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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が笑う話 パート③

すみません、遅くなりました…


最近、この話ってこのまま進めて良いのだろうか…と悩んでたんですが、もう今更感が半端なかったので、矛盾とか気にせずに書きたいこと書こう!

と、開き直ってしまいました…


開き直ってしまいましたが、多分書くスピードは早くならない…です…


すみません…




少女にとって、西川昭一とは己の半身であった。


辺境の小さな村で生まれた少女は、自分と周りとの間に見えざる壁が存在することに気づいた。

少女と周りの人間とでは、あまりにも考えが違い過ぎたのだ。

孤独に苛まれる少女の前に、一つの出会いが訪れる。

森で木の実を採取していた少女の前に、ふらふらと丸い何かが現れたのだ。

その丸い何かに手を伸ばし、触れた瞬間。

少女は解った。

これは、あたしの半身なのだ、と。

少女はすぐにその丸い何か…魂を己の身の内に取り込んだ。

欠落していた何かが埋まった気がした。





西川昭一にとって、少女とは己であった。


お前は消滅するだろう。

そう言われた。

元よりロクな死に方などしないだろうと思っていたが、まさか死んでからこんな目に遇うとは思ってもいなかった。

神とかいう何かから力を奪って逃げ出し、地球よりも文明的に劣る世界へやってきた。

世界を渡るということは相当疲れるのか、肉体など無いのに体が重いと感じる。

そして、もうこのまま消滅してしまうのではと思った時に、少女に会った。



人として、あるいは社会性を持つ存在として、何かが欠落していた少女と西川は、出逢ったことで、完璧な存在となった、


…と、二人は思っている。


魂が交わったわけでもない。

ただ、同じ器に二つの魂が存在していただけの話だ。

それでも。

二人にとって、お互いは大切な存在だったのだ。






キリヤの結界が消え、火山の熱と汚れた空気が少女を襲う。

しかし、少女が包丁を振り下ろすことをやめる理由にはならなかった。

キリヤから包丁を引き抜いて、新たに振り下ろそうとした時、キリヤの手首から強烈な光が発される。


「なっ……!」


光はキリヤと少女を飲み込んだ。

光の中で、キリヤの傷が瞬く間に癒されるのを少女は見た。


「なんなのよ!早く!死んでよ…!」


包丁を振り下ろそうとしたが、何故か体が動かない。

それどころか、手に力が入らなくなり、包丁を落としてしまう。


「…あぁ…」


声がしてキリヤを見れば、起き上がるところだった。

少女はなぜか、これは違う、と感じる。


「酷いことをしてくれる。服が血だらけじゃあないか。穴まで空いているし」

「……だ…れ…」


舌が痺れる。

口がうまく、動かせない…

これは緊張と恐怖だ。


「誰とは?私はキリヤだ。よく知っているだろ?」

「…違、うわ…あなたは…」

「ふは!そうかそうか。お前のような低俗な魂でも分かるんだな?くくく…確かにお前の知るキリヤではないが、私も紛れなくキリヤなんだ」


違う。

これは人間じゃない。

悪魔だ!

