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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
132/134

私が笑う話 パート⑪

遅くなりました!





ヴェルトにその一報がもたらされたのは、キリヤが桐弥になってから二ヶ月ほど経った頃だった。

孤児院に馴染み、いい加減キリヤに戻るんじゃね?とみんな思っていた時だった。


「キリヤを探してる奴がいる?」


そう話を持ってきたのはシェリエだった。

なんでも、シェリエの部下にキリヤの存在をそれとなく探ってくる者がおり、怪しく思い部下を調べたところ、男女二人組がキリヤを大々的に探しているようだった。


「そうなんだよ。でさ、その男女二人組っていうのがすっごい美形らしくて」

「…二人とも?」

「そう。話だと二人は兄妹らしいよ?」

「そいつらが何の用なんだよ」

「兄弟を探してるんだって」

「…とりあえずその部下連れてこい」

「言うと思って外に待たせてある」


この会話、笑えることに国王の執務室で行われている。

しかも、ヴェルトとシェリエは執務室のソファに座って優雅にお茶を飲んでお菓子を食べてくつろいでいた。

その横で宰相のナタエルは立ったままお茶を飲み、国王のレオナルドは必死に溜まった書類を片付けている。


「…なぁ、ここって国王の執務室だよな?」

「えぇ、陛下の執務室ですね」

「…賢者様の私室じゃないよな?」

「はい。そうですが」

「…賢者様はともかく、あの騎士はなんなんだ…?」

「…流石、賢者様の仲間としか言いようがありませんね」


レオナルドはシェリエのくつろぎ具合にがっくりと項垂れていたが、書類の山を視界に入れてそれどころではないと執務を再開した。

そんな会話がされた横でシェリエは執務室の扉を開けて一人の青年を部屋に招き入れた。

青年は国王の執務室に通されたこと、部屋にその国王と宰相の国の2トップがいる上に雲の上の存在である賢者様、そして憧れの隊長が待ち構えていたことで萎縮しまくっていた。


