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番外編『ぶどうが無い』
第4章:祭りの宵(群像+色喰らいのオチ)
宵の祭りは賑やかだった。
屋台の提灯が並び、焼きそばの香り、綿あめの甘さ、金魚すくいの水音……。
子どもたちの笑い声が交わり、湊花町はひとつの大きな輪になっていた。
クマちゃんとメイドちゃんは、その輪の中に混じりながら手を取り合って歩いていた。
金色の光の余韻がまだ二人を包み、どこか安心した表情で。
だが人混みの裏で、ひとつの影がそっと揺れていた。
──色喰らい。
私は屋台を一つずつ覗いていく。
りんごソーダ、ぽんかんソーダ、柿ソーダ……どこにも赤や緑の瓶ばかり。
紫の、孤独の味は見当たらない。
“なぜだ……ぶどうがない。”
影の目が、提灯の灯りに照らされて歪む。
この祭りの光は、私を歓迎しない。
“緑”ばかりがあふれている。
やがて私は、人々の賑わいから遠ざかる。
誰も気づかない。
ただ背中に、紫の渇きを抱えたまま。
祭りは笑い声で満ち、
闇の手のささやきは、宵のざわめきにかき消されていった。




