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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
幼少期、もしくは悲劇
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私が捕まる話、そして絶望 パート④

 

目が覚めた場所は、牢屋の中だった。

周りには私と同じ年頃の少年少女が同じように牢屋に入れられている。

腕と足は治されていた。

痛覚の遮断を中止し、感覚を戻していく。

腕と足が動くのを確認し、ちゃんと骨が繋がっているか確かめた。


「おい、ガキ、起きたんか?」


牢屋の前に人が立ったのを感じ、私は体を起こす。

居たのはひょろ長い男だ。


「…起きた」

「はー!よー寝とったな!お前さん、3日も寝てたぞ。おかげで売れない売れない!はよどっか売られてくれや」


変な訛りのある男だ。

多分、あまり若くない。

汚い格好をしているので、歳が分かりづらい。


「…私、傭兵か暗殺の仕事したい」

「ああん?なんや、そら物騒なことしたいんか?あぁ、そういやディグザムが楽しそうにしとったわ。お前さんが復讐する言ったんか?」

「まぁ、ね。私以外にディグザムは連れてこなかった?」

「あー、2人くらい連れて来たわ。ガキと女。女は娼館でガキは別の娼館で下働きになっとったわ。まぁ、俺の取引先の中でマシな場所やったよ」

「…そっか。他は?」

「さぁなぁ。ディグザムは色んなとこに人を卸すからなぁ」


お父さんの生死は不明。

お母さんはどこにいるか分からない…

あぁ、生きていてね。絶対に助けに行くから。


「ん?客や。大人しく待っとれよー」


鈴のような音がして、男は出て行った。

隣の部屋が受付なのか、ガタガタ音がしている。

それにしてもあの男、よく喋る。

私は奴隷で、あの男は現在の持ち主と言っても間違いじゃないのに、私に対して好意的だ。

私は牢屋の壁のほうにもたれ、膝に顔を埋める。

がちゃりと音がして、3人の人間の気配がした。


「こちらでさぁ。商品は全てここです。歳の頃はどんなものをご所望でぇ?」

「…おい、ミゼン。好きなやつを選べ。私に奴隷の良し悪しは分からん」

「…」


3人のうち一人は先程のひょろ長い男。

1人は、生地はいいが、趣味の悪い服を着た太った男。

最後に、黒髪に紅い眼の、眼光が鋭い男。

最後の男は手練れ…しかも、ハッキリ言って人間の域を越えている。

今の私だって決して弱くはない。

ただ、この男は規格外だ。

暗殺術、体術はこの男の右に出る者はいないだろう。


「…主。好きな者を選んでよいのか?」

「構わん。さっさと選べ。こんな汚い場所はさっさと出たい」

「では、あの娘を」 


声は、私を示していた。

のろのろと顔を上げると、凪いだ瞳と目が合った。


「おい店主。あれを買おう。いくらだ?」

「金貨1枚ですぜ」

「ふん。安いな」

「あいつは売れ残りでねぇ。お安くしときました」


太った男は袋から金貨を取り出しをひょろ長い男に放り投げた。

お金の単位は、最も小さな単位から、

銅銭、銅貨、銀銭、銀貨、金銭、金貨

の順番である。

銅銭10枚で銅貨、銅貨100枚で銀銭…となり、金貨1枚は金銭1000枚分である。

…庶民には関わりのない金額です。

だって、リンゴ1つで銅銭5枚だよ?

野菜はあの田舎だったらタダ同然だし。

というか、私の村はほとんど自給自足だった。

金貨1枚で安いって…他はいくらするんだ。


「おーい、さっさと出ぇな。旦那がお待ちだぜ」


ひょろ長い男は私の足に繋がれている太い鎖を引っ張った。


「…分かったから。それ地味に痛いんだって。ていうか私病み上がり」

「奴隷に病み上がりもあるか。ほれ、お前さんが望んどった暗殺業や」

「…わーい」


鎖は地味に痛いので、私はさっさと立ち上がり、出口に向かって歩いた。

凪いだ瞳は相変わらず私を見ている。

眼光の鋭い男なのに、そんな風に凪いだ瞳をしていると不思議な感覚になる。


「ミゼン、私は先に帰る。この首輪を付けてさっさと帰って来い」

「はい」


太った男は眼光の鋭い男…ミゼンに金属製の輪を投げて寄越すとさっさと部屋を出て行った。

ひょろ長い男は見送りに付いていく。


「…娘、名前は」

「キリヤ」

「…これを付けろ。そうすれば足枷を外す」


金属製の輪を受け取った。


「…これ、どこに付けるの?」


金属製の輪はハッキリ言って小さかった。

指輪サイズだ。

だが、指輪にしては私の指には大きいので、どこに付けるのか分からない。


「…貸せ。どこに付ける」

「えーと、足首がいいかな」


私が答えるとミゼンはしゃがみこみ、私の足を取った。

そして、金属製の輪を無理矢理広げる。

え、マジ?

それは無理なんじゃ、と思ったが、すんなり金属製の輪は広がり、私の足を通り足首に落ち着いた。


「いっ…」

「…あぁ、言い忘れていた。それは服従の首輪という。それを付けている間は主に逆らえん。…俺もな」


痛いと思ったのは、服従の首輪が足首に巻き付いて定着したからのようだ。

ミゼンは首にしていた。

首を隠していた服を捲り、私に首輪を見せる。

なるほど。だからあんな嫌そうな男の配下にいるのか。

この人なら引く手数多だろうに。

服従の首輪は定着すると刺青のようになるらしい。

こういう魔法的なものは、契約と変わらないようだ。


「…えっと、ミゼンさん?」

「ミゼンでいい」

「…あの男は先に帰っちゃったよね?私たちは歩いて帰るの?」

「いや。転移陣を使う。店主に許可を取ろう」


足枷が外され、私は改めて、奴隷となった。




 

ミゼンはギリシア語で0のことです。


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