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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
学園、もしくは再会
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私が通う話、場所は学園 パート⑤

 

 

青年は私に恭しく一礼した。


「はじめまして。俺はジョット=サトライト。サトライト次期伯爵で、マリアナの婚約者です」

「ご丁寧にありがとうございます。私はキリヤです。お会いできて光栄です」

「こちらこそ。マリアナから貴女のお話は伺ってます」


お互いに笑って握手する。

彼は紺の髪と目をした、一見優しそうな青年に見える。

…だが、マリアナを見る目が異常だったので、きっとヤンデレとかに分類されるものだと思う。

…本人幸せなら何でもいいです。


「ジョット!勝手にキリヤと喋らないで下さる?貴方は次期伯爵なんだから先に名乗るなんて…」

「いいんだ。だって彼女は君のお姉さんのようなものなんだろう?」

「…そ、そんなんじゃなくってよ!もう!キリヤも否定しなさいよ!」

「可愛い妹を宜しくお願いします」

「もちろんです」

「ちょっと!」


私はムキになって突っかかってくるマリアナをジョットと挟み、食堂へ向かった。






食堂には既に多くの生徒たちがいて、それぞれ席に着いている。

貴族様の学園なので、食事は全員揃って、マナーを重視しながら食べる。

席は自由だが、暗黙の了解とやらで、平民はこの場所!と決まっている。

マリアナはそれを無視して、私の腕をひっ掴み貴族席に無理やり座らせた。

あぁ、視線が痛い。

先生ももちろん一緒に食事をすることになっていて、先生たちは皆奥の席に固まっている。

学園長は居ないらしい。

あれか?この場でヴェルトを紹介するのか?

しばらくして生徒が全員席に着いたらしく、昼食の鐘が鳴った。

すると、どこからか大量に人が現れ、給仕をしていく。

料理が全て出されると、給仕の人は消え、先生の一人が立ち上がり、神様に何か祈りを捧げた。

それに倣って周りも祈り、やっと食事が始まる。

ついでに、私は神様には元気ー?とだけ祈った。

それが祈りなのかは謎だが。

静かに食事をしていると、何故か私に視線が集まっていることに気づいた。

不思議に思ってマリアナの方を向くと、何故かマリアナが得意気な表情をしていた。


「君は随分綺麗に食事をするんですね。一応平民の出なんでしょう?」


マリアナの奥にいるジョットにそう言われ、私は周りの視線の意味に思い立った。


「あぁ…マリアナの家に出入りしてたからですよ」

「嘘言わないで頂戴。初めてわたくしの家の晩餐会に招いた時には既にそうだったじゃない」

「…」

「へぇ。やっぱり賢者様と一緒だったからですか?」

「違うわ。だってキリヤは賢者様よりもマナーが良かったもの」

「…では一体どこで…」

「…マリアナ」


私がマリアナの名前を呼ぶと、マリアナははっとした表情になり、必死に謝ってきた。

さすがに話しすぎたことには気付いたらしい。


「はぁ…まぁ別にいいよ。お母さんがマナーに厳しい人だっただけ。それが癖になってるのかね」


私はわざと姿勢を崩し、肘をテーブルに付き持っていたフォークを揺らした。

こういう悪い姿勢だってもちろんできる。

ただ、前世の癖というやつだろう。


食事を終え、コーヒーらしき飲み物を飲んでいると、学園長がやっと入ってきた。

後ろにはローブを纏い、顔を隠した怪しい奴がいる。

もちろんヴェルトだが。

学園長とヴェルトは少し高くなっている場所に立ち、視線を向けてくる生徒たちを見渡した。


「ふむ。皆揃っているようじゃのう。知っている者がほとんどじゃろう。本日より、賢者様が特別講師としていらして下さった。…賢者様、どうぞ」

「…あぁ」


…ん?

なんか、違和感が…?

ヴェルトはローブを脱ぎ捨てた。


「…っ!!?ちょ、えぇ!?」


私は思わず立ち上がり、大声を出した。

ヴェルトは薄く笑って私に手招きをした。

私は顔をひきつらせて拒否しといた。

何と、ヴェルトは老人の姿をしていなかった。

それどころか、若返っていた。

30代前半だった容姿は20代前半のものになっていて、髪も瞳も真っ黒。

周りを見れば、女の子たちの視線に熱いものが混じっている。

あぁ、恐ろしい!!


「俺が賢者だ。名前は言えねぇから…まぁ、賢者って呼べばいい。週に二回、講義をすることになってる。座学と実践、両方やる予定だ。…宜しくしなくていい。人間には興味ねえからな」


ヴェルトはどうでもよさそうに挨拶をすると、脱ぎ捨てたローブを拾って出て行った。

…ローブを拾ってのはいつも私に怒られてるからだな、あれ。

私は急いでヴェルトの後を追った。






「ヴェルト!」

「…名前呼ぶんじゃねえよ」

「賢者様!」

「…」


素直に訂正してあげたのに、ヴェルトは嫌そうな顔をした。


「どうしてそんな恰好してるの?老人姿は辞めたの?」

「あぁ。ちょっとな」

「…まぁ、賢者様がそれでいいならいいけどさ…何?学園長に何か言われて?」

「…言われたっていやぁ言われたな。脅されたとかじゃねえぞ。考えさせられたんだよ」

「何を?」

「…虫除け」

「いや、虫除けどころか虫が寄ってくるでしょ…」


ヴェルトはとても顔が整っている。

当然、女の子たちには魅力的に映るはずだろう。

それに、珍しい黒髪黒眼だ。

賢者じゃなくったってモテるに違いない。


「…気にすんな。それで?キリヤは上手くやってけそうなのか?」

「うーん、どうだろうね?どうしても嫌なら直ぐに辞めちゃえばいいし」

「確かにな。そういや、トーマから聞いたか?」

「…何を?」


と、背後に気配を感じ、振り下ろされるものを受けた止めた。


「チッ…残念ですね」

「…何してるの、トーマ」


振り返ればトーマがいた。

振り下ろされた物は分厚い本で、背表紙に魔術学と書かれている。

相変わらず執事っぽい燕尾服に、片眼鏡をしている。


「トーマは今日から俺と一緒に特別講師だ」

「賢者様と同じ場所で働けるなど…至極恐悦です。何かあればお申し付け下さい」

「…マジかよ…」


私は地面に伏せて嘆きたくなった。

何てことだ。

私の学園ライフは一瞬にして崩れ去ったと言ってもいい。というか、崩れ去った。


「キリヤさん。私が教えたことはちゃんと覚えていますね?」

「…そりゃね…」

「それなら授業など寝ていても構わないでしょう。貴方は賢者様に言い寄る女どもを排除することだけ考えて下さい」

「…うっす」

「おい。んなことキリヤにやらせるなよ」

「蛇の道は蛇。女には女ですよ」

「…キリヤを女ってのもなぁ」

「同感ですが」


そんな会話を無視して、私はトボトボと食堂に戻った。



 

 


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