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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
復讐、もしくは出会い
24/134

私が見つける話 パート④

 

 

どのような経緯で私のことを知ったのか分からない。

けど、申し訳ないが私を探しているらしいピーターに私のことをまだ教えるつもりはない。

…だって彼だってこんな子供が自分を助けてくれるなんて、嫌に決まっている。

せめて魔力や力が戻ってから私のことをバラしたい。

…あ、でもあと2年ちょっとじゃん。

まぁそれは置いておくとして。


「ピーターさんは人を探してるんですよね?」

「…あぁ」

「それなら尚更ここに居たほうがいいですよ」

「…何故?」

「私達は暗殺組織です。自然と情報が集まります。ピーターさんの探してる人の情報も入るかもしれませんよ?」


私の発言に彼は考え込んだ。

頼むよー。あんた逃げたら私達が怒られるんだってー。

それにあの馬鹿主は彼のことを甘く見ている。

逃げ出すことはいつでもできるのだ。


「…俺が逃げるとテメェが殺されるんだったか?」

「はい。なのでとーっても迷惑です」

「とーってもを強調すんな。はぁ…分かった。ここに居てやるよ」

「…やったー!これでお風呂からお湯が出る…!」

「…は?」


この基地のお風呂、未だに改造出来ておらず、まだ水しか出てこないのだ。

だけど、彼に細工して貰えばお湯が出るようになる!


「わーい!本当によかったですよー。これからの時期に水風呂とか殺す気かって話だったんですよ。ふふふ…」


暗い笑みを漏らす私の肩に手が置かれた。

振り返れば、ミゼンがその笑いはやめろ、と目で言っていた。

私はそれに笑みを深めることで返事をし、ミゼンは溜め息をついた。


「…済まない、スーウは自分の欲望に正直なところがあるんだ。俺はミゼン。あんたを連れてきたのは俺だ」

「あぁ。あんたがこの組織のリーダーだな。その暗殺術は人間の域を越えてる。獣人に対抗出来る…な、その実力なら」


ミゼンは褒められ慣れてないので、戸惑っている。

こっち見んな。…ちゃんとお礼を言いなさい。


「…ありがとう。はじめて言われた」

「事実を言ったまでさ。…俺はヴェルト。そのガキが言った通りピーターは偽名だ」

「そうか…」

「で、俺はここで何をしてればいい?それに俺を狙った奴は誰だ?」

「…アルテルリア王国の貴族だ。名前は俺しか知らない。…後で話す。ここでは好きに過ごしてくれ。…スーウの話は聞かなくてもいいぞ」


ミゼンは私達を守るため、馬鹿主の名前は誰にも知らせていない。

それに、子供に殺しはさせない辺り、ミゼンはお人好しだ。

そう、私達子供は誰も殺しをしていない。

屋敷に忍び込んで情報を盗んだりする諜報活動が子供の役目で、殺しは大人が2人一組になって行うのだ。

はー、ホント、この組織の大人は馬鹿ばっかり。

守られてることに子供は感謝してる。

だから、ディスたちはミゼンたちのことを嫌っていない。

それどころか尊敬してるし、話を聞く限りでは大好きらしい。


「ミゼンは私が水風呂で熱出して寝込んでいいの?」

「…スーウは大丈夫だろう」

「根拠のない自信はどこから来るんだ。私はお湯に浸かりたいのー!」


それに洗濯だってお湯のがよく汚れが落ちるんだぞ!

と、まぁ私の主張は無視され、私は舌打ちをしておいた。

そのうち自己紹介大会が始まり、私はふてくされながら後片付けを始めた。







意外にも、ヴェルトは子供たちとも直ぐに仲良くなった。

特にスーイとスートレが懐き、魔術を教えて貰っている。

2人は魔力はあるものの魔術は使えなかったので、ヴェルトに教えて貰って喜んでいる。

私もその講座を聞いて魔術の予習をしておいた。

…スーイとスートレがそれぞれ魔術で水と雷を出した時は悲しくなりましたけど。


「おい、赤が足りないぞ」

「あれだけ買って!?ヴェルト使いすぎ!」


そして今はヴェルトに水道の細工をして貰ってる。

ヴェルト自身が水風呂に耐えかねたんだろう。

一昨日急に、「絵の具買ってこい」と言われた。

昨日は指定の赤と黒の絵の具を大量に買ってきて、今日、魔術陣製作に入った。


「俺にやらせておいてその台詞はねぇだろ」

「ヴェルトは水風呂に耐えれるの?」

「…チッ」

「ほら、そこでそんなに使うからでしょ!てかまだ赤残ってるし。…私が描いてあげようか?」


ヴェルトは不器用らしく、陣を上手く描けていない。

陣自体は誰が描いても魔術をかける人がいればいいので、私が描いても問題はない。


「…頼む」

「はーい」


紙に書かれた陣を水道に書き写していく間、ヴェルトはふてくされたように私をみていた。


「ねぇ、ヴェルトが探してる人ってどんな人?」

「…知らん」

「…知らないのに探してるの?」

「まぁな。でも、俺はそいつにすげぇ会いたい。そいつは俺を救ってくれる人だからな」

「…知らない人なのに自信満々だよねぇ」

「うるせぇ。神がそう言ったんだよ」

「…」


私は痛い人を見るような目でヴェルトを見てあげた。

うう、事実かもしれないけど痛いよ。

どれくらいの痛さかって?

お隣のお兄さん並み。


「テメェ喧嘩売ってんだろ」

「売ってない売ってない。見つかるといいね」

「…まぁな。向こうは俺を見たら気づくらしいんだが…俺は分からんらしい」

「へー。面倒な。あ、ヴェルト、出来たよ」

「…早いな」


ヴェルトに完成した魔術陣を見せるとヴェルトは頷いた。


「これなら3年は保つな。テメェはどいてろ」


言われた通りヴェルトから離れ、魔術をかけるところを眺める。

ヴェルトは神様(笑)並みだから、詠唱も媒介も必要ない。

一応パフォーマンスのためか、それっぽい言葉を並べて魔術を完成させた。


「お見事!よーし、これでお湯に浸かれるぞー!」

「よかったな。あー、疲れた」

「おっさんは大変だね」

「誰がおっさんだ。吊すぞ」

「恐ろしい…!ヴェルトのお風呂順最後にするぞ!」

「その地味な嫌がらせやめろ」


ヴェルトは私の頭をぐしゃぐしゃ撫で、私はヴェルトに笑いかけた。


うん。ごめんねヴェルト。

早く10歳にならないかなぁ…


 


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