私が通う話、場所は学園 パート④
この魔術学園は六年制で、15歳で入学した場合は21歳で卒業の資格を取れる…が、卒業できるかどうかはまた別らしい。
優秀であれば研究者として引き止められ、先生となる者も出てくる。
また、一定の成績を出せなければ留年という可能性もある。
私は三年生の学年に編入してきた。
マリアナが同じ学年というところが大きい。
さて、改めて目の前の少年を見てみよう。
髪はピンク色で、目は真っ赤。
私と同じ年か幾分上だろう。
魔力と彼の色からして、火の属性が強く、少し風の属性があるようだ。
私は余所行きの笑みを浮かべ、彼に問いかけた。
「どうしましたか?」
彼は私を睨んでいて、何故かしらないが殺気立っている。
「………ろ」
「はい?」
「賢者様を解放しろっ!!」
「…………………はい?」
「お前、賢者様の弱みを握ってるんだろう!?それで大して多くもない魔力でこの学園に入学するために賢者様を脅したと聞いている!」
…うーん?これは…
よく見れば、私に嫌悪の感情を向けていた者たちは皆彼の言葉に頷いている。
…あれか!トーマと同じ人種!!
「…ついでにその情報はどちらから?」
「ミーナ先生が仰っていたんだ!」
…おいおい…ミーナ先生、何言っちゃってんだよ。
私は溜め息を吐いて、椅子を引き、机…ではなく空気の上に足を乗せた。
この学園には制服とかはないので、私は平民丸出しのくたびれた恰好をしている。
勿論ズボン姿だ。
「それは楽しいお話ですね」
「なんだと!?」
「賢者様は世界最強ですよ?どのような弱みを私が握ったとでも?それに、握らせておくくらいなら殺したほうが何倍も楽だと思いませんか?」
「賢者様はお優しい方ゆえ、女を殺すなど出来ぬ方なのだ!」
私は彼の発言を鼻で笑った。
「貴様…!」
「馬鹿馬鹿しい。賢者様は聖人君子じゃないんです。必要であれば子供の一人でも二人でも殺しますよ」
「賢者様を愚弄するのか!」
彼は腰にぶら下げていた剣を抜いた。
殺気立った周りの者も、数人武器に手を添えている。
心配そうに見つめる者が五人、我関せずといったようなのが三人…
「…お辞めなさい!!」
教室に怒声が響いた。
私が扉に視線を向けると、そこにマリアナが仁王立ちしていた。
少年はマリアナを見て、驚きに目を見開いている。
「な、なぜマリアナさんが…」
「わたくしがここにいるのが何か問題でも?」
「いえそんな!このような場所にいらして下さるだけでも光栄です!」
マリアナは金髪緑眼の美女である。
メアリアは緑の髪と金の瞳なので、メアリアとマリアナは同じ属性を持っていることが分かる。
マリアナはツカツカと少年と私の前にやってきた。
少年を軽く眺め、マリアナは私に視線を移す。
「…怪我はさせてないわね?」
「させてません。やられたらやり返すけど」
「やめて頂戴。はぁ…どうして貴女がこのクラスなの?」
「え?魔力量的に?」
「馬鹿言わないで!賢者様の大切な人なのよ!?特殊クラスですらおこがましいわ!」
「や、それは言い過ぎだと思う…」
特殊クラスとは卓越した力を持つ生徒たちの集まるクラスだ。
学園で10人と少ないので、まるで王のように崇められてるらしい。
勿論ハルトもそのクラスの一員だ。
「ま、マリアナさん?そいつとお知り合いなのですか…?」
「ええ。だってわたくしのお姉様が賢者様を助け出したのよ?賢者様の大切な人であるキリヤを知らないわけがないわ」
「大切な、人?」
「そうよ。賢者様はキリヤを溺愛してらっしゃるの」
「まぁ親子みたいなもんだし」
「…今は、とだけ言っておくわ。…賢者様に同情するわ」
マリアナの話に少年たちが疑いの目を向けてくる。
中には青ざめている者もいる。
「言っておくけれど、貴方たちにキリヤは倒せないわよ。死にたくなければその剣を仕舞いなさい。わたくしだって一度も勝てた試しがないのだから」
「マリアナさんが!?そんな…成績優秀で特殊クラスにと言われているマリアナさんが…」
「え、マリアナってそんなに強かったの?」
「そうよ。キリヤたちが規格外なのよ!特にお義兄様!あの方は人間じゃないわ」
「それ聞いたら泣いちゃうから止めてあげて。ミゼンは可愛い義妹に嫌われないように頑張ってるんだからさぁ。そういえば懐かしいね、昔強すぎるミゼンのこと嫌いって言ったらミゼンから哀愁が…」
「もう!昔の話はやめて頂戴!…今は嫌いじゃないわよ!」
「私のことも?」
「っ…!キリヤ!楽しんでるでしょう!!」
私とマリアナの楽しそうな様子に、少年たちは茫然としていた。
マリアナと私はお昼の約束をすると、マリアナは自分のクラスに戻って行った。
その後、クラスからは遠巻きにされるようになった。
授業を適当に受け、マリアナのクラスを探す。
マリアナは秀クラスの一員で、成績優秀な者のクラスだ。
廊下をふらふらしていると、周りからそわそわと話声が聞こえた。
…大体は少年が言っていた内容と似たようなもので、中にはマリアナさえも脅されていることになっている。
友達が出来るのはまだまだ先の話になりそうだ。
「待て」
肩を掴まれ、後ろに引かれる。
まさか引かれるとは思わない私は後ろにひっくり返りそうになった。
というか、力加減をしてほしい。
振り返れば、銀髪で、碧の瞳の少年が鋭い視線を向けていた。
…こ、こいつは…
ハルトだ!!
「…えーっと、どちらさまですか?」
「あんたが今日編入してきたというキリヤか?」
「…だから、どちらさま」
「…別人か」
ハルトは私を頭から足まで見ると興味を失ったように去って行った。
…ハルト君、お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないんだけど。
憤慨していると、また肩を掴まれた。
今度は誰だか分かる。
「お腹空いたんだけど」
「ちょっと!ハルト様に何を言われたの!?」
マリアナである。
彼女は私の両肩を掴み、前後に揺すった。
気持ち悪そうな私を見て、マリアナの背後の青年がマリアナにストップを掛ける。
「うぇ…気持ち悪い…」
「それで!何言われたのよ!」
「うー…別人だって。何あの人。誰か探してんの?」
「そうよね。キリヤがハルト様のお姉様なわけないわよね…」
「ふーん。お姉ちゃん探してるんだ。大変だね。…それで、そちらはどなたかな?」
私はマリアナを愛おしそうに見つめる青年に視線を移した。




