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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
復讐、もしくは出会い
28/134

幕間① 彼が見た少女、その思い入れとはいかなるものか。

ヴェルト視点。最後、少しだけネタバレのような場所がありますが、気にせず読んでいただいて結構です!

 

 


化け物と呼ばれ、100年。

賢者と呼ばれ、それからもう100年。

今、ヴェルトは運命の存在に会った。



50年前の夜、ヴェルトの夢に酷く美しく、冷酷で、なのに温かい気配を持つ男が現れた。

男は色彩を持たず、しかし鮮やかな色彩を持っていた。

ヴェルトが見難い、と思うと男の色はヴェルトと同じになった。

ヴェルトは驚く。

この男、一体何者だろう。

夢に異質なモノを入れたくなくて、ヴェルトは100年前から夢に鍵を掛けていた。


「はじめまして、ヴェルト」

「…何だテメェ」

「君の夢は色々鍵が掛かっていて私ですら入るのに苦労したよ。何者かって?私は創造主。君たちからは神と呼ばれている」

「…テメェの妄想に付き合う暇はねえ。失せろ」


ヴェルトは夢の中で相手に攻撃した。

夢の中では、ヴェルトは最強だった。

無意識に抑えている力が、夢の中では解放されているからだ。


「…いきない危ないな。私は君に危害を加えるつもりはないんだ」

「…どうして無傷で…!」

「はは。だから言ってるだろう?私は神だって」


ヴェルトはもう一度攻撃を試みた。

だが、やはり男は無傷だ。


「…チッ。まぁ話だけは聞いてやる」

「はは…それはどうも。この世界にコーヒーはあったかな…まぁいい。甘いものと苦いもの、どちらがいい?」

「…知るか」

「では甘いものを」


男が指を鳴らすと、ヴェルトの夢なのにテーブルと椅子が現れ、テーブルの上にはカップが置かれていた。

ヴェルトは男より先に椅子に座り、カップに口をつける。

白いそれは、ほんのりと甘かった。


「さて、話しをしようか」

「…」

「まずは君に謝っておこう。君という存在は私の意志で生み出したわけではない。君の住む世界が、君を必要だと思い生んだ。だが、そのせいで君には辛い思いをさせてしまっている。悪かった」


頭を下げる男にヴェルトは何と言えばいいか分からなかった。

…俺は、必要とされていたのか?


「苦しんでいる君に朗報だ。そう遠くないうちに、君をその孤独から救う存在が現れる。その存在に君は気付けないが、相手は君に気づくだろう」

「…俺を、救う存在?」

「やっと私と同等の魂を見つけた。しかしそれは別の世界に行ってしまった。だが、近いうちに魂を連れてこよう」


男は冷酷さを消して笑った。

神に相応しい慈愛に満ちた笑みだった。


「…遠くないうちとはいつだ」

「そうだな…早くて40年後。遅ければ100年後。それまで、申し訳ないが、待っていてくれ」


男はそう言って、夢から消えていった。

その後、ヴェルトは男が神であると信じ、男は何度かヴェルトの夢に現れた。






40年後。

ヴェルトは光る魂が空を駆けていく夢を見る。

それはヴェルトを救う存在が現れたという啓示だと、ヴェルトは確信した。

その日からヴェルトはその存在を探し始めた。






それから7年、ヴェルトはとある組織に捕らわれる。

その組織は10人の大人と6人の子供が属する暗殺組織だった。

その16人のうち、女は最年少の少女のみで、しかもその少女が組織の実権を握っているようだ。

正直なところ、この組織のことなど放っておいて、自分を救う存在を探しに行きたかったが、彼らを見捨てることも出来なかった。


「ヴェルト!」

「ヴェルト、遊んで!」

「僕は魔術!」


無邪気に接してくれる子供たちに、孤独な心が少しだけ癒される。


「ヴェルト、酒飲もう」

「ヴェルト、カードやろうぜ」


躊躇せず、声をかけてくる大人たちに忘れかけていた楽しみを思い出す。


そして何より、この組織の実権を握る少女に、ヴェルトは救われていた。


彼女はこの酷い組織を快適に変えていった張本人だという。

たった半年の間に基地を改造し、衣類を整え食事を豊かにし、子供たちと遊びと称して勉強する。

しかも、よそよそしい子供と大人の関係を変えようと色々動いているらしい。

そんな彼女はヴェルトを組織に加えて、ヴェルトをこき使い始めた。


最初は風呂の水道をお湯に変えることから始まり、山に張られている結界の強化、夏場の鍛錬場作り、薬草の栽培場所、畑作り…

今までの人間はヴェルトを恐れ、ヴェルトに力を使わせないようにさせた。

だが、彼女は持っている力を使えとばかりにヴェルトをこき使った。


そして約3年後。

彼女が恩人に会うと出て行き、ヴェルトは不安で仕方なかった。

本当に恩人に会いに行ったのだろうか。

危険なことに巻き込まれていないだろうか。

…もし、恩人に会って保護され、帰って来なければ?

ヴェルトは、また大切な人を失うのかと、本気で思った。


彼女が泥だらけで帰って来たとき、ヴェルトは怒りに震えていた。

よく見れば、血も出ている。

どうして彼女を行かせたのか。

自分は他者を圧倒する力を持っているのに、少女1人救えないのか。

自分に対する怒りに、ヴェルトは初めて泣きたくなった。




その翌日、彼女から「私がヴェルトを救う」のだと言われ、混乱しながらも、ヴェルトは歓喜した。


俺を救うのが、彼女でよかった、と。




 


神様の口調は、ヴェルトだからこんなふうに聞こえるんです。

神様の口調は人それぞれ聞こえ方が違うのでキリヤであれば、

「よぉ、ヴェルト。俺が何者か?神だ」

とでも聞こえてます。

もしミゼンとかであれば、

「儂は神である」

とか聞こえちゃってます。


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