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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
112/134

私が秘密を話す話 パート③




主役は後から出てくるのが常であるため、私とヴェルトは一足先にパーチーの会場に入っていた。


「うわぁ…帰っていいかなぁ…」

「…同感だ。帰るぞ」

「待て待て待て待て」


踵を返そうとした私たちの肩をつかみ引き留めたのが、ギルドマスターたった。


「あれ?ギルドマスターも来てたんだ」

「おう。7強の上司が来なくてどうすんだよ」

「確かに。意外と正装似合うんだねー」


ギルドマスターも意外としっかりした服を来ている。

いつもはヨレヨレのシャツだったり冒険者の服装だったりしているのでこの格好は新鮮である。


「それにしても…ほんとに嬢ちゃんたちは視線浴びまくってるなぁ」

「ね。それに見て、この私たちの回りに出来た空間。完全に隔離されてる感じ」

「これは帰ろうって気になるだろ?だから帰らせろ」

「せめて7強の晴れ舞台だけは見て帰れよ」

「それ見たら完全にウィルたちに捕まるやつじゃん」


私たちと他の客の間には約3メートルの距離があり、とても遠巻きにされていた。

何処かに移動するにしてもそれなので、いい加減帰るか、という結論に至ったわけである。

と、その時会場の一角で黄色い悲鳴が上がった。

私たちはそちらの方を見て首を傾げる。


「何だろう?」

「今の周りの反応からして男だな。しかも顔がいい」

「しかも爵位は高ぇな。ほとんどの貴族が入り口に意識持ってかれてやがる」

「…なにその考察…」


ヴェルトとギルドマスターの意味の分からない考察を聞き流し、私は会場の食事スペースに目をやった。

多種多様な料理が置かれているので、後で研究ついでに食べていこうと決心する。


「…キリヤ様ー!!」

「ふおわ!?」


勢いよく名前を呼ばれ、しかも押し倒され…ることはなかったが、手を捕まれ、料理に意識を飛ばしていた私は現実に引き戻された。


「…あ、アリスか…なんか、綺麗になった?」

「…え!?き、キリヤ様に褒められました……ふ…」

「ふ?」

「ふぇぇえーん…」

「え、ちょ、泣かないで!?」


唐突に泣き出したアリスに私はひたすらオロオロする。

アリスを知っているヴェルトはともかく、ギルドマスターからは白い目で見られた。


「おいおい…嬢ちゃん、貴族の令嬢をこんな場所で泣かすこたぁねぇだろ」

「誤解だから。てかアリスと私は友達だから泣かすようなことしないし」

「ふぇ…と、友達ですか…?」

「え?友達でしょ?」

「よ、よかったぁ…忘れられてるのではないかと思ってました…学園にも来てくださらないし…」

「そう言えばそうだね。今度は週一で行けるようにがんばる」

「はい!マリアナ様やジョット様もお待ちしてたんですよ!」

「へぇ。マリアナたちと仲良くなったの?」

「な、仲良くなんて…おこがましいです」

「マリアナは男爵令嬢だしジョットは伯爵位だよ。アリスは伯爵令嬢だから釣り合い取れてると思うんだけど」


アリスはどこか縮こまったようになってしまった。

せっかく綺麗になったと思ったのに、なんだか自信を無くしてしまっている。


「…キリヤ!それにアリスさん!」


調度タイミング良くマリアナとジョットが私たちを見つけた。


「お、いいところに。マリアナはアリスのこと友達だと思ってるよね?」

「唐突に何ですの?もちろんですわ。わたくしのような男爵位の人間と仲良くしてくれる方なんて稀ですもの」

「と、友達ですか…?」

「…アリスさんはわたくしが友達なのは嫌?」

「いいえ!キリヤ様と同じクラスだから話しかけて下さってるんだとばかり思ってて…」


よく分からないが、アリスは自信を持ち直したようだ。

最初見たみたいにとても綺麗になった。

マリアナも相変わらず元気そうで、音信不通だった私を叱り、少し恥ずかしそうに「ま、待っていたのよ」と言われた。

思わず頭を撫でそうになり、髪の毛が崩れるからやめて!と怒られた。

ジョットはその間、にこやかに待機していて、ヴェルトを見つけて恭しく挨拶していた。

ジョットを見たマリアナとアリスもヴェルトに気づいて慌てて挨拶をした。

ヴェルト自身はそこまで気にしていなかったようで軽く手を振って挨拶に応えていた。

目敏くジョットがギルドマスターを見つけたので、紹介しておく。

ギルドマスターには余計なことすんなよという目で見られたが無視しておいた。


「マリアナ!話の途中に何処かへ行くなんて…賢者様?キリヤ?」

「あ…メアリア様。それにミゼンも」

「…久しぶりだな」


マリアナの後を追うように現れたのはメアリアとミゼンだった。

メアリアは昨年第三子を産んだが、相変わらず綺麗なままだった。

ミゼンはやっと老齢な雰囲気に馴染んできたような感じがする。


「お久し振りです、メアリア様。ミゼンも久しぶりー。二人とも元気そうでよかった」

「どうしてキリヤと賢者様がこちらに?こんな場所に出るようには思えないのだけれど」

