私が秘密を話す話 パート⑨
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします\(^^)/
そう言って、彼らに軽く神通力を流した。
彼らには一瞬のことだったので理解できなかっただろう。
しかし、私は軽い目眩を覚えて目元を覆った。
「なんだこの女」
「急にふらつきやがった」
「我々の殺気をもろに受けたのでは?」
そんなことでふらつくわけがないと知っているアイリーンは慌てて私を支えてくれた。
「っ…ふぅ…すみません、アイリーンさん。ありがとうございます」
「いや…大丈夫?何をしたんだ?」
「彼ら5人の記憶を見たんです。もう大丈夫です」
「!!…何か分かった?」
「…別室に移りましょう。最近立て続けに力使ってるせいですぐに疲れるんですよね…」
まぁ、ブレスレットを取って力を解放してしまえば余裕なんだけどねー
ちょっと、ブレスレットに術式を沢山付加してあるから解放するのは面倒なんです…
私の言葉にアイリーンは頷いて、ヴェルトと宰相さんと一緒に部屋を出る。
え?その時のドラゴンたち?
さぁ…耳栓してて何も聞いてないな!
すぐ近くの部屋に入り、四人でテーブルを囲むように座った。
あ、さっき宰相さんにお茶淹れて貰ったし今回は私が淹れようかな。
私が異空間からお茶セットを出して魔法で水を出してお湯にしてポットに注いでいく。
「…キリヤ様、本当に疲れてるんですか?」
「え?みなさんも疲れてません?あの5人を相手にしてると目眩もおきますよね!」
「そうだな」
「…すまない…」
アイリーンさんがしゅん、となって謝っていた。
まぁ、誰が悪いとか一概には言えないから責めるつもりはないけれども。
「それでですね、あの5人の記憶をみたんですが、確かに賢者様に似た姿の者を見ているようです。それも最期の記憶として。彼らを魔獣化した方法は今のところ不明です」
「似た姿…賢者様を陥れようとしているのでしょうか?」
「その可能性は無くはありませんが…彼らの記憶を見るに、目的は私でしょう」
頭に「え?理由は?」という疑問文を浮かべたアイリーンと宰相さんに根拠を話す。
私一人が単独で動いている時(魔族の国に行った時)も狙われたこと、一回目の襲撃で私の知り合い(?)を被検体にしたこと、などを伝えた。
「…それは…」
「まぁ、別に私が目的なのはいいんですよね。問題は敵の正体がよく分かってないことですよ。あれらの記憶を見たところで、賢者様に似た姿しか写ってなかった。敵が本当はどんな姿をしているか分かってないんですよ」
「…私たちの近くに、いるかもしれないってこと?」
「そーなんですよねぇ。実はあのドラゴンの一人がそうかもしれない。実は騎士団の中に紛れてるかも…もしかしたら、既に、私という人物が入れ替わっているかも」
「っ…!!」
宰相さんとアイリーンは、ガタリと椅子を蹴った。
「あぁ、安心してください。その場合は賢者様がちゃんと気づいてると思うので、今のところ私たちの近くに敵はいないですね」
宰相さんとアイリーンはヴェルトに視線を向けた。
ヴェルトは頷き、宰相さんとアイリーンは、不安そうな顔をしながらも姿勢を正した。
「対策を考えなければいけませんね…」
「そうだな」
「え?簡単じゃん」
宰相さんとヴェルトが深刻そうな顔をしていたから、私は努めて明るい声で言った。
「私が一人で敵と戦えばいいんだよ」
結局、話は纏まらなかった。
ヴェルトは私一人に任せることを嫌がったし、アイリーンと宰相さんも控え目に反対意見を述べた。
とりあえず、今回はこれまでにして、また話し合いをしましょう、ということで落ち着いた。
宰相さんは一人国王に報告するために王宮へ戻って行った。
私は拗ねているヴェルトとアイリーンと共に一度ドラゴンたちのところに戻った。
「アイリーン!」
「賢者たちに何かされなかったか!?」
ドラゴンたちはアイリーンにわらわらと集まりアイリーンの無事を確かめる。
