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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が笑う話 パート⑬

気づいた方もいらっしゃると思いますが、この話で完結設定にしてます。




二人から話したいことがあると言われ、キリヤさんの部屋を借りた。

賢者さんに使えと言われたらしい。

私も二人に話したいことがあったので丁度いいと思ってキリヤさんの部屋に案内した。

途中、エレナさんに会い、お茶を用意してくれるというので有り難くいただくことにした。

エレナさんがお茶を持ってきてくれるまで、私たちはそれぞれのことを話した。


「えっ。お兄ちゃんは32歳?桐那は26!?全っ然見えないんだけど…え…なに、本当に二人とも妖怪か何か?」

「相変わらず失礼だな…父さんたち見たら分かるだろ」

「それはあれかな?わたしが童顔だってこと?」

「ちょっと待ってごめん童顔とか思ってナイヨ」


桐那は幼く見えることが悩みで、昔から幼いとか童顔とか言われると笑顔で詰め寄ってきていた。

今も変わらないらしい。

そこへドアがノックされ、エレナさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

二人は余所行きの笑顔でお礼を言った。

エレナさんはいつも通りの笑顔で挨拶をして、気遣わしげに私を見た。

…私は、大丈夫、という意味を込めてしっかりと頷いた。

エレナさんが出ていった後も、少しだけ世間話をした。

そして、沈黙が訪れる。

誰から話す?と視線で会話をして、私と桐那はお兄ちゃんへ視線を向けた。


「…まぁ、年長者である俺が話すのがいいか。そうだな…とりあえず、桐弥が死んだ時のことか」

「…私、殺されるんだね」

「いや…桐弥の場合は殺されに行ったというのが正しいな。通り魔から子供を守るために盾になったんだ」

「あー…他人事みたいだけど、なんか私らしいな」

「本当に他人事!お姉ちゃんのバカ!」

「ごめんってば。でも、怒られても私はその行動を変えないと思うけどなぁ」

「…知ってる。桐弥はバカだからな」

「あはは。酷いな、二人とも」


私が何か吹っ切れた様子だからか、二人は怒りながらも不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「…お姉ちゃん。何か、あった?」

「んー…そう、ね。私の話、してもいい?」


私が将来死ぬことについては触れないことにした。

未来のことなんて分からないのだから。

でも、何を言われても未来の私は子供を助けることを躊躇しないだろう。

自分の価値を知ったから。

それと同時に、価値を無視してでも…いいや、価値を分かっているからこそ私という存在を歪めるつもりはないから。


「私ね、この世界に来てさ…自分の世界がいかに狭いかよく分かったんだよね…。私自身が世界を閉ざしてたっていうのもあるんだけど。私にとって大切なのは二人とお父さんとお母さん、あとは私を可愛がってくれる親戚のみんなだけだったんだ。私を必要に思ってくれる人はいっぱい居たのに。すごく傲慢だったって、今ならわかる。だからね、二人にはもう一度謝りたいの。本当に…ごめんなさい」


私は二人に向かって深く頭を下げた。

私のせいで、二人には大きな傷を追わせてしまった。

私はその責任から逃げてばかりだった。


「お姉ちゃんが悪いわけじゃ…!」

「いや。確かにその通りだな」

「お兄ちゃん!」

「桐那。話をするんじゃなかったのか」


お兄ちゃんに諭され、桐那は頬を膨らませて拗ねた。

私の悪いところを分かっていても擁護してくれる妹は本当に可愛い。

そして、悪いところを指摘し叱ってくれる兄は本当に格好いい。

私の大切な…

本当に大切な、何よりも代えがたい大切な存在。


「…あ…」








唐突に固まった桐弥を見て、和朔と桐那は最初頭に疑問符を浮かべ、そして桐弥の表情が変わっていくのを見て、二人は悟った。


「桐弥…」

「お姉ちゃん…」


そして、和朔と桐那の前で桐弥…キリヤは頭を抱えて床をゴロゴロと転がった。


「ぐぉぁぁあああああ…!」

「落ち着け…桐弥、お前…」

「ちょっと待って…まじで私…ぐあぁぁぁぁ…本当に!マジで!もー…穴があったら入ってコンクリートで埋めたい…」

「お姉ちゃんそれ死ぬやつ」

「だって!…ほんと、記憶無くなってた時のことなんで覚えてんの私。マジで恥ずかしいんだけど。ねぇ。私は世界で一番不幸ですっみたいな時期をさぁ!みんなに見せるとか…っ!よりによってヴェルトに慰められるとか…!なんなの…死にたい…」

