私が秘密を話す話 パート⑥
「はーい、点呼しまーす。賢者様ー」
「…」
「ノリ悪いなぁ!返事くらいしてくれてもいいのに…あれ、みんなどうしてそんなに絶望した顔してるの?」
「キリヤのせいだろ!」
私は周りの表情を見て首を傾げた。
ヴェルトは呆れた顔で、ウィルたちやシェリエはとても嫌そうな顔を、ミゼンは困った顔をしていた。
後のメンバーは絶望した表情である。
「いやだなぁ。一緒に戦ってくれるって言ったのはみんなじゃん。さてさて、それではみなさん。あの5人を倒して貰いましょうか!」
「姉さん!どうしてアレンやジョットまで…!」
「え?アレンはまだ魔力の滞りが元に戻ってないし、ジョットは今どれくらいできるのか知りたくて。ハルトはシルフィとルーチェいるから何とでもなるかな、と」
「…嬢ちゃん…実の弟にも容赦ねぇなぁ…」
「そんなこと言ってるギルドマスター!君もSランクになれるくらいの実力を持っていたと聞いて同行させたんだよ!」
「殺す気か!」
私は苦情を投げ掛けてくる彼らをサラッと無視して、ドラゴンたちへ向き直る。
私たちが転移してきた場所は、私が作り出した異空間の中だ。
時間は外と同じように進む。広さは東京ドーム一つ分ほどだろう。
ただし、東京ドームと言っても通じないので、王都の3分の1だ、と言えば伝わる。
ただただ更地が続くだけで、障害物は無し、遠くに山っぽいものが見えるが、それは実際は壁に描いてある絵のようなものなので、まぁ、関係ない。
この異空間は純粋な、ただの別の空間だ。
傷が早く治るとか、死なないとか、そんな効果は全くない。
「なので、必死になってね!」
「何がだよ!」
渋々、異空間の中は外とほとんど変わらないことを伝える。
「おい、やべぇ。結界が壊れるぞ」
「おおっと。シェリエはアレンとハルト、ジョットを宜しく。その補佐にギルドマスター付けるし。ミゼンなら一人で余裕だよね?危なくなったらちゃんと補佐するから。ウィルたちはこの間も余裕そうだったし、よろしく!ヴェルトも一人任せていい?…アイリーンさん、貴女も一人任せます」
私がそう言った瞬間、結界は音を立てて割れた。
結果を言うなら、ヴェルトは瞬殺した。
あ、嘘ついた。殺してはいないよ!多分。
一応、息はある状態だが、ヴェルトが軽くあと一撃食らわせただけで死ぬだろう。
他の面々は苦戦…はあんまりしてない。
ウィルたちは息が合っているので闘い易そうだ。
段々と弱らせていく寸法なんだろうなぁ、と思う。
ここは戦っているメンバー以外の一般人とかを気にしなくて済むので安心して攻撃を避けられる。
ミゼンはここで超人パワーを発揮してくれた。
速すぎて見えません。
私は何とか動きを追うことができるが、ヴェルトは諦めたようだった。
…ミゼンに体術で勝てることは一生ないと思う…
…それにしても、あの暗器の数…どこに仕舞い込んでたんだ…?
