私が畏れられる話 パート⑦
いつも遅くなってすみません(´・ω・`)
7強とシェリエも「魔獣化したやつだよね!?」的な視線を送った。
「…俺がキリヤくらいの時にドラゴンが魔獣化した事件があってな。そん時に食ってみたんだよ」
私たちは、一斉に安堵のため息を漏らした。
うん、よかった。
粗方解体が終わり、解体された素材は私の異空間に全て詰め込んだ。
その頃にはロウさんたちも完全に回復していて、私たちを見て若干引いていた。
…まぁ嬉々として解体作業してたら引くよなぁ。
「…そこのギルドメンバーは起きてます?」
「あ、あぁ。全員目を覚ましたぞ」
「そうですか」
私は茫然と座り込むギルドメンバーたちに近寄ろうとした。
が、ウィルが先に動いた。
「…テメェら、バカか!」
「っ…!」
ウィルだけじゃない、7強のメンバー全てが、座り込むギルドメンバーをぶん殴っていた。
7人を止めようとしたロウをシェリエが抑える。
「…な、にすんだ…!」
その中で一番若い青年が殴られた場所を押さえてウィルたちを睨む。
その青年の胸ぐらをウィルが掴んだ。
「テメェらこそ、何してた」
「俺らは!ハバルを思ってドラゴンをぶっ殺そうと…」
「ハハ、それで仲間を半分失ってりゃ世話ねぇな」
ドラゴンを解体している最中、消化液で溶けている死体や、ぐちゃぐちゃに噛み砕かれた死体を発見した。
それを見て、悔しそうに唇を噛んだのはウィルたち7人だった。
「実力くらいわかんだろ。テメェらが五十人束になったって、ドラゴンには勝てねぇってことくらい」
「うるせぇよ…!テメェらが多少強いからってバカにしてんのか!?」
「馬鹿にもするぜ。捨てなくていい命を捨てやがったテメェらを笑ってやるさ。ざまぁみろ。テメェらのその傲慢さは仲間を半分殺すんだ。俺はテメェらみてぇなメンバーが大っ嫌いだ」
ウィルは青年を地面へ投げ飛ばす。
青年はウィルの言葉に俯く。
他のギルドメンバーも同様に、顔を俯かせた。
「キリヤ」
「ん?なに?」
ウィルに呼ばれ、私は彼らに近づく。
「あの死体を出してくれるか?」
「分かった。…っと、はい」
解体途中で出てきた死体は、お墓を作って貰うためにもって帰ることにしていた。
それも私の異空間に納めてあったのだ。
ぐちゃぐちゃになってしまっているから正確な人数は把握していないが、数えたところ、死体は10体。
生き残ったギルドメンバーの半数だ。
「ひっ」
「よく見ろ。これがテメェらの将来の姿だ。いや、こんなふうに形すら残らねぇだろうよ」
「う、あ、ぁ…うぐっ…」
異臭と死体のグロテスクさに、吐き気を感じたのだろう。
みな一様に口を押さえている。
別に、私たちはこれを見て平気だったわけじゃない。
ただ、恐怖に歪む死体の表情のほうが、見ていて辛かった。
「いいか。テメェらはバカだし弱ぇ。きっとこの先何度も実力の差っていうのを思い知らされるだろーよ。悔しくて自分がみっともねぇと思うだろう。だがな、勝てない相手だってわかったら、死なない努力をしろ。ほんの少ない可能性を沢山の選択肢に変えていけ」
ウィルの口調が、叱責するものから優しいものに変わった。
「…死ぬなよ、頼むから」
私は死体を別空間へしまった。
口元を押さえて吐き気を堪えていた青年は、哭いた。
ウィルはただ青年の頭を撫でた。
私たちはハバルへ戻った。
ステラさんに素材を見せて報告すると、ギルドが騒然とした。
ステラさんは然程動揺した様子は見せず、職員に素材の値段交渉を言い付け、死体を引き取った。
その後無茶をしたギルドメンバーを盛大に叱っているのが目撃されたらしい。
死体は身寄りのない者はギルドで葬儀をあげることになり、身寄りのある者は家族に渡すか、ギルドで一緒に葬儀をあげることになるそうだ。
そんな話をステラさんから聞いた時、彼女は深々と私たちに頭を下げた。
「キリヤさんには、不躾な態度をとってしまったわ…ごめんなさい」
「え?あぁ、気にしないで下さい。あれだけ怪しいとそりゃ疑いますよ」
