私が働く話、それから新たな生活 パート②
二時間ほどかけて着いた先は、王都の外れ。
そこには、ついこの間には無かった大きな建物が建っていた。
「…すげぇ!」
「ここが俺らの孤児院…」
皆からそれぞれ声が上がる。
私は孤児院を目を細めて見た。
なんだか、眩しく感じたのだ。
業者さんは既に引き上げていて、新しい建物だけが、ポツンと建っている。
そう、王都の外れと言っても、本当に外れなのだ。
隣の家に行くまで徒歩で30分は掛かる。
…それもうお隣さんとは言わない。
しかも、孤児院の隣は森があり、魔物が生息している。
…業者さんはヴェルトの結界で守ってました。
メアリアを先頭にして私たちは孤児院に入った。
見た目通り中も広く、講堂、食堂、風呂など、様々な部屋があった。
また、小さな部屋が30以上あるようで、子供たちの部屋や私たちの部屋になるらしい。
そのうち幾つかの部屋にはベッドや箪笥が運び込まれている。
…すげーわ。ちゃんと私が持ってくって言った数だけ空けてある。
一通り見終わると、私たちは中庭に集まった。
「…今日からここはあなたたちの孤児院よ。わたくしの為にも頑張って頂戴。…賢者様、後はお任せ致しますわ。セロン、終わったら皆を連れて帰ってきなさい」
メアリアはぶっきらぼうに言って、ウェーブ掛かった緑の髪をなびかせ、ヒールをコツコツと鳴らして去って行った。
誰かが「…かっけぇ」と言ったのが聞こえた。
うん、かっけぇ。
「…よし、お前ら、引っ越しすんぞ」
皆でメアリアを惚けながら見送っていると、ヴェルトが私たちに声を掛けた。
引っ越しには王都に部屋を借りている大人も動員し、基地のベッドやら箪笥やらテーブルやらを運んだ。
え?魔術は使わないのかって?
最近の私は最低限の魔力しか解放していないので、転移陣に魔力を流すだけでも疲れるのだ。
そういうことはヴェルトにお任せしよう、うん。
大人組は結婚するまではこの孤児院に置いてやることになっているが、さっさとギルドで稼いで王都に移り住んで欲しいものである。
「…ひでぇ。俺ら結婚とかできるわけ…」
「本当だよな…中には40過ぎてる奴だっているのに…」
「ミゼンとかセロンみたいな格好いい奴らなら早いだろうけど…」
「…もういっそのこと一生この孤児院でお世話になろうぜ!」
…いけない、口に出ていたようだ。
「…俺は格好いい、のか?」
「リーダーは顔整ってるからねぇ。僕は若いからじゃない?」
「そんなことよりさっさと働いてよ!力有り余ってる大人が子供より働いてないってどうゆうことだ!」
私が怒ると、みんなそそくさと引っ越しを再開した。
私はもちろん手伝ってない。
孤児院で運んでくれてる皆の誘導をしたりしているからだ。
…というか、あんな重い物を持つ力はありません!
夕方になってやっと引っ越しが終わり、私とヴェルトは基地に来ていた。
「…本当に山に戻していいのかよ?」
「いいよ。ここは私にとってはいい思い出しかないけど、皆からしたら辛い思い出もあるから。…それに、誰かに悪用されたりしたらたまったもんじゃない」
「分かった。洞窟の外に出るぞ」
私とヴェルトは洞窟から出た。
ヴェルトは洞窟の前に跪いて地面に手を置く。
そして、何かを呟いた。
途端にヴェルトからケタ違いの魔力が放出され、ゴゴゴゴ…と地響きと地震が起きた。
地響きと地震は数分続き、それが終わるとヴェルトからの魔力はなくなり、ヴェルトは立ち上がった。
「終わったぞ」
「んー…本当だ。どこにもあの空間はないや」
「当然だろ。俺を誰だと思ってんだ」
「賢者様」
「…」
「…じゃ、帰ろっか。きっと皆待ってるよ」
「…そうだな」
私とヴェルトは基地のあった場所を後にした。
私とヴェルトが基地に帰ると、やはり皆待っていて、私とヴェルトの帰りを喜んだ。
「おう!おかえり!待ってたぜ!」
「せっかく全員いるから酒飲もう!酒!」
「キリヤ!飯!」
「キリヤの飯は美味いからなぁ」
「王都組は何食ってんだ?」
「買ったりしたやつとか飯屋とか…」
ヴェルトは大人に引っ張られて酒盛りが始まり、いつの間にか打ち解けた子供と大人でカードで遊び始めたり。
私はそれを見て笑いながら調理場に向かった。
ま、私の作ったご飯を美味しいって言った奴がいるからね。
せっかくだし、腕を奮ってやろう。




