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あの日より、私はエルドラ侯爵家の養女となった。
そして、アイリス・エルドラとして再びトラン様と婚約を。
しかも、その際には両家主催で一度目の婚約時より盛大なパーティーまでしてくれて。それも名のある貴族がわざわざ遠方から来るぐらいな——と、その中には迷惑をかけすぎて絶縁宣言されたハートラル伯爵家の親戚もいて、沢山のプレゼントを持ってきてくれたのだ。
わざわざ私の状況に気づけなかったことに謝罪までしてくれて——と、もちろん気にしないでほしいと微笑み、これからは仲良くしましょうと伝えた。
それと、詳しく知らない彼らに元家族は爵位を取り上げられ、元両親と元兄は辺境の村へ、そしてリリスは犯罪や問題を起こした令嬢が行く修道院へと送られたのでもう迷惑はかけませんとも。
それはリリスが産んだ子も。
相手方のご両親が引き取って現在育ているらしいので。
立派な後継者にするために。
ただ、リリスの子なので少し将来を心配しているのが本音なのだけれど。
再び迷惑をかけないだろうかと。
そんなことを思っていたらお義母様も同じ気持ちだったらしい。心配そうな表情を浮かべてきたので。
「息子を廃嫡したから孫を後継者にするらしいけど……本当に大丈夫なのかしら?」
すると、紅茶の香りを楽しんでいたお義父様が微笑んでくる。
「環境で人は変わる……とは言えないが、あの家にはしっかりとした教育係が送られるから心配はないだろう。それよりも、二人ともその格好で良いのかな?」と、我に返る質問をしてきて——と、私は自分のドレス姿を見つめる。
「アイリスも私も最高に仕上げてもらったから大丈夫よ」
お義母様の自信満々に返す言葉に同じく自信満々に「はい」と、頷きながら。
「皆様、スペンド公爵令息が来られましたので、庭にご案内しております」
そして、執事の言葉で庭に向い、エルドラ侯爵家の使用人達と合流を。その際、視界に入るいつも以上に身なりを綺麗にしている彼らに今日は絶対に良い思い出になるであろうと考えて。
今日は皆で記念撮影をしようとしているので。爵位も関係なく皆で——そう思っていると、カメラと脚立を持った使用人が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「旦那様、後は場所決めだけです」
「そうか。では、全員揃ったら早速撮ろう。しばらくぶりの写真だ。沢山撮るぞ」
「ふふ、寝室にも廊下にも飾りましょうね」
それから、お義父様とお義母様が楽しそうに使用人達を交えて撮影する位置を考え、撮る際のポーズまでする姿につい頬が緩んでしまいも。
何しろ、私にとっても久しぶりの写真なので。
ただ、そう思った直後、変に写らないだろうかと不安にもなってしまったが。
特に表情なんか——と、手鏡を持ってこなかった事を悔やんでいると、トラン様の声が聞こえてくる。
「アイリス」
「トラン様」
私はすぐに彼を探し、姿を確認するなり淑女の礼を。
「その青いドレス、とても君の髪と瞳の色に合ってるよ」
そう言って眩しそうにこちらを見てくる彼に笑顔も返して。
「ありがとうございます。トラン様はドレスの選び方がお上手ですね」
「いや、これでも、どれを送ろうかをかなり悩んだんだ。何しろ大切な家族写真に着るドレスだからね」
そう言って頬をかく彼に感激もしながら。
ただ、「アイリス様のドレス選びにトラン様はかなり悩んでましたよ。変なドレスを選んで嫌われたらどうしようって……ぷぷ」と、側にいたシャルが口元を押さえながら笑いだす姿、そして「おい、シャル! 余計な事を言うな」と、笑顔で怒るトラン様に私もつい釣られて笑ってしまったけど。
それも心の底から。
何年振りに声まで出して。
「ふふふ」
ただし、お義父様の「撮影準備ができたぞ」、そしてお義母様の「アイリス、トラン様、早く早く」という声が聞こえてくるなり、しっかりと表情を作ったが。
やはりきちんとした表情は撮って欲しかったので。
最初の一枚ぐらいは——と、私達は同時に「今、行きます」と返事をし、手を繋ぎながら家族の元へと向かう。
エルドラ侯爵家の皆で撮る写真、家族だけで撮る写真、そしてトラン様と二人で撮る写真……
きっと、数枚では終わらないわよね。
そう思いながら。
この一年後、アイリス・エルドラ侯爵令嬢とトラン・スペンド公爵令息は盛大に結婚式を挙げ、周りから沢山の祝福を受けた。
そして、数十年後もその仲の良さから二人は国一番のおしどり夫婦と呼ばれるようにも。
fin.




