私が組織の一員になる話、それにしても男心とは難解なものである パート④
アルバと転移陣で向かった場所は倉庫のような場所だった。
そこにはあの趣味の悪い服の主と、燕尾服を着た男が控えいた。
「…なんだ、そのガキは!」
声を荒げた主に私はゆっくりと近寄った。
「ご主人さま…」
「…ご主人さま?」
「はい…だって私のご主人さまです…ご主人さま、私も行かせてください」
ゆっくりと近寄り、主の足元に立ち、上目使いをした。
こういうのも何だが、私の見た目は中の中。
至って平凡だが、見ていて不快になるわけではない。
女であることも考慮して、弱々しく主を慕ってます!と演出してみた。
「私、あの牢屋から助けてくれたご主人さまの役に立ちたいんです。それに、ご主人さまに会いたくて…」
不安げに見上げてみせると、主は満更でもなさそうな顔をしていた。
その粘っこい視線には嫌悪を感じたが、潤んだ上目使いは続行中である。
「ふん…仕方あるまい。いいだろう、行ってこい」
「ありがとうございます!ご主人さま、私が必要でしたら何時でも呼んでください。私、ご主人さまのためなら何でもします」
まぁ、何かされそうになったら問答無用で薬使わせて貰いますけど。
というか、予想通りあいつ馬鹿だな!
私の口が悪いのナムルさんとこで見てただろ!
主に許可を貰った私は少しだけ多めにお金を貰い、アルバと倉庫を出た。
外は森で、少し遠くに市場が見える。
アルバを振り返ると、呆れたような心配そうな顔で私を見ていた。
「いいの?あんなこと言っちゃって」
「大丈夫。あの人が私に手を出すのは精々あと3年は経たないと。あーゆー人は7歳児に手は出さないよ」
「いや、分かんないよ?」
「その時のために、薬草を取りまーす」
この森には気付かないような小さい薬草がぽつぽつ生えている。
お目当ての薬草が生えているのか見て直ぐに分かった。
「え、早く買い出し…」
「いいからいいから。アルバ、これとこれ、取ってきて!」
「えー、僕も?」
「ほら、早く!」
取った薬草をアルバに見せて、手伝わせた。
薬草を持って市場に行き、取りすぎた分を売却した。
…アルバが取りまくったのだ。
しかも、私が指定したやつ以外も取ってきたので、それも売った。
「頑張ったのに…」
「…アルバ、違うやつまで取ってくるんだもん」
「え、そうだった?」
「うん。アルバは何時もどこで買ってる?」
「あー…一番安いとこかな」
アルバに案内された露天は確かに安かった。
…が、物は悪い。
アルバに良し悪しを求めるつもりはなかったが、これはないだろう。
「…アルバ、次行くよ」
「え、ここで買わないの?」
「いいから!」
アルバを連れて別の露天を見る。
質の良さそうな露天に来て、私は野菜を吟味し始めた。
「おう、お嬢ちゃん、お父さんとお買い物かい?」
「うん!お父さんいつも不味い野菜買ってくるから監視!」
「はは!そりゃ酷ぇ言いようだ。あんたも大変だなぁ」
「あはは…」
困ったように頭をかくアルバは話を合わせてくれるようだ。
「おじさん、ジールはいくら?」
「おう、それは一つ銅銭5枚だな」
「…じゃあ、全部買ったらいくら?」
「全部かい?そうだなぁ…銀銭1枚はいくんじゃないか?」
ジールとはジャガイモに似た野菜だ。
現在の手持ちは銀銭10枚。
薬草が案外高く売れたのだ。
「銅貨100枚かぁ…おじさん、お願い、50枚にまけて!」
「いやいや!半額ってのは辛いぜ!90枚」
「えー!60枚!」
「85枚!おまけで他の野菜もつけてやるぜ?」
「うーん…じゃあ、マルケとテムラとイリアコも全部買って銀銭3枚と銅貨10枚は?」
「あー…まぁ、仕方ないか。お嬢ちゃんの威勢の良さに負けたぜ。にしてもそんなに多く持てるのか?」
「うん。お父さんが台車持ってきて後で運ぶの」
「あんた、大変だなぁ…」
「娘と嫁には尻に敷かれてるんですよ」
おじさんの同情の表情に、アルバは苦笑いを一層深めた。
失礼な。値切れるものは値切る、使えるものは使う主義です。
きっちりお会計したあと、肉や野菜も買って、疲れた顔のアルバを伴って私は帰った。
私が組織に入って半年経ったある日。
「…全員来てくれ」
子供部屋でスーフォたちと遊んで?いると、扉がノックされ、ミゼンが入ってきた。
途端にディスも含め子供たちは緊張する。
「ミゼン。どこに?何があったの?」
「…スーウ。それはなんだ」
私たちの遊び?に気づいたのか、ミゼンが訝しげな顔で近寄ってきた。
「絵本と紙と筆。遊んでるの」
「遊び…?勉強じゃないのか」
「遊びです。で?何があったの?」
「…最初に転移した部屋に来てくれ。そこで話す」
「仕方ないなぁ。あそこ狭くて嫌いなんだよね。汚いし」
私がそう呟くとミゼンの瞳が困ったような色になった。
…ミゼンを責めてるわけじゃないからね。
その目は止めてくれ。
ミゼンが出て行き、その後をディスたちと追いかけた。
会議室(キリヤ命名)には、大人が全て集まっていた。
「悪いな、お前ら」
「…何だよ」
ノーヴェが申し訳なさそうな顔でディスたちに謝った。
私はミゼンを探した。
ミゼンは部屋の一番奥、転移陣の直ぐ側にいた。
そして、その横には、男が一人、ぐったりとして倒れていた。
ついにヒーロー?登場です。
最強な賢者様なのに、登場シーンは捕らわれのお姫様…
余談ですが、
銅銭は約10円の価値です。
銅銭10枚→銅貨
銅貨100枚→銀銭
銀銭100枚→銀貨
銀貨100枚→金銭
金銭10枚→金貨
となってます。
私の計算が間違っていなければキリヤは10億円の値段…




