私が笑う話 パート⑨
おひさしぶりです!
ちょっと短いんですが、もう1話直ぐに上げるので、見逃してほしいです…(笑)
ヴェルトの問いに桐弥は息を呑んだ。
膝を抱える手が、ぐっと握りしめられる。
「…嫌い。私が、私のせいで…みんな…お兄ちゃんが…桐那が……ごめん……ごめんなさい…」
ヴェルトは改めて泣き始めた桐弥の近くに腰を下ろした。
「…キリヤは昔から変わらねぇんだな。なんでもかんでも自分のせいにして、卑屈で自分を信用できなくて。自信なんて何処に捨ててきたのか分かんねぇくらい無いしな」
「…それは、キリヤさんのことですか…」
「お前のことだよ。根本が変わらねぇつーか…桐弥が卑屈なのは兄妹のせいか?」
「…違います…!」
「自分のこといらねぇって思ってんだろ。必要ねぇって。そう思わせたのはその兄妹じゃねえのかよ」
「違う!…違うの…違う…私は…」
桐弥は…キリヤは、自分に自信のない少女だった。
キリヤの行動や態度は自信に溢れ、時として傲慢とさえ見える場合があるが、実際のキリヤは卑屈で臆病な少女だ。
気づいている者もいるし、気づいていない者もいるが、ヴェルトはもちろん前者のほうである。
キリヤ自身は見せないようにしているようだったが、分かる者には分かるのである。
また、キリヤもヴェルトだけには素直に卑屈な姿を見せられるようだった。
ヴェルトたちは自信家のふりをしているキリヤをいつも見ているから、この姿は新鮮であった。
「…桐弥は必要な人間だろ」
「…何を根拠にそんなことっ…」
「ミリアが必要だって言ったな」
「…それはキリヤさんが必要なのであって…」
「あんな小っせぇガキが嘘なんて言うかよ。あいつはシスターが必要だって言ったか?あとエレナも必要だって言ってたぞ。後で一発殴らせろって目で訴えてたな…ガキどもは新しい遊び相手が出来て喜んでた。あー…あとトーマか。あいつはお前の知識について話したいことが山ほどあるみてぇだし」
「…それは全部キリヤさんでもできるでしょう」
「はぁ?無理だろ。キリヤはミリアやガキどもにとってシスターで親で教師だ。桐弥はミリアやガキどもにとって姉だろ。役割が違いすぎる。エレナが殴りてぇのは桐弥であってキリヤじゃねぇしな。トーマはキリヤは嫌いだが桐弥のことは気に入ってるみてぇだしな」
ヴェルトは相変わらず顔を上げない桐弥の頭に手を乗せた。
あまり強くならないように、ゆっくりと頭を撫でる。
「俺も、桐弥がいねぇと困る。桐弥がいたからキリヤに会えたんだ。…いらないなんて言うなよ」
その声に籠った切実な願いに、桐弥は顔を上げた。
「…賢者さんって…」
「あ?」
「…人タラシですよね。それに、賢者さんは、本当の意味で私を必要としてません」
「そんなことは、」
「あります。キリヤさんが必要だから、私も必要なんですよね?…ふふ、でも、それで良いような気がしてきました」
あたふたし始めたヴェルトを見て、桐弥は何故か笑いが込み上げてきた。
「私、やっぱり自分のことが大っ嫌いです。賢者さんも皆さんも必要って言ってくれますけど、本当の意味で必要とはしていないように思います」
「…テメェがどう思おうと、俺らは必要だと思ってるぞ」
「有り難く言葉は受け取っておきますが、信じません。私を必要としてくれるのは家族だけで十分なんです。…でも、悔しい」
桐弥は笑いながら唇を噛んだ。
「悔しいです。…なんでだろ。すごく悔しい。私はみなさんに必要とされたい。役に立ちたい。私を見てほしい。私は…みなさんが、好きです」
桐弥は言葉を口に出して納得していた。
桐弥じゃなくてキリヤを必要とされていて、すごく悲しかった。恨めしかった。腹が立った。
私はいらないんだ。
私は迷惑をかけるんだ。
私は何の役にも立たないんだ。
そう考えると、自分が惨めで憐れだと、悔しくなった。
そこで疑問が出てきた。
友人に裏切られて兄妹に迷惑をかけたとき、友人には怒りしか感じなかった。
私の兄妹を傷つけた。大切な存在を害した。
だから怒りを感じた。
けれど、裏切りを悲しくは思わなかった。
友人に邪魔とかいらないとか言われても傷付かなかったのに、この人たちにいらないと思われるのは悲しかった。
そうか。
私は友人を大切だと思ってなかったんだ。
私はこの人たちを大切に思ってるんだ。
「…そうか。俺らのこと嫌いじゃなかったんだな」
「…はい」
「あぁ、うん。そうか。…よかった」
桐弥が自分の感情に気づいた時、ヴェルトはほっとしていた。
正直、キリヤを知っているヴェルトたちにとって桐弥は戸惑いしか感じない存在だった。
特に、桐弥が前世のキリヤだと知っているヴェルトにとっては他人に弱味を見せないようにしていたキリヤが前世ではこんな姿だったと知って、違いを認められなかった。
だから桐弥とあまり関わらないようにしていたし、桐弥を見ないようにしていた。
しかし、桐弥とこうして話してみてヴェルトは納得した。
桐弥は確かにキリヤだったんだな、と。
その桐弥に嫌われていると思っていたヴェルトは少なからず辛かったのだが、今の桐弥の言葉でつい口元が緩む。
あ、やばい。
桐弥はそう思った。
「俺らを好きになってくれて嬉しい。俺らも桐弥が好きだから」
桐弥はまた泣きたくなった。
どうやっても敵わないことが分かってしまったから。
まさか、恋に落ちた瞬間に失恋するなんて。
…はい。
まだキリヤが登場してくれません。
それどころか桐弥が主人公に取って変わってきてますからね。
おいおい…
いつ戻るんだ…?




