私が秘密を話す話 パート②
「うわぁぁ…」
「すごい、キレイですよ!」
「まぁまぁ、ですかね。エレナが手を加えてくれたからですよ」
「いえ、トーマさんが指示してくださったからです…」
すみませーん、二人の時間は夜にやって貰えますか?
王城のパーチー(ここ重要)が今日の夜に迫って来ていて、私は最後の試着を行っていた。
エレナさんが作ってくれたドレスはとても素敵で、よく分からんがドレスにまで精通していたトーマの監修によって流行も取り入れられている。
今の流行は胸元を少しだけ空け、スカート部分がストンと落ちているドレスらしい。
スカートの裾にはレースが5枚重ねられていて、踏んでしまわないか戦々恐々としている。
「いいですか、くれぐれも賢者様の足を引っ張るような真似はしなきでくださいね?」
「はいはい。トーマは留守番?」
「まぁ。エレナを連れていけるなら行きますが…いえ、エレナを他人の視線にさらすつもりはないのでやはり是が非でも行きません」
「…あ、そう」
面倒だな…
私のドレスは黒を多めに使い、紫をアクセントにしたものになっている。
「で、俺もそろそろ脱いでいいか?」
先に出来ていたヴェルトの燕尾服も黒を主として、所々紫を入れている。
ペアルックらしい。
とはいえ、ペアルックと言っても通じなかったから、「お揃いですか?」と聞いたら「はい!」と元気よく返事を貰ったわけなのだが。
「よし、破いたら大変だし、私たち着替えて…」
「一度ダンスの練習をなさっておいたほうがよろしいのではないでしょうか」
「いや…」
「そうですよ!キリヤさんずっと一人で練習していましたし、折角ですから今二人で踊っておいたほうがいいですよ!」
「「…」」
私とヴェルトは顔を見合わせてため息を吐いた。
トーマが用意していたらしいバイオリンみたいな楽器を手に持ったのを視界の端に見つけ、仕方なくヴェルトの方を向いた。
ヴェルトも私の方を向き、少し離れて揃ってお辞儀をする。
そこから、出された手に私の手を乗せ、ヴェルトの肩に手を添える。
ヴェルトは私の腰に手を添える。
そして、トーマが演奏を始めた。
基本のステップは3拍子だ。所謂ワルツというものである。
ヴェルトのリードに合わせて靴の音を立てないようにスライドしていく。
「…いつ練習してた?」
「うーん…新しい子達を馴染ませようとしてるときにみんなに踊らされた。誰かが踊らなきゃいけないこと聞き付けたらしくてね?私がこんな上達したのは子供達のおかげだよ」
「…そうか。あんまり誰かと踊るなよ」
「うん。そう何度も踊りたいもんじゃないし」
曲はだいたい4分くらいで、長いと10分も踊らなければいけなくなる。
ダンスとかめんどくさいし疲れるし緊張するしで、あんまりやる気にならない。
そのまま頑張ってステップを踏み続け、やっと曲が終盤にかかる。
「…ヴェルト」
「どうした?」
「あと少しで、私も不老になるよ」
「あぁ、そうだったな。キリヤと会って13年になるのか」
「早かったね」
「色々あったからな」
「…すごく、楽しかった。ミゼンたちと組織で活動してた時も、孤児院作って子供達と遊んだのも」
「…キリヤ?」
…どうやら、私はアイリーンというライバルが出現したことで焦っているようだ。
だって、私が知らないヴェルトを、アイリーンは知っている。
私を見下ろすヴェルトと黙って見つめ合う。
ヴェルトが何か言いかけて口を開き…
曲が終わった。
私はヴェルトから離れて、お辞儀する。
「あー、疲れたー…早く脱ごう。破かないか怖すぎる」
「キリヤ」
私はヴェルトに呼ばれて振り返った。
「…どうした?」
「…なんか、感慨深くて」
私はそう言って、部屋を後にした。
と、言うわけで、ただ今王宮内の国王の執務室にいます。
パーチーのお触れがあって一週間しかなかったのに、この国の貴族はほとんど集まり、他国からも外交官が来ている。
セェルリーザからはアリアさんが来ていると聞いた。
アリアさんと話す機会がありそうで少しワクワクしている。
本日の主役であるアレンと7強は失神しそうな、青い顔をしていた。
「…し、死ぬ」
「何だよパーティーって」
「俺らとは不釣り合いな場所だぞ…!」
「大丈夫だって。何かあったらアレンがなんとかしてくれるよ!」
「「「「「「「…」」」」」」」
「え、何?」
嘆く7強を慰めたら、驚いた顔をしてこちらを見られた。
しかも、7強だけでなくアレンと国王とヴェルトにまで。
え、なに?何かした?
「…そうかそうか」
「うんうん」
「え、ちょ、だから何!?」
「よかったなー、殿下」
「あぁ。これで本当に一人前になれた気がする」
私が訳が分からずに首を傾げていると、ヴェルトが説明してくれた。
「無意識かもしれねぇが、王子を名前で呼んだだろ。今まで王子様だったのが名前になってる」
「…あ、確かに」
「王子を認めてやったんだろ」
「…なるほど。そっか、うん」
私は最上級の礼の形を、アレンの前で作った。
「な、何だ!?」
「アレン=フォン=アルテルリア殿下。皇太子になられたことを、心よりお喜び申し上げます」
「…あ、あぁ…」
「殿下が立派な人になり、王としての努めを果たし、殿下の御代が長く続かれることを祈っております」
「…っ、祝いの言葉、感謝する。貴女のその言葉に恥じぬような王となり、貴女が住むこの国を守っていくことを、誓おう」
私はそれを聞いて立ち上がり、半泣きのアレンの頭を撫で回し、髪の毛をぐちゃぐちゃにした。
「な、何する!」
「いやー、男の子は3日会わないと誰か分からなくなるっていうけど、本当だね」
アレンが抗議の声をあげたが、拒絶はしなかったのでそのまま撫で回し続けた。
後ろでヴェルトたちが「まぁ、うるさいガキから可愛い弟扱いになっただけかもな」とボソボソ話していたのが聞こえたが、否定も肯定もせず、黙っておいた。