「…てっきり国の監査だと思ったの。今回の騒動でお金が足りなくなってしまって、脱税してるの」
「…いや、それ騎士の前で言っちゃいますか?」
「ふふ。キリヤさんたちなら大丈夫だと思って。孤児院の運営が厳しくて…親を亡くした子達が増えたでしょう?」
一緒に話を聞いていたシェリエとウィルに、視線を向けられた。
…おい待て、なんだその目は。
「…私がその孤児院の子どもを引き取ったら脱税したお金は全て払いますか」
「え?でも子どもたちは30人くらいいるのよ…?」
「大丈夫です。引き取りますからお金は払って下さい」
「…連れて行けるの?」
「行けます。子どもたちはここを離れるのを嫌がるかも知れませんが説得しておいて下さい。あと、お金ちゃんと払ったか後で調べておきますから」
私の申し出に、ステラさんは戸惑ったが、頷いた。
「ウィルとシェリエはちゃんと投資してよ。暇な日は面倒も見てね」
「うん」
「おう」
ステラさんと話をしてから、私たちは数日ハバルに滞在した。
何故か私はギルドメンバーに猛獣並みに恐れられていて、ステラさんと話をするためにギルドに顔を出すとギルドメンバーが壁際に避けるという事態が起きていた。
どうしてだろうと思ったら、ドラゴン退治を見ていたギルドメンバーたちが私についての噂を流したらしい。
曰く、ドラゴンの攻撃を素手で受けた。
曰く、ドラゴンの首を手刀で両断した。…etc.
いやまぁ、噂の殆どはできるけどね?
でもさすがに噛み千切ったりできないかな…
滞在する間、王子様たちはどうしていたかというとドラゴンで被害を受けた人達の治療をしていた。
王子様には治療すると魔力の滞りがほどけやすくなると説明すると、王子様は率先して治療を始めた。
まだまだ女性の魔力を受けると体調を崩しているが、前よりも断然良くなったという。
しかも、街の人達に感謝されて、何やら得るものがあったようだ。
7強やシェリエたちとも話す姿が見られ、成長したとガゼルが喜んでいた。
…え?ヴェルト?
うーん…よくわかんないけど、とりあえず私にくっついてるかな?
たまに一人で街に出て何か買ってるみたいだけど。
金髪の格好いいおじ様の姿をしているから、綺麗なお姉さんとかに声かけられたりしてるらしい。
ウィルが僻んでいたので、お前可愛い奥さんいるだろと慰めておいた。
そして…
「こんにちは」
「あっ、えっと、こんにちは…?」
「あれ?君はこの間の種族間会議にいた子だよね?こんなところで会えるなんて、これは運め…」
「おい」
森の中に巨大な気配を感じた私とヴェルトは待ってましたとばかりに森の中へ入った。
そこにいたのは、上質な服を着た青年だった。
青年は私を見つけると恭しく膝をついて、手をとり、手の甲に軽く唇で触れた。
…彼女はドラゴン族の王、アイリーン。
ほとんどの人は彼女を男性だと勘違いするが、彼女は歴とした女性である。
もちろん、彼女の恋愛対象は異性だ。
ヴェルトによって引き離された彼女は軽く笑い声を上げた。
「まぁまぁ、賢者殿。貴方のお嬢様を奪ったりしないから安心してよ」
「お前相手だとキリヤは陥落しそうだろ」
…どうやら、二人は旧知の仲らしい。
アイリーンはヴェルトから離れて私に向き直り、改めて頭を下げた。
「ドラゴン族の王、アイリーンです。確かキリヤ様だったね。此度は同族がご迷惑おかけしました」
「あー…いえ、ちゃんと交渉に応じてくれるならなんでもいいです…」
「賢者殿が出てくるなら交渉に応じないわけにはいきません。それに、キリヤ様に失望されたくない」
思いの外真摯な瞳を向けられ、少しドキッとする。
「おい。だからキリヤに色目使うな」
「色目じゃない。真摯に向き合ってるだけ」
「お前の場合はそれが色目なんだよ!」
私はもう一度アイリーンを見た。
…あぁ、やっぱりね。
彼女は、賢者が…ヴェルトが好きなのだ。
…(゜_゜)?
……\(゜ロ\)(/ロ゜)/
キリヤのライバル登場しましたね!
なんてこと…
おかげで次話がまったく進まない予感するよ!
あ、多分続きを投稿する前に幕間挟みます。




