私が通う話、場所は学園 パート⑦
それから特に何かあるわけでもなく、3カ月が過ぎた。
私は適度に授業を受け、適度にいじめをかわし、適度に寝ていた。
「…うーん…お父さんとお母さんが見つからない」
私は現在、両親を探す活動に力を入れていた。
とは言っても自分じゃ余り動けないため、精霊に頼んでいるのだが。
アルベルト様を探ろうにも精霊王が三人もいる屋敷に精霊は送れないので、メアリアからそれとなく話しを聞いている。
どこにいるのだろう。
出来るなら、アルベルト様に保護されていてほしい。
…というか、お父さんは生きているのだろうか?
暗い思考に堕ちそうなところを止め、私は精霊に話しかけた。
そうだ、ハルトに聞こう。
ふとそんな考えを思いついた。
この間のことをネタに話しを聞き出せばいい。
そう思い立った私は特殊クラスへ向かった。
ハルトは教室の隅で精霊と会話していた。
ルーチェとシルフィの気配をそれとなく感じるから、きっと彼らが近くにいるに違いない。
まぁ、バレなきゃなんでもいいや。
私は躊躇いもなく特殊クラスに足を踏み入れる。
迷わずハルトの方へ進み、ハルトの前に立った。
精霊との会話を中断されたハルトは鬱陶しそうにこちらを見た。
…この間は憤慨していたせいか気づかなかったが、ハルトは本当にお父さんよりも大きくなっていた。
あんなに可愛かったハルトが…
「何だ。最下層クラスが何の用だ」
「君、ハルト=オルディーティ君でしょう?この間、私を転ばせようとした」
「何の話しだ?俺がお前を転ばせようと?馬鹿じゃないのか?」
「…はぁ。折角、お姉さんの捜索について話しがあったんだけど…ま、そんな態度じゃ駄目だよね。私の話なんか聞いて貰えなさそう」
じゃあね、と私が手を振って踵を返すと、腕を掴まれた。
「すまない、話しを聞こう」
「…は?言葉遣いは?何で上から目線なのかなー?」
「…何だと?」
「ほら、聞かせて下さいお願いします、でしょう?」
私は意地の悪い笑顔を浮かべ、ハルトの手を振り払った。
ハルトは嫌そうに顔を歪めたが、小さな声で、「聞かせてくれ、頼む」と言った。
…はぁ。アルベルト様、どんな教育したの?
私とハルトは中庭で座っていた。
特殊クラスにいると目立って仕方なかったからだ。
「…それで、どうして俺が姉を探してると?」
「あぁ。噂になってるよ。マリアナが教えてくれたんだ」
「…なるほどな。姉を見つけたのか?」
「違う違う。賢者様に頼んであげようかって話し。あの人なら世界最強だし、無事見つけてくれると思うんだけど」
「確かに…」
「頼む代わりに、どうしてお姉さん探してるか聞いてもいい?」
「…いいだろう。別に隠してるわけじゃない。…姉さんは罪を犯したんだ。アルベルト様は裁くつもりはないが、俺は姉さんを許せない。だから、見つけて俺が裁く…」
「…そう。…あれ?どうしてお父さんをアルベルト様なんて呼んでるの?」
「実の父じゃないんだ。俺の本当の両親は別にいる。父さんと母さんは今はアルベルト様に世話になってる」
なるほど…
やっぱりお父さんとお母さんは無事だったのか。
よかった…
「ふーん…ごめんね、言い辛いこと聞いて。賢者様に話してみるよ」
「…頼んだ。見つけたら姉には接触しないで欲しい。場所を俺に教えてくれ」
「分かった」
私は中庭を離れた。
そしてそのまま学園を出て行った。
ヴェルトの気配を探し、街に向かう。
ヴェルトはこの間とは違う酒場にいた。
相変わらず少しいかがわしい酒場で、相変わらず数人の女性がヴェルトの周りにいた。
私は女性たちを押しのけ、ヴェルトに抱きつく。
「誰だ!?…キリヤか?」
「…」
私はヴェルトに抱きついたまま、軽く頷いた。
「…何だよ。また連れ戻しにでも来たのか?」
「違う…」
「…はぁ。悪ぃな。今日は帰る。釣りはいらねぇ」
ヴェルトは懐から銀貨を一枚出してカウンターに置き、私に抱きつかれたまま店を出た。
キリヤの様子がおかしい。
それは誰の目からも明らかだった。
俺から離れないのだ。
酒場を出てから素直に孤児院に帰る最中でさえ抱きついたままで、身長差があるから仕方ないので抱えた。
孤児院に入ると、子供らが出迎えてくれたがキリヤは「ただいま」と言うだけ言ってまた俺の肩に顔を埋める。
子供らもキリヤの様子がおかしいことに直ぐに気づいて、何時もの構って攻撃は来なかった。
俺はキリヤを抱え、部屋に戻る。
俺の部屋はこの孤児院で一番広く、陽当たりもいい。
キリヤがわざわざこの部屋にしてくれたらしい。
部屋の隅に置かれたベッドに座り、キリヤを抱えるのも辞めた。
あー、腕が痛ぇ。
「…で?どうした?」
頭を撫でると、撫でた場所からキリヤの髪は黒に戻っていく。
魔術を解除したんだろう。
「………てた」
「何だ?」
「生きてたの。お父さんとお母さんが」
そう言ったキリヤはバッと顔を上げた。
その顔を見て、思わず息を止める。
泣いていた。
キリヤが泣いていたのだ。
少なくとも俺は一度も見たことはなかった。
「っ、生きてた、んだって。ハルトが、言ってた。今はアルベルト様にお世話になってるって」
「ハルト?」
「弟なの。で、私のこと探してるって言うから。それとなく探り入れてみたんだ。そしたら、両親は生きてるって…」
「…よかったな」
「うんっ…よかった、本当によかった…!」
その後、キリヤはぼろぼろと静かに泣き、また俺に抱きついた。
思わず溜め息を吐きたくなる。
…せめて俺が自分の気持ちに気付く前にしてほしかった。