その悪魔が少女に手を伸ばしている。

このままでは、この悪魔に少女は殺されるだろう。

キョウイチとは全く別の方法で、そして、少女は跡形も残らない。


「チッ…残念、時間切れだ。助けが来た」


キリヤはそう呟くと、力が抜けたように、地面に倒れ込んだ。

少女は、倒れたキリヤを茫然と眺める他なかった。








少し時間は遡る。

酒場で根掘り葉掘りいろいろと恥ずかしいことを暴かれたヴェルトは、同情してくれたミゼンに肩を借りて孤児院へ帰って来ていた。

自室へ運ばれ、ヴェルトはベッドへ倒れ込む。


「…今なら死ねる。俺は死ねる」

「…待て。確かにヴェルトも恥ずかしかったかもしれないが…」


途中から、聞いてたこっちも恥ずかしかった。


そう、ミゼンが言った瞬間、ヴェルトは死んだ。

精神的に殺られた。


「…ミゼン、俺は死んだ。だから後のことは頼んだ」

「…キリヤはどうするんだ」

「…ミゼン、急に真面目な話に戻すなよ…分かってる。キリヤを迎えに行かねぇとな」


自身の中の魔力を操作して、体のアルコールを分解する。

このアルコールとやらのことは、キリヤから聞いた。

そのため、そこまで詳しくはないがもともと無意識で分解出来ていたのだから、慣れたら他の魔法と同じように使えるようになった。

ヴェルトは体を起こして、自身の体調を確認した。


その時、ヴェルトとミゼンはお互いに身構えた。

何か、大きな存在が、部屋に近づいていた。


「…敵、か?」

「…分からん。敵意はねぇ…が、力が強すぎる」


ミゼンとヴェルトのこめかみを冷や汗が流れていく。

そして、それは現れた。

部屋の隅に、するりと現れたそれに、二人は驚き、お互いの顔を見合わせた。


「…ヴェルト、お前…双子だったのか?」

「おい!待て!あれがドラゴンたちが見たっていう敵だろ!」

「だが、敵意はない…」

「言っとくが俺に兄弟はいねぇぞ!そこのテメェも何か言え!」


ミゼンのボケにヴェルトは頭を抱えたくなった。

それを茫然、といったように見ていた敵?は、ヴェルトに叫ばれてハッと我に返ったようだった。


「…私は…貴方の憎悪という感情だ。一人の少女に言われて、帰って来た」

「あぁ。そうか。…悪かったな」

「…貴方が私を捨てたことは理解できる。…だが、私は…」

「テメェは憎悪なんだ。俺のな。だからテメェが俺を憎むのは当たり前だぞ。…俺は俺が憎い」


ヴェルトは、少し躊躇しつつ、憎悪に…己自身に近付いた。

憎悪も、恐る恐る、ヴェルトに歩み寄る。


「多分、今ならテメェを受け入れられる…あの時は、俺には何もなかった」


ヴェルトと憎悪は向かい合った。


「あぁ、貴方の変化を、私も感じる」

「そうかよ。じゃあ…」


二人は自然と手を伸ばして…

強く、握手を交わした。


「待たせて悪かった」

「いや…こちらから出向いた甲斐があった。彼女と会えて、私たちは幸せだな」

「…うるせぇ」


少し照れた様子を見せたヴェルトに、憎悪は少し微笑んだようだった。

それから、憎悪は消えていった。





憎悪の消えた場所を、ヴェルトはじっと見ていた。

そんなヴェルトの様子をミゼンは見守っていた。


「…ミゼン」

「…どうした?」

「…俺は……何か変わったように見えるか?」

「そうだな…前よりも、近寄りがたい、な」


ミゼンは正直にそう答えた。

事実、ヴェルトから普段は感じられない…殺気のような気配を感じ取れるようになっていた。


「…そうか」

「あぁ。だが、前よりもキリヤに受けがいいんじゃないか?キリヤは少し影のある…渋いというか、そういうタイプが好きだろう?」

「……待て、待ってくれ。ミゼンはキリヤの好きなタイプ知ってんのかよ!?」

「いや、見ていれば分かるだろう。キリヤは組織の奴らとか、トーマとか好きだろう」

「確かにそうだが…いや、……アイツ確かに渋いの好きだな…」


キリヤが渋い男や影のあるタイプにキャーキャー言っていたことを思い出して、ヴェルトは落ち込んだ。

その瞬間にヴェルトから発される殺気が感じ取れなくなり、つい思わず、ミゼンは笑ってしまった。


「…なんだよ」

「…いや…ヴェルトはキリヤのことを考えていればいい」

「…はぁ!?」

「そうすれば、憎悪に呑まれることはないと思うが」


ミゼンの発言に、ヴェルトは少し面食らった。

確かに、憎悪を受け入れた直後は人間…今まで裏切られたことだとか、迫害されたことだとかを思い出して沸々と仄暗い感情に囚われていた。

だが、キリヤのことを思い返した時、そんな感情は消えてなくなっていた。


「…あぁ。そうする。キリヤやテメェらといたことを思い出すと今までのことが馬鹿馬鹿しく思えてくるからな」


過去が何であろうと、今は幸せだ。

自分を認めてくれる仲間がいる。

自分の欠点を含めて、尊敬を向けてくれる奴らがいる。

自分に何かあった時、手を伸ばしてくれる友人がいる。

自分の隣を、一緒に歩いてくれる大切な存在がいる。


「…迎えに行くか」


そうだ。

隣を歩いてくれる大切な存在を取り戻しに行かなければ。










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