「し、失礼致しますっ!」

「所属と名前を」

「はっ!アルテルリア王国騎士団、第二部隊所属、レーイといいます!」


宰相に促され、青年…レーイはガチガチに固まりながら答えた。

部屋の中の四人に何だか睨まれている、レーイはそう感じて、今度は震えが出てきた。


「おい」

「は、はい!」

「どうしてキリヤを探している」


話しかけてきたのが賢者様であるということなどぶっ飛んでレーイはこの時だけ、我を忘れて喜んだ。


「キリヤって方、実在するんですか!!?」

「は?あ、あぁ」

「よ、よかった…!どうかあの二人をキリヤという方に会わせてください!このままだと国の経済が崩壊します!」

「崩壊?どういうことだよ」


レーイは自身の苦労を語った。

街道で会ったこと、王都に入る時に一騒動あったこと、入ってからは段々と王都を私物化していることなど、もうこれ以上自分一人ではどうにもできないことを切々と語った。

その話を聞いて、四人が四人、遠い目をしていた。


あぁ、うん。

多分、いや絶対それキリヤの関係者じゃねーか。







レーイの案内で、男女に会いにヴェルトとシェリエは城下に降りていた。

ヴェルトは老人の姿だと歩くのが遅かったり面倒ごともあったのでハバルで使った金髪の男の姿になった。


「で?その二人はキリヤの兄妹っつってんのかよ」

「は、はい。男の方が兄でカズサ、女の方が妹でキリナというのですが…」


レーイが途中で言いかけて、視線をヴェルトから外した。

少し口をぽかんと開けて呆けていたが、慌てて人込みの中へと入って行った。

ヴェルトとシェリエはレーイを視線で追う。

レーイの向かった先には人が集まっており、黄色い悲鳴と野太い歓声で騒がしかった。


「…賢者、俺あの空間行きたくない」

「…帰るか」


ヴェルトとシェリエは顔を見合わせて頷きあった。

が、その二人を呼び止めた声があった。


「ねぇ、そこのお兄さんたち」


可愛らしい声だ。

少女を思わせる、鈴を鳴らしたような声。

しかし、その声は有無を言わせないものだった。

支配することに慣れた自信の溢れる、しかし油断のない声。

ヴェルトとシェリエは思わず一歩下がった。

声と、目の前の女の美しさに圧倒されたのだった。


「…ふぅん??…ね、お兄さんたち、名前は?」


女はこちらを伺うように下から覗き込んでいた。


「…失礼ですが、名前を聞くならそちらなら名乗るのが礼儀では?」

「…確かにそうね?わたしは桐那。星野桐那というわ」

「キリナさん、ですね?俺はシェリエ。こちらは賢者様です」

「…賢者様?」

「えぇ。ご無礼のないよう…って、聞いてないし!!」


女…キリナはシェリエの言葉を聞かずに人込みに戻って行った。

そして人込みの中から男を連れてきた。

キリナによく似た、美しい男だ。


「お兄ちゃん!これ!この人!賢者だって!!」

「…賢者?……悪い、ちょっと待ってくれ…」

「ね!すごくない!?なんかゲームの設定みたいだよねー。さすが異世界!」

「だからそういうことを大きな声で言うな。…気分を害したようなら謝罪します。私は星野和朔。桐那の兄です」

「ちょっ、二人とも俺の話聞いてます!??」


自己紹介を始めた男…カズサの話を遮るように、人込みの中からやっと這い出てきたレーイが二人の肩を掴んだ。

レーイは二人の前にヴェルトとシェリエの姿を見つけ、ひたすら頭を下げる。

レーイは何も悪くないので、さすがに止めさせた。


「ほ、本当に申し訳ありません…」

「レーイさん、そんなに謝らなくてもいいのでは?」

「…誰のせいだと思ってるんですか…」

「わたしたちかな?そんなことよりどこか入らない?ゆっくりお話したいし」

「いや、待てよ。この人たちが桐弥のこと知ってるとは限らないだろ」

「お兄ちゃん…わたしの勘はこう言っている!この人たちはお姉ちゃんの知り合い、いやいや、それ以上の仲の人たちだって!」

「…お前のその自信はどこから来るんだ…」

「まぁまぁ!あのお店開いてるから行くよー」


桐那は和朔の腕を掴み、近くにあったレストランへさっさと歩いて行った。

途中、着いてこないヴェルトたちに手招きして、店の中へ入って行った。

頭を抱えたレーイの肩をぽんと叩き、ヴェルトたちは桐那たちの後を追った。


店の中はがらんとしていた。

正確には、桐那たちが入った後に他の客が出ていっただけなのだが。

他の客が気を効かせて出ていったらしい。

桐那曰く、「静かにお話したいから個室はないか聞いただけ」だそうだ。

店員も桐那や和朔を気にしてチラチラと視線を寄越していたが、二人が微笑むと何やら呻いて奥へと消えていった。


「改めて自己紹介します。私は星野和朔」

「わたしは星野桐那です」

「俺はシェリエです。こちらは賢者様です。改めて、改めて言いますが、ご無礼のないようにお願いします」

「…桐那?」

「無礼なことなんてしてないよ?ちょっと話聞かないでお兄ちゃん呼びに行っただけ」

「充分無礼だろ!?…なんで桐那といい桐弥といい、うちの女どもはこう…」

「失礼な!お姉ちゃんよりマシだから!」


キリヤを知っているレーイ以外の人間は(どっちもどっちだろ…)と思っていたりいなかったりした。

そして、それを見た和朔と桐那はニヤリと口端を歪めた。


「桐弥に関する勘だけは良く当たるな」

「でしょ?」

「あぁ…シェリエさんと賢者さん。二人は桐弥を知ってますね」


ヴェルトとシェリエは顔を強張らせた。

二人ともキリヤのことについて顔に出したつもりはない。

だが、彼らのやり取りに気が緩んでいたのも確かだった。


「あまり警戒されても困るんですが…」

「わたしたちはお姉ちゃんに会いたいだけなんです。会わせてください」


和朔と桐那は困ったように笑いながら懇願してみせる。

しかし、先ほどの二人の観察力にヴェルトとシェリエは警戒を隠せない。

キリヤは国家機密以上の存在である。

本当に兄妹だったとして、信頼できるという証拠があるわけではないのだ。

また、ヴェルトとしては桐弥の話を聞いて二人に対して弱冠不信感を持っていたのも確かである。


「…お二人が信頼に足りる人物だとは現時点では判断できかねます、」

「それはこちらの台詞です」


シェリエの言葉を遮るように和朔と桐那から、常人からは考えられない殺気を感じだ。

ヴェルトとシェリエはともかく、レーイは驚きと恐怖から固まってしまった。

流石にヴェルトとシェリエも予想外だったので、つい武器に手が伸びる。


「うちの妹をどこの馬の骨が囲っているんだか知りませんが、桐弥の扱いによっては全力で叩き潰させていただきます」

「ここには魔力っていう力があるそうですが、調べたらわたしたちにもそこそこあるみたいです。賢者さんには到底敵わないけど…わたしたちが本気になったら、しつこいし、絶対に勝てませんよ」


目の前の二人は笑っていた。

今まで見た中で一番美しい笑みだった。

確かに、とヴェルトは思った。


こんな美しさを目の前にしてしまったら、誰も歯向かう気など起きないだろうな、と、





進まない…

そして和朔と桐那が強すぎて二人の話削りたいのに削れない…!

キリヤ!はよ!戻ってきて!

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