第7章中編:劣勢と金色の希望と
第7章:友情のクッキー
(中編:劣勢と希望)
影の力は止まらなかった。
広場を覆う紫の気配は、まるで空気そのものを塗りつぶすように広がっていく。
湊花クッキーの籠に伸びる黒い手が、もう指先で包み込もうとしていた。
「……っ、だめ……」
メイドちゃんの歌声は途切れ、喉から音が出なくなった。
声を奪われた彼女の瞳に、不安の色が浮かぶ。
ミルクティーの彼女の湯気も、風に散らされるように掻き消される。
白の結界は力を失い、闇に溶けていった。
クマちゃんは小さな腕で影を押し返そうとする。
だが体は重く、足がふらつき、石畳に膝をついた。
「……ぼく……守れない……?」
その声はかすれ、耳も赤くならなかった。
影は蠢く。
「孤独に抗う術などない。光も、歌も、湯気も……すべて掻き消される」
その冷たい響きが広場を満たし、希望が失われていく。
──そのとき。
柔らかな光が、夜空に差し込んだ。
星の光ではない。月の光でもない。
金色の手のひらが、宵の闇を裂くように降りてきた。
……
手は、湊花クッキーの籠に触れる。
ぱあっと光が広がり、クッキーひとつひとつが淡い輝きを帯び始めた。
茶色はあたたかく、緑はやさしく、黄色は明るく。
そして──そのすべてに「友情の力」が編み込まれていく。
クマちゃんは顔を上げた。
「これが、ぼくたちの力だ!」
瞳に再び光が宿り、頬を赤らめながら立ち上がる。
メイドちゃんも声を取り戻す。
「そう……みんなの力を込めて……歌いますわ!」
震える喉から、今度は澄んだ旋律が広場に響き渡った。
湯気も蘇る。
ミルクティーの香りが夜に広がり、白い光が再び仲間を包んだ。
影が後退する。
「なんだ……この力は……?」
紫の囁きが揺らぎ、不安の色を帯びた。
クマちゃんは拳を握り、光を宿したクッキーを高く掲げた。
それは闇に挑むトモシビだった。