シェリエたちも頑張っていた。
あのグループは即席で作ったため、少し心配だったのだがハルトたち年少者3人が意外と良いチームワークを発揮してくれた。
ハルトが主に攻撃を仕掛け、その補助をジョットとアレンが行う。
詠唱のせいで空いてしまう時間をシェリエとギルドマスターがカバーすることで、危険だと思うところはあまりなかった。
…一番心配なのは、アイリーンだ。
混乱もしてるし、動揺で普段の実力の半分ほどしか出せていないだろう。
「ヴェルト、みんなをよろしく」
「あぁ」
私はヴェルトにこの場を任せ、アイリーンの所へ向かった。
とりあえず、無詠唱の魔法をぶっ放した。
「な…キリヤか!」
「なにしてるんですかアイリーンさん。ちんたらやってると死にますよ」
「うるさい!この方は!」
「アイリーンさんのかつて知り合いだった方ですか。知りませんよそんなこと。アイリーンさんは王様らしくさっさと処理をしてください」
「っ…」
めっちゃ睨まれた。
私の方こそ睨んでやりたいくらいだ。
別に殺せなんて言ってないのに。
現にヴェルトは殺さず、虫の息程度で留めてある。
ウィルたちやシェリエたちも殺さずギリギリまで体力を削っている。
まぁ、一人元に戻せば後の四人は殺してしまっても構わないんだが…
イラッとしたので無詠唱魔法をバンバン打ち込んでいく。
「私まで殺すつもり!?」
「うっさいなぁ!!弱いのが悪いんだろ」
「本性を現したな!」
面倒くさくなって舌打ちする。
本性ってなんだよ。私が偽ってるのはアイリーンの前だっての。
あー…早く終わらせて帰りたい…
私はアイリーンを無視してドラゴンに肉薄する。
「っ!」
が、そこへアイリーンが精霊術をぶっ込んできた。
精霊術はドラゴンと私の間を通り抜けていく。
ここでアイリーンを睨むと私も彼女と同レベルになってしまうので、また無視してドラゴンへ攻撃を開始した。
アイリーンが慌てたのが気配でわかった。
ドラゴンは背中の羽だけ獣化させ、それで空を飛んだ。
私も魔法で飛び、ドラゴンとの距離を保つ。
ところどころでアイリーンが精霊術を打ち込んできているが、そのどれもが私とドラゴンの間を通り抜けていく。
…これはもしや、私を邪魔してるだけか?
「…本当に殺されたくなければ、引っ込んでろ」
私は振り返らずにアイリーンに対して殺気を向けた。
何故か目の前のドラゴンまで息を詰めてしまった。
…まだまだ殺気の操作が下手くそみたいだ。
この機を逃すのは勿体ないので、一瞬でドラゴンの目の前まで移動し、ドラゴンを掴んで…投げた。
ドラゴンはヴェルトの前の地面に顔面から激突して行った。
そこでヴェルトから拘束する魔法をかけられ、動きが止まった。
周りを見渡すと他のみんなも殆ど終わっていた。
アイリーンを見れば、彼女は固まって、少し震えていた。
やり過ぎたかもしれない。
魔法を解除して地面に降り、5人のドラゴンを1ヶ所に集める。
「どうすんだ?」
「うーん…5人とも元に戻してもいいんだけどねー」
「それはキリヤに影響が出ない方法なんだろうな?」
「ってな感じで賢者様が心配してるんだよね」
今回使おうと思う神通力も、対価を払う必要がある。
というか、何かを成そうとした時は必ず対価が必要なんだけどね。
私の見立てで彼らを元に戻すために必要な対価は私の寿命100年ほど持ってかれると推測した。
…え?100年持ってかれたら死ぬだろう?
…ごめんなさい、私の寿命は私にも分からないほど長いので100年くらいならいいかなと思える程度なのです…
「寿命100年持ってかれるくらいだから大丈夫だよ」
「それって大丈夫と言うのか…?」
周りから変なものを見る目を向けられたが、ニッコリと笑っておいた。
「あ、あと一週間くらい寝込む」
「…」
ヴェルトをチラッと見たが、ムッスリしているだけで反論は出なかった。
よしよし、ならばさっさとやってしまおうではないか。
「ちょっとみんな離れててね。…我が声を聞き届け給え。彼の声を聞き届け給え。我が声は神に通ずるモノ、彼の声は地に通ずるモノ。彼の者達を救い給え、我を助け給え」
私が詠唱し終わる頃には暴れていたドラゴンたちは大人しくなっていた。
私は神通力を持っていかれた脱力感でぐったりしてきた。
く…まだ寝ないぞ。
「はい、おしまい。多分元に戻ってるけど、この状態じゃ当分目を覚ますことはないから治療してあげて。さてと…どこに戻る?」
返事がなくて周りを見渡せば、みんなぼーっとしていた。
「…え、何、怖っ」
「…キリヤの周りに光りが降って来たんだ。これが神通力か?」
「うん。多分」
いち早く返事をしてくれたヴェルトに何処に戻るか相談したら、執務室でいいだろとお返事をいただいたので呆然とするみんなを転移させ、私たちは異空間からやっと出ることができた。




