私が捕まる話、そして絶望 パート③
村へ向かう途中に、足場が悪いところがいくつかある。
そこでなら、私は隙をつくことができる。
私たちの周りは手練れの男が1人、その他5人で固められている。
警戒されているのはお父さんだ。
ボスの周りは手練れ1人、その他1人。
魔術師の周りを手練れ1人、その他2人で囲んでいる。
魔術師は基本的に接近戦は好まない。
魔術が自分を守ってくれるから。
私は子供なので、歩くのが遅く、後ろを歩く魔術師たちの集団に近いところにいる。
…もう、村までだいぶ近い。
やるなら、ここだ!
「わっ」
私は足をもつれさせて転んだ。
ヤバい地味に痛い。
見かねたらしい男の1人が、私の腕を掴んだ。
ここで、一戦。
私は素早く男の鳩尾を殴り、魔術師の集団に接近。
お父さんなら無理な手練れの男でも、私ならなんとかなる。
手練れの男が向かってきたが、私は避けて魔術師の元に向かった。
魔術師の驚愕した顔が見えて、
「っ、あああああ!!」
私は腕を折られていた。
何が起きたかイマイチ分からない。
なんて、暢気なことを頭の片隅で考えていた。
「、い、ああぁぁぁ!」
「おい、やりすぎだ、やめろ」
「チッ」
足まで折られた。
なんだ、今の。
精霊術の気配がしたのに。
「それにしても意外だぜ。こんなガキがバーンを出し抜くなんてよぉ!」
「笑うなよボス!俺だってビックリしてんだ!」
「ボス。んなことよりコイツどうするんだ?歩けないぞ、こんな足じゃ」
「誰か担いでけ。流石にもう暴れねぇだろ」
バーンとは私が出し抜いた手練れか。
くそ、一体何か起きた?
「おい、ガキ」
担がれた私にボスが声を掛けた。
顎を捕まれ、顔をあげられる。
足と腕、痛い。やばい。痛覚遮断しよ。
「さっさと返事しろよ!」
「っ、」
「やめて下さい!」
殴られた私を見て、お母さんとお父さんがもがいている。
だが、数に適うわけもなく、地面に押さえつけられた。
「…何」
「よくやってくれたよなぁ。バーン出し抜いて、ランドを狙うなんてよ。テメェ、暗殺の才能あるぜぇ!」
ボスの笑い声に私は嫌な予感がした。
こいつはきっと狂ってる。
人の苦しむ顔、絶望する顔を見て楽しむような男だ。
「まぁ、でもよ、失敗したらお仕置きが必要だよなぁ?それに、俺の部下が世話になったしなぁ?」
ボスの視線がお母さんに向いた。
意図が分かった。
こいつ、お母さんを傷物にするつもりだ!
しかも、皆の前で!!
「あ、い、嫌だ!やめて、お願い!お願いします!」
「ははは!楽しいな!テメェら!さっさと村に行くぞ!」
村に着き、私は声を失った。
40人ほどの小さな村は、跡形もなく破壊されていた。
全ての家が燃えている。
女子供は集められ、男はほとんど殺されていた。
残されている男は、お父さんと村長さん、それと見た目の良い2、3人。
「テメェら!帰ったぜ!」
「ボス、遅かったっすねぇ」
「このガキが暴れやがってな。それよりも聞け!テメェらに褒美だ!」
褒美という言葉に周りが浮き立つ。
「この女を犯せ。ここでな!」
私は担いでいる男を振り切り、ボスに向かった。
ボスに掴み掛かり、ナイフで攻撃した。
ボスは楽しそうに笑い、私の腕を掴み引き倒す。
「ぐっ、」
「威勢のいいガキと女は好きだぜ。あと数年歳取ってたら母親と一緒に犯してやるんだがなぁ。ほら、テメェの失敗でテメェの母親が犯されるんだ。しっかり目に焼き付けろ!」
「離せ!離せよ!クソッ!
…うああああぁぁぁ!!」
目を背けたくとも、ボスが許さなかった。
目を瞑りたくとも、魔術で無理矢理見せられる。
そんな時間が、多分1時間くらい、経った。
「う、うぅ、うぅぅ…」
「あーあ、可哀想になぁ。テメェの母親、あーんなにさせられちまってなぁ?全部、テメェが失敗したからだよなぁ?」
「お、母さん、ごめん、ごめんなさい…」
「謝って許してくれるかぁ?テメェの父親も母親も、テメェのせいだって一生恨むだろうよぉ!!」
ボスの言葉に私は屈しそうだった。
分かってる。全ては私の油断のせい。
記憶以外、私が役立てることができるものなんて無かった。
なのに、私が自分を傲ったから。
「まぁ安心しろ。テメェの母親は娼館に売る予定だからな。父親は…使えそうなら生かしてやるか。もちろん、テメェも売るけどな」
「…」
「チッ、もう喚くのはお終いか?つまんねぇな。…あぁ、良いこと教えてやるよ。ランドは闇の魔術師だ。しかも、上位精霊を従えてやがる。テメェは闇の精霊に足と手を折られたのさ。哀れだよなぁ、魔盲ってのはよ。所詮弱者は泣くしかねぇんだ!」
…ダメだ。
こんなところで屈したら、ダメ。
私はお父さんにもお母さんにも恨まれて生きることになるだろう。
それだけじゃない。
村の人、全てが私たちを、私を恨む。
でも、屈することは私が許さない。
「…お前、名前は」
「あぁ?」
「お前の名前だよ!嬉しいだろ、私が復讐しに行ってやるって言ってんだ!!」
「…くく、ふはははは!いいねぇ!その目!俺好みのいい目だ!教えてやるよ。俺の名前はディグザム。テメェの名は?」
「キリヤ」
「キリヤか。東国の名前だな。じゃあな、キリヤ。生きて復讐してみせろ!お前が復讐しに来るまで、俺は待っててやるよ」
ディグザムが言い終わると同時に、私の後頭部に手刀が落とされ、私は意識を失った。




