私が見つける話 パート④
どのような経緯で私のことを知ったのか分からない。
けど、申し訳ないが私を探しているらしいピーターに私のことをまだ教えるつもりはない。
…だって彼だってこんな子供が自分を助けてくれるなんて、嫌に決まっている。
せめて魔力や力が戻ってから私のことをバラしたい。
…あ、でもあと2年ちょっとじゃん。
まぁそれは置いておくとして。
「ピーターさんは人を探してるんですよね?」
「…あぁ」
「それなら尚更ここに居たほうがいいですよ」
「…何故?」
「私達は暗殺組織です。自然と情報が集まります。ピーターさんの探してる人の情報も入るかもしれませんよ?」
私の発言に彼は考え込んだ。
頼むよー。あんた逃げたら私達が怒られるんだってー。
それにあの馬鹿主は彼のことを甘く見ている。
逃げ出すことはいつでもできるのだ。
「…俺が逃げるとテメェが殺されるんだったか?」
「はい。なのでとーっても迷惑です」
「とーってもを強調すんな。はぁ…分かった。ここに居てやるよ」
「…やったー!これでお風呂からお湯が出る…!」
「…は?」
この基地のお風呂、未だに改造出来ておらず、まだ水しか出てこないのだ。
だけど、彼に細工して貰えばお湯が出るようになる!
「わーい!本当によかったですよー。これからの時期に水風呂とか殺す気かって話だったんですよ。ふふふ…」
暗い笑みを漏らす私の肩に手が置かれた。
振り返れば、ミゼンがその笑いはやめろ、と目で言っていた。
私はそれに笑みを深めることで返事をし、ミゼンは溜め息をついた。
「…済まない、スーウは自分の欲望に正直なところがあるんだ。俺はミゼン。あんたを連れてきたのは俺だ」
「あぁ。あんたがこの組織のリーダーだな。その暗殺術は人間の域を越えてる。獣人に対抗出来る…な、その実力なら」
ミゼンは褒められ慣れてないので、戸惑っている。
こっち見んな。…ちゃんとお礼を言いなさい。
「…ありがとう。はじめて言われた」
「事実を言ったまでさ。…俺はヴェルト。そのガキが言った通りピーターは偽名だ」
「そうか…」
「で、俺はここで何をしてればいい?それに俺を狙った奴は誰だ?」
「…アルテルリア王国の貴族だ。名前は俺しか知らない。…後で話す。ここでは好きに過ごしてくれ。…スーウの話は聞かなくてもいいぞ」
ミゼンは私達を守るため、馬鹿主の名前は誰にも知らせていない。
それに、子供に殺しはさせない辺り、ミゼンはお人好しだ。
そう、私達子供は誰も殺しをしていない。
屋敷に忍び込んで情報を盗んだりする諜報活動が子供の役目で、殺しは大人が2人一組になって行うのだ。
はー、ホント、この組織の大人は馬鹿ばっかり。
守られてることに子供は感謝してる。
だから、ディスたちはミゼンたちのことを嫌っていない。
それどころか尊敬してるし、話を聞く限りでは大好きらしい。
「ミゼンは私が水風呂で熱出して寝込んでいいの?」
「…スーウは大丈夫だろう」
「根拠のない自信はどこから来るんだ。私はお湯に浸かりたいのー!」
それに洗濯だってお湯のがよく汚れが落ちるんだぞ!
と、まぁ私の主張は無視され、私は舌打ちをしておいた。
そのうち自己紹介大会が始まり、私はふてくされながら後片付けを始めた。
意外にも、ヴェルトは子供たちとも直ぐに仲良くなった。
特にスーイとスートレが懐き、魔術を教えて貰っている。
2人は魔力はあるものの魔術は使えなかったので、ヴェルトに教えて貰って喜んでいる。
私もその講座を聞いて魔術の予習をしておいた。
…スーイとスートレがそれぞれ魔術で水と雷を出した時は悲しくなりましたけど。
「おい、赤が足りないぞ」
「あれだけ買って!?ヴェルト使いすぎ!」
そして今はヴェルトに水道の細工をして貰ってる。
ヴェルト自身が水風呂に耐えかねたんだろう。
一昨日急に、「絵の具買ってこい」と言われた。
昨日は指定の赤と黒の絵の具を大量に買ってきて、今日、魔術陣製作に入った。
「俺にやらせておいてその台詞はねぇだろ」
「ヴェルトは水風呂に耐えれるの?」
「…チッ」
「ほら、そこでそんなに使うからでしょ!てかまだ赤残ってるし。…私が描いてあげようか?」
ヴェルトは不器用らしく、陣を上手く描けていない。
陣自体は誰が描いても魔術をかける人がいればいいので、私が描いても問題はない。
「…頼む」
「はーい」
紙に書かれた陣を水道に書き写していく間、ヴェルトはふてくされたように私をみていた。
「ねぇ、ヴェルトが探してる人ってどんな人?」
「…知らん」
「…知らないのに探してるの?」
「まぁな。でも、俺はそいつにすげぇ会いたい。そいつは俺を救ってくれる人だからな」
「…知らない人なのに自信満々だよねぇ」
「うるせぇ。神がそう言ったんだよ」
「…」
私は痛い人を見るような目でヴェルトを見てあげた。
うう、事実かもしれないけど痛いよ。
どれくらいの痛さかって?
お隣のお兄さん並み。
「テメェ喧嘩売ってんだろ」
「売ってない売ってない。見つかるといいね」
「…まぁな。向こうは俺を見たら気づくらしいんだが…俺は分からんらしい」
「へー。面倒な。あ、ヴェルト、出来たよ」
「…早いな」
ヴェルトに完成した魔術陣を見せるとヴェルトは頷いた。
「これなら3年は保つな。テメェはどいてろ」
言われた通りヴェルトから離れ、魔術をかけるところを眺める。
ヴェルトは神様(笑)並みだから、詠唱も媒介も必要ない。
一応パフォーマンスのためか、それっぽい言葉を並べて魔術を完成させた。
「お見事!よーし、これでお湯に浸かれるぞー!」
「よかったな。あー、疲れた」
「おっさんは大変だね」
「誰がおっさんだ。吊すぞ」
「恐ろしい…!ヴェルトのお風呂順最後にするぞ!」
「その地味な嫌がらせやめろ」
ヴェルトは私の頭をぐしゃぐしゃ撫で、私はヴェルトに笑いかけた。
うん。ごめんねヴェルト。
早く10歳にならないかなぁ…




