私が笑う話 パート②
な、なんとか一ヶ月以内?で間に合いました…
西川は私にナイフを飛ばしてきた。
私はそれを軽く避ける。
「ふふ、もっと逃げて、もっと長い時間僕になぶられてくれ!そして、君が命を散らす瞬間に、僕を投げ飛ばしてくれると尚いいよ!」
「やめろドM、気持ち悪い!私はあんたに殺される予定もないしあんたを投げ飛ばして喜ばせる予定もないから!」
「あぁ!もっと意外なことをしてくれてもいいよ!死に際の驚異的な生命力を僕に見せてくれるだけでいいんだ!」
「…うわー、マジで話聞いてくれないとか、何この人。コワイ」
「こっちに来てからも何度か殺してみたんだけど、僕に攻撃が効かないって分かるとみんな諦めちゃうんだ。こんなつまらないことはないだろう!?どうしてみんな最後を頑張らないんだろう。その点、君は最高だよ!他者を庇って自分が痛みを受けても動じないし」
「そういう説明いらないから」
通じていない会話をしつつも、西川は私に飽きることなくナイフを投げ続け、果てには包丁も飛んできた。
私も何度か攻撃をしてみたが、どんな種類の攻撃をしても跳ね返ってくる。
「あぁ、でも、あの女の子の母親は良かったけどね。君までとはいかないけど、どれだけ刺しても絶対に女の子を放さなかったし。ま、君と違って悲鳴を上げてたけどさ」
最悪だ。どうしてこんなやつが記憶を持ってこの世界に転生してきたのだろうか。
いや、むしろどうしてこの魂が消失していないのだろうか。
この魂は穢れ過ぎている。
「ねぇ、どうやってこの世界に転生したの?そんな可愛らしい女の子になってるし」
「ん?あぁ、そのこと?転生というか、乗り移っただけだよ。正確には乗っ取ったというのが正しいかな。僕はね、神様とやらからこの力を貰って魂だけでこの世界に無理矢理やってきたんだ。
もう少ししたら消滅する、というところでこの子に会ったんだよ。ギリギリだったから肝を冷したね」
今の話を聞くに、西川は魂だけの存在で、無理矢理この世界に止まっているということになる。
後で神様を一発殴ろう、うん。
このことに神様が気づいていないはずがないのだから、きっと私に丸投げしたに違いない。
ということは、私には西川に対抗する力があるということだ。
あれは、攻撃じゃなければ発動しないものであるはず。
「言っておくけど、私、めちゃくちゃ強いからね?」
「関係ないよ!この力のおかげで僕とこの体を傷つけられないだろう?」
「いや?その体を傷付けるつもりはないけど、あんただけなら殺す自信はある」
「ふうん?面白いな!」
私は西川に肉薄した。
まずは左足で蹴りを入れる。
瞬間、見えない力によって吹っ飛ばされる。
「っ…」
「無駄だって」
…こんなに痛かったのか…
今度から鍛練の時気を付けてやらないとなぁ…
自分に帰って来るから遠慮なく蹴ったけど、痛いものは痛い。
西川は攻撃の手を休めずにナイフを投げてくる。
結界を張ってそれを防ぎ、もう一度空へ飛ぶ。
「なぁ、いつ僕を殺すんだい?あれはハッタリだったのかな?」
「そんなに早く殺されたいんだ?」
「いいや。君が足掻く様が見たいだけだよ」
「…この変態め」
「ふふふ、褒め言葉だね!」
あ、やばい、マジで鳥肌たったぞ!
「…まぁ、そろそろいいかな?」
私は片手を西川に向けて突き出した。
「どんな攻撃も僕には効かないよ?」
「知ってる。でも、攻撃じゃなきゃ効くでしょ?」
「…攻撃じゃなきゃ意味がないんじゃないのかな?」
「そう?攻撃以外の方法でも人を倒すことはできるよ」
まぁ、私か神様くらいしかできないけどね!
