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最強な賢者様と私の話  作者: 天城 在禾
事件、もしくは秘密
108/134

私が畏れられる話 パート⑧

すみません、大変お待たせいたしました!

今回は本編です。

幕間は次になる…のかな?





アイリーンとともに街に帰ってくると、ウィルたちに

「よくわからん者を拾ってくるんじゃねぇ!」

と怒られた。

アイリーンがドラゴン族の王と説明すると

「報復…とかじゃねぇよな…」

と不安がられたので、大丈夫だと説明する。

ギルドの一室を借りて、私、ヴェルト、シェリエ、ロウ、ステラさん、アイリーンが集まる。

アイリーンは再度頭を下げ、ステラさんに謝った。

ここまで謝ってしまうとドラゴン族の立場が悪くなるが、まぁ全面的にドラゴン族が悪いのでなんとも言えない。

ドラゴンが魔獣化してしまわないようにすること、魔獣になってしまっても他に被害を出さないこと、自分達で殺すこと、などの責任があるからだ。

人間だって、人間が魔獣化したら自分達で殺す。


「どうしてここまで対応が遅れたんです?」

「…魔獣化した彼は先々代の王だったんです。老齢であったとはいえ私たちの父のような方…彼を殺すことに異論を唱える者も多く、お恥ずかしいのですが、殺せるかどうか分からなかったということもあります」

「なるほど…わかりましたわ」


ステラさんが納得し、謝罪を受けたので、そのことについてこれ以上突っ込むつもりはない。

…というか、仮にも王様だった人が魔獣化なんてするのか?

しかも、魔獣化した後になぜわざわざここに来たのだろう?


「それじゃあ、賠償の交渉に移りましょうか」


私の思考を他所にシェリエが役目を終わらせようとさっさと話を始めた。


「今回人間側の死者が43人。そのうち子どもを持つ親が25人、子どもが15人、独り身の大人が2人、老人が1人。賠償としては金貨5枚…うーん、キリヤどう思う?5枚は少ないかな?」

「少ない」


シェリエの質問に答えつつ私は思案を続けた。

魔獣化するのは体に不相応な魔力を取り込んでしまうからだ。

それが体に蓄積され、脳を破壊する。


「あー、やっぱり?じゃあ10枚で。それくらいの損害があります」

「…そこまで?」

「報告では小さな村が3つ滅ぼされてますから。死者が少なかったのは人間側の避難の仕方が正しかっただけで、本来なら500を越える死者がでるはずだったんです。滅ぼされた村の住人が難民となっていくつかの街で犯罪を引き起こしてます。領主もその対応や難民受け入れの対応で大変ですから」


…誰かの作為を感じる。

やはりディグザムやアルルさんの時のような何かが…

…そして、視線も感じる!

やばい、めっちゃアイリーンから見られてるよ!


「分かりました。人間の金は持ってませんからあなた方が価値を見出だしているドラゴン族の宝石を渡します」

「それってどれくらいの価値なんですか?」

「あー、確か一つ金貨2枚くらいの価値があったんじゃねぇか?」

「じゃあそれ5個で」


…うん、あっさりしてんな!

こう、もう少し揉めたりとかさぁ…

頼むよ、誰か時間稼ぎ…


「よし、交渉終わったね。アイリーンさん話が分かる人で助かったよ。もっとごねられると思ってたからなぁ。俺と賢者様はウィルたちと飲む約束してたんだ。それじゃ!」

「は?おい、ちょっと待…」


シェリエはそうにこやかに言ってヴェルトを引きずって部屋を出ていった。

その後を空気を読んだらしいロウもついていく。

あれだな、逃げたな!

