第6章:祭りの夜
第6章:祭りの夜(神視点)
宵の空が、夜の群青に染まった。
通りには無数の提灯が灯り、屋台の灯りが連なり、人々の笑い声と太鼓の音が波のように町を満たす。
湊花町は今やひとつの大きな炎のように輝いていた。
その輪の真ん中に、ぽてぽてとクマちゃんが立つ。
「……ぼく、怖くないよ!」
耳を赤くしながらも胸を張り、メイドちゃんはその隣で歌い始める。
「らら……らら……♪」
歌声は提灯の光と溶け合い、祭りのざわめきと重なっていく。
やがて人々が口ずさみ、笑顔で声を合わせた。
合唱は友情の和音となり、夜空に広がった。
そのとき、影が揺れた。
色喰らいの黒い手が、群衆の隙間から伸びる。
──孤独を喰らおうとする、紫の渇き。
だが、ミルクティーの彼女がカップを掲げた。
ふわりと立ち上る湯気が白い結界となり、人々を包み込む。
さらに、クマちゃんが緑りんごソーダを高く掲げる。
ぷしゅっと開けた瞬間、エメラルドの泡が弾け、爽やかな風とともに緑の光が広がった。
紅葉の葉が風に舞い、その光に照らされて煌めく。
そして──ふたりの背に、再び金色の光の手がそっと触れた。
「……大丈夫」
言葉はなくとも、その温もりが伝わる。
クマちゃんはにっこり笑い、
「えへへっ、ぼくたちは負けないよ!」と声を張り上げる。
メイドちゃんも歌を強め、人々の合唱が祭り全体を揺らした。
光、湯気、歌、炭酸の泡、そして友情。
そのすべてが重なり合い、町全体が一つの大きな光となる。
色喰らいの影はたじろぎ、手を引っ込めた。
紫の渇きは満たされず、闇は宵の空に溶けていった。
夜祭りはそのまま続き、誰も闇の存在に気づかない。
ただ光と笑顔だけが町を満たし、湊花町の夜は温かな輝きに包まれていた。




