私が畏れられる話 パート④
騎士の隊列の中から声が上がり、一人の青年が進み出た。
「フレイム家が長子、ロウです」
「…フレイム家の者がどうした?」
「私も補佐として同行させて頂きたいのです」
赤髪赤眼の青年は、シェリエの横に立ち堂々とそう言った。
国王はロウを見てからヴェルトを振り返る。
ヴェルトは嫌そうな顔をしてから、私を見た。
そして、全員の視線が私に集まる。
私は回りをきょろきょろと見回して自分を指差した。
そうすると、国王とヴェルト、7強とシェリエにうんうんと頷き返された。
…私が決めろってことか!?
えぇー…ヴェルト絶対面倒くさかっただけでしょ…
私は改めてロウを見た。
学園で会ったリナの兄というだけあって、顔付きは似通ったところがある。
彼は私をしっかりと見返してきた。
「…ロウ殿はどのような人ですか?」
私は口上を述べていた人…多分団長だろう、に聞いてみた。
団長さんは一瞬躊躇ったが、「…第三部隊副隊長だ」と答えた。
「ふむ…シェリエは連れてってもいいと思う?」
「…まぁいいんじゃないかな?ただしヴェ…賢者様が窮屈になるかもしれないけど」
「私に丸投げした賢者様が悪いと思う。うーん…みんなは?」
私がウィルたちに聞くと「どうでもいいんじゃね?」的な反応が返ってきた。
ヴェルトは「本人行きたいなら好きにさせたらいいんじゃねぇか?」的な反応を返した。
私たちの会話の応酬にも、ロウはちゃんと待てが出来ている。
シェリエが連れていってもいいと言ったのなら、実力もあるのだろう。
「出発は早い方がいいんですよね、というか今日の夜には出たいんですよね?そして早く討伐したいんですよね?」
「なるべく早く頼む」
「じゃあ邪魔になるだけですね」
「っ…そんな!」
「…けど、邪魔しないなら同行して貰ってもいいんじゃないですか?」
私が国王にそう言うと、国王はそうかと頷いた。
「ではシェリエ、そしてロウ。お前たちに7強の補佐を任せる。また、今回の討伐には賢者様とこちらの少女も同行する。気を引き締めて向かえ」
「「はっ!!」」
二人は国王の前に膝をつき、鋭い声で返事をした。
7強は奥さんや子供たちに少し留守にすることを伝えに王宮を去り、シェリエとロウ、私とヴェルトが残っていた。
7強には準備が出来次第戻ってくるように言ってある。
シェリエとロウにはに王宮の一室を借りて討伐についての流れを話すことになった。
「その前に…シェリエ!」
「ごめんキリヤ怒らないで」
「怒るわ!どうして私に隊長になったこと教えたくれないわけ?孤児院で盛大にお祝いしたのに」
「それが嫌だから教えなかったんだよ…」
「えー?まぁ、おめでとう」
「うん。ありがとう。でもこの嫌がらせは地味につらい」
エリートコースに乗れたのに何が嫌だと言うのやら。
「王様はシェリエに頑張ってほしいみたいだけどね」
「それヴ…賢者様と繋がりあるからだろ?」
「さぁ?」
私がシェリエと盛り上がっていると、ヴェルトは部屋に結界を張り、扮装を解いた。
「なっ…」
「あー…賢者様変装止めたの?ロウ様が見てるのにさ」
「疲れた」
「ロウ様、こちらが賢者様の本来の姿になります。慣れておいて損はないですよ」
「そ、そうか…シェリエ殿、私に敬語は使わなくていい。貴方の方が階級は上なのだから」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて、よろしく」
ロウは恐る恐るヴェルトを見てから、さっと膝をついた。
「賢者様、改めてご挨拶申し上げます、フレイム家が長子、ロウです。賢者様の付き人であるキリヤ殿には改めてお礼を言わせてください。此度の同行を許可していただいてありがとうございます」
「…さっきから思ってたんだが、フレイム家って聞き覚えあるんだが…知り合いでもいたか?」
「うっわぁ…私の担任のサイアス先生と特殊クラスにロウさんの妹のリナさんが在籍してるじゃん。お礼なんてとんでもないです。邪魔とか言ってしまいましたし…」
私がそう言うと、ロウは頭を上げて「私が邪魔なのは尤もです」と言った。
リナたちと面識があるとロウは知っていたらしく、いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません、とまた頭を下げた。
なんか、この人めっちゃ真面目そう…
シェリエは口調は適当だが、とても真面目で有給休暇を取らないのでウィルたちに怒られ、有給休暇を無理矢理取らされて飲みに連れて行かれている。
ヴェルトはやっと思い出したのか納得していた。
ロウにはヴェルトのこの姿を内緒にしてもらうようお願いして、ドラゴンを倒す流れを軽く説明する。
倒すのは7強がやるのでそれを見届けてくれればいい。
ただ、そのあとのドラゴン族との交渉は私とヴェルトが行うので、そこでアルテルリア王国の代表として一緒に交渉の場についてほしいと説明する。
「これってさぁ、俺たち絶対いらないよな」
「国も一枚噛みたいんだよ。ギルドは国家から独立した存在だからね」
ギルドは国から離れた存在だ。
ただしその国の法律は守る。
何事も秩序とは大切である。
暫く話しているとヴェルトの結界に干渉する気配があったので、ヴェルトは老人に扮装し結界を解いた。
入ってきたのは国王とその他数人だった。
その中に王子様とガゼルもいて、彼らは私と目が合うと驚いて二度見してきた。
「お邪魔してすみません、賢者様。私の息子です。一度お会いさせておきたかったもので」
「それがお前の息子か。キリヤ、知り合いだろ」
「え?うん。言ったっけ?」
「言ってねぇ」
何故か不機嫌になったヴェルトを無視して、私は驚く二人の前にきた。
「お久しぶりですね。若様、ガゼルさん」
「お前…賢者様と知り合い程度じゃなかったのか?」
「ごめんなさい、嘘です。言ったら余計怪しいと思ったので。改めて自己紹介します、賢者様の付き人のキリヤです。以後お見知り置きください」
私の名前を知っているガゼルは私とちゃんと話してくれたが、王子様は未だ呆然と立っている。
「殿下?」
「…お前は…森で会った女か」
「はい。妹君はお元気ですか?」
「あぁ。今朝会った時は元気そうだったな」
あれ?ちゃんと妹ちゃんの様子を見てるのか。
女性嫌いだけど今は私とちゃんと話してるし。
ふぅむ。あの時の態度は悪かったけど、今はそう酷くはない。
んー…何だろう。お父ちゃんがいるからか?
いや、そういう感じではないな。
「お前は賢者様の付き人だったのか…だが余り魔力を感じんな」
「私も賢者様と同様に魔力の調整ができるので」
「そうか。確か…キリヤと言ったか?」
「はい」
「…あの時はあのような態度をとってすまない。女性嫌いなのは本当なんだが…」
若様は、そこでヴェルトに視線をやった。
「賢者様。どうか私の女性嫌いを治して貰えないでしょうか」
…はぁ?
それって、他人に治して貰うことなんだろうか…?




