私が畏れられる話 パート③
私がそう言うと、6人が逃亡を計り始めたので、笑みをより一層深めた。
「可哀想に…ウィルだけを生け贄にみんなは逃げるんだ…みんなに裏切られたウィルは一人ドラゴンに立ち向かう…死闘の末ドラゴンを倒し、やっと愛する妻子の元へ…!しかし不慮の事故に遇って…」
「うおおい!!不吉なこと言うな!!」
「なら逃げないでよ。ヴェルトも来るんだし大丈夫だって」
「どうせ後ろで笑って見てるんだろ!」
「何その想像。流石に危なくなったら助けるって」
「キリヤは行かないのか?」
「行くよ?みんなに押し付けられないから。ほら、さっさとギルドマスター室に行くよー」
半泣きの男6人を引き連れ、受付カウンター近くで待っていたギルドマスターのところへ向かった。
「お待たせー」
「お前ら相変わらず仲いいな」
「うん。私のお兄さんたちみたいな存在だから」
6人は何故か私の頭を撫でた。
何だよ唐突に。
ギルドマスターは何やら微笑ましいというような顔をしていた。
私は6人を逃がさないように、ギルドマスターに続き彼らがマスター室につながる扉を潜るのを見送る。
彼らが潜り終え、私も後に続こうとした。
その時、ヒュン、と音がして飛んできた何かを掴む。
「何だ、ただのナイフか」
振り返った先には、凍り付くギルドメンバーたちの姿がある。
私は飛ばしてきたであろう人物の前まで行った。
「これ。あなたのですよね?」
「…」
「私はともかく、7強のメンバーに向かって投げたと思うわれるような行為は止めたほうがいいですよ。それに、ギルドマスターへの反逆だと思われます。…次狙う時は私が一人の時にしてくださいね?」
茫然とするナイフ投げ犯にナイフを返し、マスターたちの後を追った。
嫌がる7人を説き伏せて、老人に扮装したヴェルト、ギルドマスター、7強、私は王宮へ来ていた。
ギルドマスターと賢者というお偉いさんが一緒のため、すんなりと通され、国王の執務室へと案内された。
「よく来てくださいました、賢者様。久しぶりだな、ダイロス、キリヤさん」
ダイロスとはギルドマスターの名前である。
国王は私たちに椅子を薦め、控えていたメイドにお茶を用意するように命じた。
ウィルたち7人はガチガチに緊張している。
「…結界を張ってもいいか?」
「そうですね。お茶が来たら結界を展開してくださって結構ですよ」
ヴェルトは不服そうだったが、渋々と諦めて椅子に座った。
私とギルドマスターも座ったのだが、ウィルたちは座るのを躊躇っているようだ。
「なんだ?座らんのか?」
「陛下、緊張してるんですよ」
「そうか?そう緊張せずともいい。キリヤさんと賢者様の知り合いなら手出しはしないからな」
私とヴェルトにも促され、7人は恐る恐る椅子に座った。
丁度お茶が来て、国王はメイドに下がるように言い、人払いを済ませた。
誰も居なくなった部屋にヴェルトは結界を張り、魔術を解いた。
「ドラゴンの件ですか?」
「ああ。ドラゴンは7人に倒して貰うことにした。俺とキリヤはドラゴン族との交渉を担当する」
「7人…ギルドで7強と呼ばれる者たちですね?」
「あぁ。こいつらならドラゴン一匹余裕だろう」
国王はふむ、と思案した。
「どうする?お前も一枚噛むか?」
「よろしければ」
「なら騎士でも借りるか…」
「でしたらシェリエはどうでしょうか」
シェリエとは組織でスーイと呼ばれていた青年である。
彼は一人男爵家に使えるのを断って、夢だったという騎士になった人だ。
一緒にメアリア様の屋敷に忍び込んだ人である。
「シェリエが知り合いだって教えてたか?」
「いえ。そちらの7強がよく会いに来ると有名ですから」
