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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
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私が秘密を話す話 パート⑦




執務室には、国王と王妃様、アルベルト様、マリオット様、メアリアがいて、転移して戻ってきた私たちを待っていた。


「…やはり執務室に戻っていらっしゃいましたか…」

「悪いな。襲撃してきたドラゴンたちだが、どうやら"呪い"に掛かってたらしい。その"呪い"は解いたからこいつらを治療してやってくれ」

「なるほど、"呪い"ですか。パーティに参加していた貴族にはそのように通達しておきましょう。此度も助力、感謝します」

「俺はほとんど何もしてねぇけどな」


ヴェルトが国王と話しているのを尻目に、私は執務室に置かれたソファにふらふらと近寄って行き、ぼふ、と突っ伏した。

…もう無理だ…眠すぎる…

ヴェルトが慌てて駆け寄ってくるのを最後に見て、私は眠りについた。






唐突に倒れ込んだキリヤを見ると、気持ち良さそうに寝ていただけだったので俺は安堵のため息をもらした。

何事かと慌てる周りを制した。


「大丈夫だ。寝てるだけだ」

「そうでしたか…それほど大変だったのですか?」

「キリヤだけだろ。ドラゴンの"呪い"を解くために力を使ったからな」


ここにいるヤツがキリヤについて口外することはないと思うが、一応口止めしておくことにする。


「キリヤの力については他言を禁止させてもらうぞ。アイリーン、特にお前はな」

「…あ、あぁ…分かってる」

「誰かに漏らした場合、お前は全て失うことになるかもしれないと肝に命じとけ」


アイリーンを見たが、先ほどの光景に未だに放心しているようだった。

他種族に関心を持たないドラゴンのアイリーンがキリヤに何かとちょっかいをかけていることが、どうにも気に食わず少しアイリーンに対してキツくなってしまった。

それから少しだけドラゴンの扱いに対しての話をした。

アイリーンはこのドラゴンたちが回復するまでここに残るらしい。

ウィルたちは精神的疲労がピークだったのか、「賢者ー…俺ら先帰るぞ…」とぐったりとしながら帰って行った。

それに便乗してダイロスも帰って行った。

ジョットはこれからの話を聞くべきではないと感じたのか、退出を申し出て執務室を出ていく。


「…それで?何か聞きたそうだな。何が知りたい」


なにやら物言いたげな視線を何人かに向けられ、俺はキリヤの眠るソファの背もたれに腰をかける。


「…姉さんが使った力は…一体何なんだ?」

「さぁな。キリヤは神通力と呼んでる。神に通じる力らしい。キリヤの持つ独特の力だからな。俺らには使えない」

「…学園を襲撃してきた者と同じ者の犯行でしょうか?」

「あぁ。俺はそう見てる。キリヤもだろうな」


そして、キリヤが狙われている、ということも。


「…賢、者……キリヤは、彼女は、一体…何、だ?」


アイリーンが、震える声で聞いてきた。

よく見れば、顔は青ざめ手も震えている。


「キリヤは俺より強い人間だ。そしてこの世界で一番強い」


俺はオルディーティの夫婦とハルトに目を向けた。

夫婦は気づいていたのだろう、「やはり」と声を溢していた。

ハルトは気づいてなかったんだろう、驚いた顔でキリヤを見た。


「これ以上は俺から言うことはない。キリヤが信用できる奴に自分で話すべきだと思うからな」


俺の言葉に夫婦とハルトは表情を暗くした。

…別にお前ら信用されてねぇわけじゃねぇぞ。

俺は他から質問が飛んでこないことを確認し、レオナルドに目で退出を伝える。

レオナルドは頷き、頭を下げた。


「俺らはそろそろ帰るぞ。キリヤをこのままにしてたら体調崩す」


俺は、誰かに止められる前に孤児院に転移した。

レオナルドたちの姿が掠れるように消えた後、視界が切り替わったように孤児院の庭に立っていた。

王宮へ行ったのが七時、それからパーティー自体が三時間ほど行われ、そこからドラゴンの出現…

お陰で深夜になってしまった。

寝静まった孤児院になるべく物音を立てないように入り、キリヤの部屋へ向かう。

…昼間、キリヤは俺に何を言いたかったのだろうか。

キリヤの部屋に入り、キリヤをベッドに寝かせる。

キリヤはベッドの上で丸くなり、言葉にならない寝言を呟いた。

俺はベッドに腰をかけ、キリヤの頭を撫でた。


「…不思議だよなぁ。キリヤに会う前の100年とキリヤに会ってからの13年…13年のが圧倒的に長く感じるんだぞ」


長かった。

100年よりも遥かに衝撃的で楽しくおもしろい日々だった。