「綺麗になろうか、変態」
「…なんだ……?」
西川に突き付けた掌から水色の光が漏れる。
その光は西川に向かって流れて行った。
光は西川を取り巻くように流れて、ゆっくりと西川の体を包んでいく。
「これが君の奥の手?痛くも痒くもないんだけど?」
「痛かったら大問題だし」
「じゃあ何なんだい?本当に僕と戦う気あるの?」
「ハッキリ言ってない。どうしてあんたと戦わなきゃいけないわけ?めんどくさい。自然の摂理に従って勝手に消えればいい」
水色の光が濃くなっていく。
この光は浄化の光だ。
魂の穢れを払うための光。
「…なんだ、これ…僕の記憶が…待ってくれ…やめろ、やめろぉ!!」
西川は唐突に頭を抑え、うずくまった。
「おかしい、やめろ!何をしたんだ!君との記憶が消されていく!!これは僕の最高の体験なんだぞ!」
「私にとっては最悪の体験だったよ」
私は地面に降り立って、うずくまる西川の肩に手を乗せ、なるべく柔らかく見えるように微笑んだ。
「大丈夫、その記憶は私が覚えてるから。あの時の痛みも憎しみも悲しみも全部忘れたりしないよ?」
私を見た西川が、はじめて顔を青ざめさせた。
「あ、謝る!僕が悪かったんだ、ちょ、調子に乗りすぎた!だから、頼む…」
「あはは、何言ってるの?あんたは何も悪くないよ。あんたがそんな性質を持つことになったのは魂とか生まれ育った環境とか、そういうのだし。私が死ぬことになったのは私があの女の子を庇ったから。魂が浄化されずにこの世界に来たのは神様がまともに仕事しなかったからだし?」
「う、あ…」
光がどんどん濃くなって、西川を包む。
うん、もうそろそろかな?
喘ぐように手を伸ばし、涙をぼろぼろと流す少女には申し訳ない気がしたが、べつに少女に害があるわけではないのだから構わないだろう。
光が最高潮に達し、少女は軽く痙攣して、パタリと倒れた。
その少女から、小さな光が浮かんでくる。
私はそれを掴んで、異空間に突っ込んだ。
「さよなら、西川昭一さん」
改めて結界を張り、倒れる少女を保護する。
忘れてたけどここ火山地帯だったわ、うん。
多分一般人だし、もとのところに帰すか保護するか考えなきゃなぁ…
「…ん…」
私と同じくらいだし、もしかしたら結婚とかしてるんだろーか…
孤児じゃなかったら家族もいるだろうし…
あー…そこらへん国王に任せるか…
大変ダナーと他人事のように考えていたら、少女が目を覚ましたようだ。
「大丈夫?」
少女は視線をふらふらとさせながら、キリヤを見た。
「どこか痛いところは?見たところ外傷はないようだけど…」
「…あなたは…」
「あぁ、ちょっと通りすがった者です。倒れてたんですよ、貴方」
「…ここは…」
「んー…火山地帯、かな…よかったら家まで送りますけど、起きれます?」
「はい…あの…すみません、手を貸して貰っても…」
私は上体を起こした少女の背に手を当て、片方の手を掴んで起き上がらせた。
少女は少し体をふらつかせ、私に倒れ込んできた。
「……あ」
あぁ、やばい。
そう思ったころには手遅れだった。
私の体は力が抜け、地面に倒れていく。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ!」
少女の笑い声が響く。
少女の手には真っ赤な…私の血がべったりとついた包丁が握られている。
私の左胸は真っ赤だ。
「や、め…」
「あら、どうして?あたしからあの人を奪っておいてそんなことをおっしゃるの?」
少女は私に馬乗りになって、何度も何度も包丁を振り下ろす。
「あたしの、半身を!キョウイチさんを!あの人を殺しておいてあなたは助かりたいとでも言うのかしら?」
「ちが…う…この、まま…だと…」
神様から貰ったブレスレットが、全てを飲み込むように光った。
…というわけで、多分次からヴェルトのターン!………か?