そうなのか、と思ってウィルたちを見ると「あいつだけ普段会えねぇだろ?」と返された。
私は王都の見回りついでに寄ってくれることがあるのでそこまで会ってないというイメージはなかった。
そっか…確かに仕事大変そうだろうしなぁ…
「おう、そのシェリエってのはどんな奴なんだ?」
ギルドマスターだけ知らないらしく、興味津々で話に混じってきた。
「あぁ、王都の騎士団の第二部隊隊長だ」
「えぇ!?そんなに偉くなってたんですか!?」
「知らなかったのか?」
知らなかった…
だってシェリエに最近どう?って聞いても「相変わらず平隊員だよ」と笑って返されてたのだ。
くそう…そうやってみんな私を除け者にするんだ…
ソラといい他の子達といい…
「…久しぶりにミゼンにみんなをしごいて貰う必要が出てきたな…」
「おい待て早まるな」
ウィルたちに止められたので、あとでシェリエには嫌味を言うだけに留めた。
国王は7強とシェリエとミゼンがどんな関係なのかとヴェルトに聞いて、ヴェルトは恩人で友人だと答えた。
ミゼンは男爵家の婿養子になったので名前を知っているらしかった。
「一人でいいのか?」
「あくまでも補佐として付けるだけですので。構いません。それにあまり多すぎても賢者様が困りましょう」
「まぁそうだな。孤児院出身のやつならいいが」
「私にはどの者が孤児院出身か分かりませんので…」
「とりあえずシェリエ呼ぶか」
「でしたら騎士の訓練場へ参りましょう」
そんな大々的にしていいのかと聞くと、「シェリエには次の騎士団長を担ってほしい」と返された。
…賢者と知り合い且つ功績を残しましたと宣伝したいってことか。
これくらいの嫌がらせなら私の鬱憤も晴れるということで、みんなでシェリエを迎えに行くことになった。
ヴェルトが老人の姿に扮装し、結界を解いて私たちは外へ出た。
廊下に控えていた騎士さんたちが後ろからぞろぞろと付いてくる。
そんなに大袈裟にしたくないけど…
まぁ一国の王様が動いたらそうなるか…
暫く歩くと、木っぽい物がぶつかる音と叫び声に似た気合いの入った声が聞こえてきて、国王に気づいた何人かが、慌てて訓練場へ戻って行くのが見えた。
そのまま進んでいくと広い場所に出た。
そこには百人以上の男性と、数十の女性が整列していた。
国王が広場に入り、騎士たちの前で立ち止まると彼らは一斉に膝をついた。
一人、整列する集団から外れた人物が国王の前に進み出て何やら口上を述べた。
私はウィルたちとシェリエや他の孤児院出身者を探すので忙しくて聞いてなかったが。
「あ、シェリエ一番前にいる!」
「そりゃ第二部隊隊長だからだろ」
「他の子達はバラバラだね」
「お、今シェリエが反応してたな」
「キリヤの声したからだろー」
「なんで私の声で反応するの?」
「後ろ暗いことでもあるんじゃね?」
「うわー…」
私たちがわいわいやっていると、国王に呆れられた視線をいただいた。
口上を述べていた男性は睨んできた。
ウィルたちは萎縮してしまったが、私はへらぁと笑って返しておいた。
「…知っている者もおるだろうが我が国に魔獣化したドラゴンが現れた。それの討伐にギルドの7強を起用することとした。ついては我が国の騎士団からも一人補佐として同行させることにする」
騎士たちは声を上げることはしなかったものの、視線がふらふらとして一気に広場が騒がしい印象になった。
「騎士団第二部隊隊長、シェリエを今回の補佐と起用し、7強を支える役目を遣わす。シェリエは前に出るが良い」
「はっ!」
シェリエは颯爽と立ち上がり国王の前に出てきた。
「…陛下!恐れながら申し上げます!」




