私が組織の一員になる話、それにしても男心とは難解なものである パート③
あの料理は大人たちにも好評で、私の地位は一気に向上した。
しかも、ミゼンが私を気に入ってるのも効いたらしい。
何てことだ!全然嬉しくない。
ミゼンも大人たちの集団に混ざり食事をしていた。
「ミゼン。食料ってどうなってるの?」
ミゼンの前に座り、私もご飯を食べる。
我ながら美味しい。
…このカビさえなければパンも食べるんだけどなぁ。
「…ディスたちに聞け」
「調達してるのはミゼンたちでしょう?スーフォは毎月気付くと増えてるって言ってたし」
「…調達してるのは誰だ?」
「あ、僕です」
手を挙げたのは大人たちの中でミゼンの次に若い男だった。
灰色の髪に赤褐色の目をしている、優しげな男だ。
「…だそうだ」
「スーウです。おじさんは?」
「僕はアルバ。スーウは料理が上手だね。とっても美味しいよ」
「ありがとうございます。それで、食料はどうやって調達してるんですか?」
「月に一度、僕が外で買ってくるんだ。主に金を渡されてね。明日がその日だよ」
「私も行っていいですか?」
「え、うーん…主が何て言うかなぁ」
「私が何とかしますから。主はロリコンとかじゃないですか?」
「い、いや、ロリコンではなかったと思うけど…」
ふむ、まぁ攻めようはいくらでもあるから。
ミゼンは特に制止はしなかったので、言外に良いということなんだろう。
アルバもそれが分かったようで、困った顔をしつつ、仕方ないと諦めたようだ。
さて、調理場を片付けた…とは言っても晩ご飯で使った食器だけで、未だに調理場は汚いけど。
一仕事終え、子供部屋に行くと誰も居なかった。
…多分、お風呂だ。
基本的に服の着替えは一着しかない。
それと、他にあるのは仕事着だ。
変装用の服は会議室にあるので、除外。
私の服はどうすんだろう。
甚だ疑問だが、後でスーフォに聞こう。
少し待っているとディスたちが帰ってきた。
「お帰りなさい。スーフォ、私って着替えどうすればいいかな?」
「え、えっと、あの箪笥の中の好きに使っていいよ。あんまりないけどね」
「ありがとう。大人たちもお風呂入ったかな?」
「さぁ…」
知るわけないか。
仕方ない、大人たちを訪ねよう。
隣の部屋に行くと、大人たちの半数が残っていた。
「おう、スーウ。どうした?」
「他はお風呂?」
「そうだ。それにしてもスーウは肝が据わってんなぁ」
「…だって泣いたってしょうがないし」
「はは、まぁそうなんだがよ。それでも俺たち大人ですら泣くやつが居たくらいだぜ?」
「…私にとって、もっと酷いことがあったし。これくらいじゃ泣かないよ」
私の発言を聞いた大人たちは頭をグシャグシャと撫でてきた。
慰めるのが下手な大人たちだ。
私は笑って彼らに感謝し、子供部屋に戻る。
スーフォに聞いた私のベッドに入り、私は寝た。
目が覚めた。
視界にはスーフォがいて、私はびっくりする。
スーフォは寝ていたが、どうして同じベッドに…
起き上がって見れば、狭いベッドに全員が寝ていた。
もちろんディスもである。
狭そうなのに、他にベッドがあるのに、みんなどうしたんだろうか。
起こすのは申し訳なかったので、そーっとベッドから降りて、みんなに他のベッドから持ってきた布団(という名の布切れ)を掛けた。
それから廊下にある唯一の時計(これで前回時間を確認した)を見ると4時だった。
ちょうどいい。朝食を作ろう。
調理場に行き、スープとパンを用意し、子供部屋に戻った。
部屋に入るとディスが起きていた。
きょろきょろしていたディスは私を見つけると安堵の表情を浮かべた。
「どこ行ってたんだよ」
「調理場に。…その、私昨日何かしましたか?みんな同じベッドに寝てるし」
「スーウ、俺にも敬語じゃなくていいぞ」
「へ?え、うん、分かった」
「…うなされてたんだよ、お前。終いには泣き始めるしよ。スーフォが心配して手を握ったら離さなくて、他のやつらも心配して、そんで結局一緒に寝たんだ」
「え…」
なんて恥ずかしい…
そうか、うなされてたのか。
スーフォにはお礼を言わないと。
他のみんなにも。
「…ありがとう、ディス」
「は?あ、あぁ」
「えへへ、ディスって優しいよね」
「はぁ!?お前何言ってんだ!」
「でもディスだって一緒に寝てくれたし…」
「う、うるせぇ!!」
真っ赤になったディスの叫び声で、スーフォたちまで起きてしまった。
目をこすりながら起き始めたスーフォたちはディスを見て首を傾げた。
「…ディス、どうしたの?」
「スーウ、起きてたんだ!」
「昨日は大丈夫だった?」
「ディス顔真っ赤だよ?熱?」
「うるせぇ!!顔洗ってくる!」
ディスは指摘されてより一層顔を赤くして部屋を出て行った。
うむ、可愛らしいやつだ。
「あの、みんな…昨日はありがとう」
ディスを見送り、心配そうな顔をしたスーフォたちに私は笑ってお礼を言った。
それを見た彼らは安心したような、嬉しそうな顔で笑った。
「スーウは一番小さいから、俺たちみんなで守ろうって決めたんだ!」
「へ、そうなの?ありがとう!」
「それに、今日から俺らも掃除とか、手伝うよ。ディスもそう言ってた」
「ディスが?…じゃあ、料理も手伝ってくれる?」
「…あんまり上手じゃないけどいいかな?」
「うん!」
スーフォたちは守ってくれると言ったけど、彼らを守るのは私のほうだろう。
でも、気持ちだけは預かっておきます。
朝ご飯も昨日同様、大人と子供は別々に来た。
あの後私はお風呂に入ったので、盛り付けはスーフォたちが勝手にやったのだが、やはり大人に遠慮しているらしくスープは多く残されていた。
まったく、お互いがお互いを気にし過ぎていて空回っているみたい。
「…スーウ、本当に行くの?」
「うん。さっきちゃんとお風呂入ったから汚くないし」
「確かに昨日より綺麗だけど…そういうことじゃなくてね」
そうだ、お風呂はお湯なんて出なかった。
…酷い、めっちゃ寒かった。
これもどうにかして改造しなければ…
「アルバは私が着いて行くと迷惑?」
「いや、迷惑ではないけど。まぁ、迷子になったら迷惑だけど」
「大丈夫。むしろアルバが私に着いてこれるか心配」
「…それはないと思うけどなぁ」
アルバは苦笑いしたけど、残念だったな!
私は道を一回で覚える達人なのだ!
現代日本に暮らしてたら、東京とか迷路だもんね…
食事を終え、珍しく片付けを手伝ってくれた大人たちはアルバを残して食堂を出て行った。
「じゃあ、行こっか」
「はーい」
会議室に私とアルバは向かい、転移陣の上に乗った。
転移陣は淡く光り、私の視界は切り替わった。
アルバはアラビア語の4、アルバァの造語です。
造語って言うのかは謎ですが…




