の準備をした。
…あれ?そういやヴェルトはどこで寝てるんだろうか?
私はある程度の準備を終えると、ヴェルトの気配を探った。
酒場にいるのかと思えば、気配は孤児院の中からしていた。
私はヴェルトに会いに、気配の元に向かった。
ヴェルトがいたのは孤児院の中でも陽当たりの悪くカビ臭い一番悪い部屋だ。
ついでに、その隣の部屋が私の部屋だけど。
…まぁ、私の部屋も陽当たり悪いんだけどね。
一応ノックして、部屋に入る。
部屋にはベッドと箪笥しかなく、そのベッドの上にヴェルトはいた。
寝ているらしく体が規則正しく上下に動いている。
「…ヴェルトー?」
ヴェルトの肩を掴んで揺すると、腕を掴まれ引っ張られた。
「うぉわっ」
頭から勢いよくベッドに倒れた。
しかも、腹をヴェルトで打った。
「…ってえな」
「…それこっちの台詞だけど!」
ヴェルトの上に乗っかったまま軽くヴェルトを叩く。
「…昨日はありがとう。ベッド占領してごめんなさい」
「別にいい。ガキどもが心配してたぞ」
「うん。起きてから心配された。みんなにも心配かけてごめんって謝らないとね」
「そうだな。…それで?親に会いに行くのか?」
「え?行かないけど」
「は?何でだよ。というか弟にも自分の正体バラせばいいだろ」
「…あはは…それがさぁ…」
「…」
「恨まれてるみたいなんだよねー」
「…詳しく聞かせて貰おうか、キリヤ」
賢者様どころか、悪人さえも真っ青になりそうな笑みを浮かべたヴェルトに私は曖昧な笑みで返した。
「…いやさぁ、弟を狙った襲撃があってね?それで反撃しようとしたら失敗して…お母さんとお父さんを傷付けちゃって…どうやらそれを恨んでるらしくー…」
「…隠し事はねぇって言ってたよなぁ?」
「隠してたわけじゃないし…聞かれなかったから」
「…チッ…やましくねぇなら言っとけ。…もしかして昨日泣いてたのは恨まれてるって知ったからか?」
私はヴェルトの視線から顔を背けた。
勿論、図星だったからである。
ヴェルトの方から何か切れたような音がして、顔を掴まれヴェルトの方に向かされる。
私の口はひょっとこみたいになっているだろう。
「ふぇるほー!いはいいはい!」
「テメェは…!」
ヴェルトに散々怒られて、子供たちが探しにくるまで床に正座をさせられた。