「…元に戻ったんだな、桐弥」

「…うん。あ、お兄ちゃん、私のこと桐弥じゃなくてキリヤって呼んでね!」

「待てそれ違いが分からん」

「読んでる人は漢字かカタカナで私が記憶喪失かそうじゃないか判断してるんだから!あとなんとなくニュアンスで」

「お姉ちゃんメタ発言やめて!」


キリヤは桐那にテヘペロ、とおどけて見せた。

元に戻った?キリヤを見て、和朔と桐那は嬉しそうな、しかし残念そうな顔をした。


「…戻ったのか…」

「戻っちゃったんだ…」

「ねぇ、なんでそんな残念そうな顔なの?酷くない?」

「そりゃあなぁ…俺らだけの桐弥じゃなくなったんだろ?それにお前が静かな時をもっと見てたかった…」

「いつも静かじゃん」

「…お姉ちゃん…」

「あ、ごめんなさい。ほんとその可哀想な人を見る目やめてもらえますか」


キリヤは元に戻って嬉しいためか、若干テンションが高めらしい。

もう会うことがないだろうと思っていた兄妹と会えたこともテンションが上がった大きな要因だろう。

そして、一頻りはしゃいだキリヤは一度座り直して真剣な顔で床に正座をして二人に向き直った。


「…改めて、つらい思いをさせて、本当にごめんなさい」


土下座である。

キリヤは10秒ほど頭を下げていたが、二人の返事を待たずに頭を上げた。


「あの女の子は、どうなった?」

「…はぁ。本当にお前は…父親と仲良く暮らしてる。援助を申し出たが断られた。まぁ、何度か訪ねて行ったからあの子になつかれて今でも遊んだりするけどな」

「そっか、うん。お父さんとお母さんは?」

「相変わらず…って言いたいけどまだ哀しそうだよ」

「親戚のみんなは?」

「母さんたちと似たようなもんだな」

「…私の友達は?」

「お葬式に来てくれて…桐弥の馬鹿!って怒ってたよ。…泣いてたよ」


キリヤは正座をやめて桐那と和朔を抱き締めた。


「ふふ。泣いてるのは二人ともじゃん」

「…うるせぇ」

「お姉ちゃん…いやだよぉ…まだ、ほんのちょっとしか話せてないじゃんか…」

「…本来は二人ともこっちにいたらいけないんだから。まぁ、死後はこっち来たらいいよ。でも、それまではそっちの世界を楽しんできてね」


時間がきたからなのだろうか、和朔と桐那の体はゆっくりと透けていっていた。

向こうの…日本のある世界へ戻って行ってしまうのだ。

ほんの少しだけの邂逅は和朔と桐那にとって短すぎるものだった。

しかし、キリヤにとっては充分だった。

元気そうな二人の姿が見れたのだ。

それだけでキリヤは幸せなのだ。


「…悪い、キリヤ…俺が、もっとお前を守れてたらっ…」

「充分だったよ。あんなに守ってくれてたのに、気づけなかったのは私だから」

「…お姉ちゃん、わたし…わたしっ…お姉ちゃんを騙してたの!」

「か弱いふりしてたこと?いやだなぁ。お姉ちゃんは気づいてましたけど」

「…へ?」

「私たち兄妹の中で一番強かなのは桐那でしょ?ずっと知ってたよ」

「…マジかよ」

「うん。二人が私を知ってるように、私も二人を知ってるんだよ。それに、知らない私がいるように、知らない二人もいるんだよね…ちょっと、寂しいなぁ」


キリヤは懐かしむように抱き締める二人の頭を撫でた。

それに対して、桐那は離れたくない!というようにキリヤを強く抱き締め返す。

和朔はされるがままになっていたが、キリヤの背中を優しく叩いた。


「…お兄ちゃん。早くかわいいお嫁さん貰ってね。結婚考えてる人くらいいるんでしょ?」

「…紹介してやるよ。まだ誰にも教えてねぇから、一番にキリヤの墓前に連れてってやる」

「桐那は…まぁ、男なんて選び放題だと思うけど、いい人と結婚してね。ただしお兄ちゃんよりもイケメンで金持ちで性格良くて気遣いできる奴だぞ!?」

「そんな人いないよ…」


キリヤの必死さに和朔と桐那は笑った。

和朔よりイケメンが地球にいるかどうかわからないが、どれだけ完璧な男が現れようともキリヤは許さねぇ!と言って邪魔をするだろうな、と二人は思った。

そう思うともっと笑えてきて、そして泣けてくる。

二人の姿は既にうっすらとしか見えなくなっていた。


「…お姉ちゃんこそ…あの賢者さんとちゃんと仲良く暮らしてね?」

「ぐっ…」

「おい、キリヤあの男が好きなのか!?あの野郎…俺の妹を…!」

「わたしよりお兄ちゃんの方がお姉ちゃんの結婚を邪魔しそうだね…」

「…二人とも邪魔するんだ…」

「「もちろん」」


声を揃えて答えた二人とキリヤはもう一度笑いあった。



「またな」

「絶対に会いに来るからね!お姉ちゃん!」



「…うん。待ってるね!」



世界に溶け込むように、二人の姿は消えた。






二人が消えた後、キリヤは名残惜しそうに二人がいた場所を撫でた。

まだ温かさが残ることが、二人がいたことは夢ではないということをキリヤに強く感じさせた。


「…よし」


両手で両頬をぱちりと叩き、キリヤは部屋を後にした。







孤児院の食堂には、私を心配してなのかみんな集まっていた。

どうやって来たのか知らないが、獣人であるローランドまでいてとても申し訳ない気持ちになった。


「あ…桐弥さん…!」


一番最初にこちらに駆けつけてくれたのはエレナさんだった。

私はエレナさんにニッと笑いかけた。


「心配かけてごめんなさい!キリヤに戻りました!」


エレナさんはきょとんとしていたが私の言葉の意味を理解したのか、口元に手を当てて目を潤ませた。

半泣きのエレナさんをぎゅっと抱き締めて、私は嬉しそうな表情のみんなを見渡した。


そして、もっとも大切な存在を見た。


「…ヴェルト…!」


戸惑うように、喜ぶように、泣くように瞳を揺らしたヴェルトに私は駆け寄って抱きついた。



「ただいま!」





◇◇◇




完結設定にしました。

が!

まだまだキリヤとヴェルトの話は続きます。

個人的に長い連載小説が嫌い(?)で、どこかで区切って新しくしたいなぁ…と思っていたので、あれ?今、丁度いいんじゃね?となり、切りました。

なので、『最強な賢者様と私の話 パート②』が新しく連載開始となる予定です!


年始にはパート②を始めたいと思います!


皆さま良いお年を!






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