だから。


「…俺と同じ感情を持ってくれなくてもいい。俺を唯一と言ってくれたからな。…頼む、隣にいてくれ」


時折、キリヤが酷く遠く感じる。

…いいや。

…俺が踏み込めなかったその先で、キリヤは待っていてくれているのかもしれない。







私が目を覚ましたのは本当に一週間後だった。

ただ寝ていただけだったので起きた時は体が固まってしまっていて困った。

一週間の間に動きがあったようで、起きて特に異変がないと分かると早速王宮に連行された。


「あ、おはようございます」

「……賢者様、確かに私はキリヤさんが目を覚ましたら連れてきて欲しいと頼みましたが起きて直ぐ、しかも執務室に現れるのはやめていただけませんか」


ヴェルトに連行され、寝起きのまま転移したら国王が執務室で仕事をしていた。

部屋にいた男性が諦めたようにため息をついたのが印象的だったよ、うん。


「めんどくせぇ。ここに転移すんのが一番楽だろ」

「…賢者様が転移される度に王宮の結界が揺らぐのですが」

「揺らぐだけだ。その間に侵入されることはない……多分な」

「今多分って言いましたよね?」


ヴェルトは視線をスッと国王からずらした。

私はそれを見て苦笑し、国王に向き直る。

国王は私の視線に気づき、私と同じように苦笑してから持っていたペンを置いて立ち上がった。


「どうぞ、座ってください。キリヤさん、体調はどうだろうか?」

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」


国王は私たちをソファに案内し、席を勧めた。

お言葉に甘えてヴェルトとソファに座り、部屋にいた男性が出してくれたお茶を貰う。

私が不思議そうに男性を凝視していたら、ヴェルトに頭を小突かれた。


「痛っ」

「凝視すんな」

「だって気になるじゃん!賢者様が姿隠さないし、王様も何も言わないし!向こうは私のこと知ってるみたいだし?」

「ん?キリヤさんは会ったことなかったか?これは宰相のナタエルだ。もし私が居なかった時はこれを頼ってくれ」

「…宰相のナタエル=ラサロと申します。陛下への取り次ぎは私が行っておますので、まぁ、機会がありましたらよろしくお願いします」

「キリヤです。賢者様の付き人です。よろしくお願いします」


宰相さんは国王と同じような年に見える、くすんだ深緑の髪色の男性だ。

彼の煎れたお茶が妙に美味しかったので、この人いつもやらされてるんだろうなぁ…と思った。


「それで、あのドラゴンたちはどうなったんですか?」


私が国王に向き直り姿勢を正すと、国王も真剣な面持ちになった。

…待て待て、その手にあるお菓子を置いてくれ。

あぁ…食べるなよ…


「…王様…太りますよ?」

「むぐっ…ドラゴン達だがな、キリヤさんが倒れた2日後に目を覚ました。まぁ、賢者様が居なければ散々なことになっていただろう…どうして彼らはあの様に人間を見下しているんだ?アイリーン殿はそれほどでもなかったのだが…」

「あー、確かに。魔族も理解ある人はいいんですけどねー。魔族によっては私たちのこと虫か何かだと思ってますよねー」

「待って下さい、愚痴になってます!話逸れてますから!」


宰相さんに怒られた。

宰相さん、座ればいいのに。立たれてると落ち着かないんだけどな…


「それで、まぁ、賢者様とアイリーン殿に彼らを任せたんだがな。最後の記憶が…」

「俺を見たんだとよ」

「…賢者様を?」

「正確に言うと、俺の偽物だな。あのドラゴン達も俺の姿をしていたが俺そのものではないと言っていた」

「そのものじゃない?一部は賢者様でもあったということ?」

「そういう言い方だったな」


…なるほど。

それならば、あの傀儡術事件とか、キメラ製造についても説明がいく。

ヴェルトの一部を持っているならば、ヴェルトに次ぐ力を持っていて同然だろう。


「…賢者様、いつ一部持ってかれたの?」

「知らん。俺は何かが欠けているという感覚はねぇぞ」


ううーん…

確かに、ヴェルトの魂に何か干渉された気配もなく、それに欠けていることもない。

一部と言っても、ヴェルトの髪だとか血だとか腕とか(猟奇的!!)を持っていても意味はない。

ヴェルトの魂の一部でなければ…


「…たましい?」

「あ?どうした?」

「…ヴェルト、ごめん。もしかしたら…」


そうだ。

魂とは何かと聞かれたとき、その人の気質、あるいは心だと、私は思うのだ。

心が欠落することはまずない。

けれど…

心は、傷ついても、治ることがあるのではないか?


「…一連の事件…私のせいかも」





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