…私も逃げたい。


「ギルドマスターの仕事がありますから失礼しますわ」


ステラさんも出ていった。

あー、うん。やっぱり皆気づいてるよね。

気づいていないのはヴェルトくらいなんだろーな…


「…キリヤ様」

「…はい」


私たちは黙りこんだ。

…そして、どちらもとなく視線を合わせる。


「君は、賢者殿…賢者を好きなの?」






交渉の最中もアイリーンは私をずっと見ていた。

怒りや嫉妬や羨望を滲ませて。

気づいていないのはヴェルトだけだ。

アイリーンがヴェルトを見るときはそんな濁った感情は消えて、ただ恋する女性のうっとりしたような感情しかない。

彼女は最初から私をそんな目で見ていた。

会議の時はそこまで話ができなかったから気のせいかと思っていたが、森で会って確信した。

…アイリーンはヴェルトが好きなんだ。


「まさか」


だから私は即答した。


「なっ!好きでもないのに賢者の好意を受け取ってるの!?」

「いや、」

「あれだけ賢者は全身で君を好きだっていってるのに!賢者を弄ぶのも大概にしてよ!」

「えっと、」

「賢者がどれだけ孤独なのか知らないくせに!賢者が…どれだけ…どれだけ…」


いや、あの。すみません、泣かないで貰えますか。

うーん…これ一見私が悪者だよなぁ…

私はそっとハンカチをアイリーンに差し出す。

アイリーンは奪い取るようにハンカチをとり、目許をゴシゴシと拭いて鼻までかんだ。

あ、うん。他に人がいないからってそれはちょっと…


「…君に賢者を任せられないことはよく分かった!」

「え、」

「君が賢者を好きなら賢者のことを諦めようと思っていたけど…君に賢者は相応しくない!」

「あの、」


アイリーンはそれだけ言うと、部屋を出ていった。

開けっ放しにされた扉を暫く見ていると、ステラさんがそっと覗いてきていた。


「…聞きました?」

「…えぇ、まぁ」

「…はぁ…面倒なことになりました…」

「…頑張って、くださいね」


あー、うん。マジか。

アイリーンって人の話聞かないタイプだったんだね…






それから、アイリーンは表面上、私に絡むようになった。

なかなか賢い選択だろう。

私に絡むことでヴェルトが邪魔をしようとやってきて、言い合いのようなことを始めるのだ。

端から見れば私をアイリーンとヴェルトが取り合っているように見えるが、実際はアイリーンとヴェルトと話しているだけである。

ヴェルトは旧知の仲ということでアイリーンに対してそこまで冷たくはない。

私は面倒になって放っておくことにした。

ステラさんと子供達の引き取りについて話し、復興の支援を国にどうしてほしいかも聞いておく。

ドラゴンの素材のおかげでハバルは不自由していないから、他のところに重点的に渡そうという話になった。

そろそろ帰ろうか、ということで帰宅準備をしていると、アイリーンも国王に謝罪したいとのことでついてくることになった。

王子様はハバルで英雄扱いされていて、魔力の滞りもあと少しというところまでになっていた。

あとは積極的に治療に参加し魔力を使うことに努めてくれればいい。

ガゼルには、何度かお礼を言われた。

私はなにもしていないから、お礼なら7強にと言うと、「7人からキリヤにと言われたぞ」と笑われた。

もう少し7人には傲慢になっていただきたい…


「それじゃ、お世話になりました」

「いいえ、こちらこそ。本当にありがとうございました」


街の外れに転移陣を書いて、ステラさんとお別れの挨拶をしていた。

転移陣はステラさんが責任を持って消しておいてくれるらしい。

街の人たちも来ていて、主に王子様に感謝の言葉を伝えていた。

王子様もこれで自信をつけたのが、そして守る対象がどういう人たちなのか掴めたらしく、一回り大人になった気がする。


「また来ます」

「…それは、まぁ、はい。お待ちしてますわ」


ステラさんに苦笑いされた。

私も苦笑いして、転移陣な魔力を込め始めた。


「…頑張ってくださいね」

「…えぇ、まぁ、はい…」


ステラさんにそう言われ、視線を反らして返事をした。

転移陣が輝きはじめ、私たちは王都へと帰って行った。



後、ハバルでは7強と王子が英雄として語り継がれ、また、ハバルのギルドでは一人の恐ろしい魔女に出会ったら決して逆らってはいけない、と言われるようになった。

ただし、魔女は慈悲深い面も持ち合わせ、森で魔物に襲われると助けてくれるとも言われている。

魔女は畏怖と尊敬の念を込めて英雄たちとともに語り継がれた。




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