「それは私たちが場違いだと…?」

「違うわよ。二人ともこういう催し嫌いでしょう?」

「うん。嫌いです。アレンが皇太子になるって聞いたので一応お祝いで出てるだけ」

「…7人の労いも兼ねていると聴いたんだが…」

「あの7人はもっと評価されるべきだよね。あ、そうだ、ミゼン今度7人とシェリエ鍛え直してよ」

「…あいつらそんなに腕が落ちたのか?」

「ちょっと待とうかそこの二人」


別の方向から声が掛けられ、ミゼンとそちらを向けばシェリエがキラキラした格好で立っていた。


「…わぁ」

「…それは何かの衣装か?」

「…二人のそういう所が嫌いだよ。これは騎士の正装なんだよ。俺が好きで着てるわけじゃないから!」

「ふーん。ミゼン、いい加減すぐ落ち込むのやめてよね」


シェリエが拗ねたので、格好いいよと褒めておいた。

ミゼンはシェリエに嫌いと言われて落ち込んでいた。

シェリエが強硬に鍛え直しを拒否したので、特訓は見送りとなった。

メアリアとマリアナはシェリエを知っていたが、その他は知らなさそうだったので紹介しておく。

ついでに、ギルドマスターはシェリエを知っていた。

ミゼンやセロンたちがギルドに鍛練しに来ることでシェリエもギルドで鍛練しているらしい。

また、他の孤児院出身者も同様にギルドで鍛練しているという。


「私も今度行こうかな」

「ほどほどにしてくれるならな」


こうして見ると、この一角だけ異様なメンバーだ。

メアリアなんかは賢者を助けた女性として有名だし、その婿養子のミゼンは一、二を争う暗殺者だ。

実際にメアリアが暗殺されかけ、屋敷総出で暗殺者を捕まえて犯人に送り返したらしい。

ジョットは広い土地を有する伯爵家の次期当主だし、マリアナはその妻、しかも学園では優秀な成績を修めている。

アリスは、じつはこの国で三番目くらいに歴史のある伯爵家の令嬢だったりする。

没落しているわけでもなく、普通に裕福なので、男性から人気がある。

アリスの場合、最近、可愛くなったから余計人気が出ているようだ。

シェリエは実質的に騎士団のNo.3と言ってしまっても過言ではない。

騎士団長は第一部隊隊長であり、第一部隊副隊長が副騎士団長なので、シェリエは今現在彼らに次ぐ地位にいる。

ギルドマスターは過去に2つ名が嫌でSランクになることを蹴ったと噂の人物だったりする。

そして、世界最強の賢者様のヴェルト。

うーん、このメンバーで世界征服できるなぁ。


「…いた!」


会場の端で声が上がり、人がサァと避けて道が作られた。

そこを小走りでこちらに向かってきたのはハルトだった。

その後ろを優雅にオルディーティ夫妻が歩いてくる。


「姉さん!」

「わぁ、また世界征服が容易になった」

「世界征服?するのか?」

「いやしない。久しぶりだねー、ハルト」

「あぁ。学園に来ないからみんな心配してたんだぞ。そちらの…姉さんの友人達も」

「うん。さっき叱られたところ」


そう軽く話をして、ハルトの後ろに立つアルベルト様とマリオット様に向き直った。


「お久し振りです、アルベルト様、マリオット様」

「あぁ。相変わらず元気そうでよかった」

「えぇ。また綺麗になったのではない?いつでも遊びに来てくださいね。リリアも待っているのよ」

「はい。…そうだ。近いうちにそちらに伺ってもいいですか?」

「ええ!!もちろんよ!」


マリオット様はとても嬉しそうに笑った。



ヴェルトは、私が二十歳になったら、不老になることを知っている。

…でも。


まだ、お父さんとお母さんに言えてない。

ちゃんと、二人に聞いてほしい。

それで、ハルトにも、アルベルト様とマリオット様にも、ほかのみんなにも、言うんだ。


私は、ヴェルトと生きるよ、と。







◇◇◇


会場の一角で黄色い悲鳴が上がったその頃。

貴族たちの視線は会場の入口に集まっていた。

この国で現在、国王の次に権力を持つ貴族…

オルディーティ侯爵家である。

本来なら、王族の血族である公爵が国王の次に権力を有しているはずなのだが、今の公爵たちはそれほど優秀ではない。

公爵たち本人もそれを知っているため、勢力争いは起きていない。

貴族の視線を一手に受け止めたオルディーティ侯爵家…アルベルト、マリオット、ハルトの三人は挨拶をしに寄ってくる貴族たちを軽くあしらいながら、会場を見回していた。


「アルベルト様、陛下の話は本当なんですか?」

「あぁ。キリヤと賢者様がいらっしゃっているらしい」

「あら?あれかしら…」


マリオットの声の先には、ぽっかりと空いた空間があった。

遠くて分からないが、空間には三人、人が話しているのが見える。


「…あれだな」

「…あれですね」

「…あれね…」


さっそく、アルベルトたちはキリヤたちのいる所へ向かおうとした、が。

貴族たちの挨拶が一向に終わる気配を見せなかったのであった。





黄色い悲鳴の人物は誰だったのでしょうか…

正解はハルトでした。

ギルドマスターとヴェルトの考察が中々当たっていたという…





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