私が組織の一員になる話、それにしても男心とは難解なものである パート②
私はスーフォに案内され、組織の住居を見て回っていた。
転移してきた部屋が会議室のようなもので、普段はみんな(ディスたち以外)は集まっているらしい。
その隣、ディスたちが住処にしている場所は、ディスたち子供が寝る部屋で、大人はほとんど入らないんだとか。
次の部屋は大人が寝る部屋で、前者2つの部屋より広かった。
とは言っても狭いことには狭い。
その次は食堂で、奥には調理場がある。
どうやら私は家事をさせられそうである。
最後の部屋は風呂場とお手洗いだった。
お風呂は大浴場らしいが、如何せん汚い。
何てことだ!
…明日から大改造してやるぅぅ!!
「す、スーウには、食事の支度と、掃除をやって貰うね」
「はーい。スーフォ、洗濯とかはどうするの?」
「えっと、鍛錬が終わってから、自分で風呂場で洗うんだ。鍛錬すると血とかも出るし、汗もかくから。他人の洗うとか嫌だろってことで。暗黙の了解ってやつ?」
「…あー、なるほど」
「…ねぇ、スーウは嫌じゃないの?」
「…何が?この組織に入れられたこと?暗殺させられること?それとも男ばっかりの場所だから?」
「ぜ、全部かな…だって、人を殺すんだよ?それに、自分がいつ殺されてもおかしくないし…主は俺らのこと、モノ扱いだから、失敗したり粗相をすると直ぐ殺されるんだ」
「…うーん。人を殺すことに、躊躇いはあるよ。でも、私は強くならなくちゃいけないからこの組織に入ってむしろラッキー?それに、主に殺されない自信はあるし」
「つ、強いんだね、スーウは…」
俺は、強くない。と呟くスーフォを見て、私は思わずスーフォの背中を叩いた。
「えっ、す、スーウ?痛かったんだけど…」
「スーフォは強いよ。とっても強い」
「…そんなことない。強いって言うのはディスみたいなことを言うんだよ」
「そうかな?私はスーフォも強いと思うよ。だって、強くなければこの組織でやってけないよ。精神的にも肉体的にもね」
「強い、かな」
「うん!それにスーフォはすごく優しいし!私のこと気にかけてくれるし!それも、強さっていうんだよ!」
「…あ、ありがとう。そんなこと言われたの初めてだよ」
少し自信を持ったらしいスーフォはふにゃりと笑った。
この笑みにやられる女性が出てくることに賭けるね!
こう、母性本能がくすぐられるってやつ?
「じ、じゃあ、スーウには晩ご飯をお願いするね。何か分からないことあったら、さっきの部屋にいるから、来てね」
「はーい」
スーフォは私を調理場に置いて、出て行った。
…というか、今何時だ?
時間は6時だった。
もちろん午後ね。
スーフォの話では、食事は朝は6時、昼は12時、夜は7時なんだそうだ。
おう、あと1時間っすか。
仕方ない、と調理場を振り返ると、私は声を失った。
…さっきはよく見えなかったけど、何ここ、汚い!
…でも時間はないから、先にご飯作ろう。
それから、掃除じゃあああ!!
ということで、調理に取りかかる。
見つかった材料は干からびたような野菜と腐りかけの肉。
…食料はどうやって調達してるんだろうか。
まぁそれは置いといて、何を作ろう。
人数分はつくらないと。
主食はカビの生えかけのパンがあったので、それを出す。
カビは最小限取ったが、取りすぎると食べる場所がなくなる。
主菜は肉の入ったスープを作った。
調味料も少ないのでどうにかしなければ…
そうこうしているうちに7時になった。
最初に入って来たのはやはりディスたちだった。
「…新入り、食事は」
「出来てます。今盛り付けますね」
ディスが偉そうにそう言ったが、ツンデレだと思うと可愛く見えてくる。
手早く5人分盛りつけ、ディスたちに渡す。
彼らはそれを受け取ると食堂のテーブルに持って行った。
恐る恐る覗いていると、最初にスープを口にしたのがスーフォだった。
「…おいしい!スーウ!何これ、おいしいよ!」
「本当?ありがとう、スーフォ!」
がっつき始めたスーフォを見て、他の子達も口を付け始めた。
「…おいしい!」
「こんなの始めて食べた!」
「すげぇ!」
他の子達もみんな喜んで食べ始める。
うむ、子供はよく食べねばな!
ディスだけは無言で黙々と食べ、さっさと食堂を出て行った。
私はディスを追いかけ、廊下に出る。
「ディス!」
「…あぁ?」
「どうでしたか?まずかったなら、ちゃんと言ってください」
「…あいつらは旨いって言ってたじゃねぇか」
「でも、ディスが不味いと思うなら、それは変えないといけません。ディスはみんなのリーダーなんでしょ?」
「…リーダーはミゼンだ。俺は子供のまとめ役で」
「で?おいしかったですか?」
「…不味かったら他のやつにあげてる!!わかったらさっさと戻れよ!」
耳を真っ赤にしたディスは走って部屋に帰ってしまった。
…うーん。まぁおいしかったならいいけど。
ディスって何だかんだ言ってミゼンのこと嫌いじゃないみたい。
ディスが入った直後、その隣の部屋の扉が開いて、大人たちが出てきた。
「お、スーウ。何してんだ?」
「ノーヴェ。ディスに感想聞いてた」
「は?感想?何の」
「ご飯の。みんなも食べるよね?」
「ああ…ガキどもは?」
「まだ食堂」
それを聞いた彼らはお互い顔を見合わせ、目配せをして、結局ノーヴェに決まったらしい。
「ひでぇよお前等!いつも俺じゃねぇか!」
「仕方ねぇだろー。お前が一番遅く入ってきたんだから」
…こいつら、スーフォたちに気をつかっているらしい。
多分だが、全員で行くと怯えさせるだろうとでも思っているようだ。
ノーヴェに最初に行かせて、そろそろ大人たちが来るぞー、と知らせるんだと。
ノーヴェ以外の大人はさっさと部屋に戻ってしまった。
「…行くか」
しょんぼりしているノーヴェを連れ食堂に戻ると、子供たちがわいわい楽しそうに騒いでいた。
が、ノーヴェを見るとみんな黙り、そそくさと部屋を出て行く。
ただ、その時みんな私に「おいしかった」と言ってくれた。
私は笑って「お粗末様」と答えた。
ノーヴェを見ると苦笑いというか、少し寂しそうだった。
「…今盛り付けるから。他の人も呼んできたら?」
「…あぁ」
出て行くノーヴェを見て、私は溜め息を吐く。
さて、彼らの関係も私が変えるべきなんだろう。