「失礼だな」
「ね。何かするわけないし」
私とヴェルトはその様子を見ながら疲れたように呟く。
アイリーンも困ったように彼らに返事をしながら、助けを求めるようにこちらを見てきた。
「はぁ…はいはーい。みなさんいい加減落ち着いてくださいねー。アイリーンさんはこの国でお客様として扱われていますので変なことはしてません」
「あぁ、賢者たちに何もされてない。ただ話をしてただけだよ」
「そいつらにそう言わされてねぇだろうな?」
「…邪推しすぎでしょ……アイリーンさん、一応ドラゴンの国としてはもう、問題は解決したということでいいんですよね?」
「あぁ。皆様も戻ったし、これ以上国を離れているのもね…」
「では、私がみなさんをドラゴンの国に送ります。アイリーンさんは国を思い浮かべてください」
「すまない、助かる」
私はアイリーンさんに触れて、魔力を流した。
「転移!」
離宮の部屋はゆらゆらと消え、ぱっと視界が切り替わる。
視界に最初に入ったのは広々とした更地だった。
少し遠くには林が見え、更地には人…多分ドラゴンたちだろう、が戦っていた。
私たちが唐突に現れたことで、ドラゴンたちがザワッと騒がしくなり、アイリーンたちを囲んだ。
ふう、よかった。ちゃんと全員転移できてる。
「陛下だ!」
「うわあぁぁ!陛下ぁー!!」
「お待ちしてたんですよぉぉぉ!」
「陛下のお帰りだー!」
「あぁ!行方不明だったみなさんが!」
「陛下が連れ帰ってくれたんですね!!」
私とヴェルトはアイリーンたちから離れ、外野として生暖かい視線を彼らに向けて微笑んでおいた。
あぁ、うん、忠犬か……と。
囲まれているアイリーンは私たちの視線に気づいて顔を赤くしていた。
それからドラゴンたちを宥め、私たちのところへ来る。
「…賢者、キリヤ、迷惑をかけた。すまなかった」
「いえ、私の方こそ巻き込んですみませんでした」
「…キリヤに言われたことは忘れない。私はちゃんと王様をやるよ」
「期待しています。あぁ…でも、もし辛くなったときは、ちゃんと誰かに相談してくださいね。自分が壊れてしまっては意味無いので」
「…分かった。あの、…」
言い澱んだアイリーンは、意を決したように深呼吸をした。
そして、私を見据えた。
「私は、賢者が好きだっ!!」
その告白にざわめいたのはドラゴンたちだった。
アイリーンの後ろではドラゴンたちが阿鼻叫喚の悲鳴を上げ、五人のドラゴンは茫然とした顔をして突っ立っている。
…えっと、なんで私を見たの?
私は困惑した顔をアイリーンに向ける。
やはり、アイリーンは私を見ている。
「ええっと…それは賢者様に言ったほうが…?」
「うん。でも、きっと賢者は私の気持ちに応えてくれることはないから。短い間だけど、二人を見ててそう思った」
「そうでしょうか…」
「だからね、キリヤ。私のこの気持ちをキリヤに渡してもいいだろうか?」
「…へ?」
「私は賢者への気持ちを諦める。未練も持っていたくない。スッパリと無くしたいんだ」
「えーっと、渡すって具体的にどうするんですか?」
「…まぁ、本当に気持ちを渡すわけじゃないんだ。これを貰ってほしいんだよ」
アイリーンは首から提げている紐を服の下から取り出した。
その紐には小さな瓶がくくりつけられていて瓶の中では何かがキラキラと輝いていた。
アイリーンはそれを私の首に提げた。
「…本当にいいんですか?」
「うん。もう必要ないよ」
「では、貰っておきますね」
私はアイリーンさんに倣って服の下に瓶を入れた。
「色々とありがとう。二人がまたこの国に遊びに来るのを楽しみにしているよ」
「こちらこそありがとうございました。是非来ますね。…よかったら、また遊びに来て下さい」
「…ありがとう」
アイリーンに手を振って、私は転移を開始した。
アイリーンの瞳から涙が溢れるのは、見ないふりをした。
…敵わないなぁ、本当に。
あぁー…
なんというか、どうしても女の子って悪い子にできないっていうか…




