表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖遺物の光 ―守られる少女  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第3話 聖王の孤独


舞踏会の華やぎは遠くに消え、王宮の控室には静寂だけが漂っていた。

リシェルは椅子に腰かけ、まだ指先に淡く残る指輪の温もりを確かめる。胸の奥に、微かにざわつく感覚が残っていた。


「……陛下、この光は……わたしが持ち主だからでしょうか……?」

声は小さく震える。敬語を使いながらも、緊張で胸が高鳴る。


レオンハルトは静かに頷き、指輪の光を見つめる。

「そうだ。君に宿ったからこそ、力は発動した。だが、完全に制御できるわけではない」


控室の隅で、アランが黙って妹を見守る。

「リシェル……大丈夫か……」

強がってはいるが、声には深い心配がにじむ。


リシェルは小さく頭を下げる。

「お兄様、静かにしてください……陛下がお話し中です」


レオンハルトはゆっくりとリシェルの方へ近づき、その金の瞳は深く、どこか寂しさを帯びていた。

「君を守るために言う。聖遺物が発動した以上、君を王都に留めておくことはできない」


リシェルの胸がきゅっと締めつけられる。

神聖帝国――遠く、聖遺物の故郷でしか、力を安定させることはできない。

家族やお兄様とも離れ、見知らぬ土地で暮らすことになる現実を、ようやく実感した。


「……わたしが……神聖帝国に行くのですね……」

震える声で言う。胸の奥に、熱く重いものが押し寄せる。


「恐れることはない。私がそばにいる」

レオンハルトの声は低く、穏やかだが、どこか重みを帯びていた。

「君が苦しめば、私も痛む。喜べば、私も温かさを感じる。聖遺物は、持ち主と私を繋ぐ」


その瞬間、リシェルの胸に鋭い感覚が走った。

――胸の奥に、誰かの孤独が流れ込む。

自分のものではないのに、確かに胸を締めつける、冷たく重い孤独。

広く静かな宮殿の中、誰も寄せつけず孤高に立つ、聖王レオンハルトの孤独。


「……陛下……これ……陛下の孤独……?」

思わず口に出す。息が詰まるほどの重み。指輪の光は微かに揺れ、胸の奥の痛みを映しているようだった。


レオンハルトの瞳がわずかに揺れる。

「……感じたのか」

低く静かな声に、驚きとわずかな諦めが混ざる。

「王として、常に孤独である者の痛みを、君まで感じ取ってしまったか」


リシェルは顔を上げ、胸が熱くなるのを感じた。

孤独――王として生きる者が背負う、逃れられぬもの。

けれど、それを自分が少しだけ理解できたと思った瞬間、胸の奥に温かさも混ざる。


アランがそっと妹の肩に手を置く。

「リシェル、大丈夫か……?」

「はい……お兄様、わたし……大丈夫です」

指輪の光は、二人の間に微かに揺らぎ、リシェルの胸に残る痛みを柔らげるようだった。


レオンハルトはゆっくりと頷き、ほんのわずかに微笑む。

「……君がそう思うなら、私も少しは救われたかもしれない」

孤独を知られた王の表情は、初めて人としての柔らかさを見せた瞬間だった。


リシェルは胸の奥で、決意と不安が入り混じるのを感じる。

――これから神聖帝国へ行き、レオンハルトと共に生きる。

孤独を共有することの重さも、ほんの少しだけ理解した。


控室の空気は静かで、それでも少しだけ、温かさを帯びていた。

二人の心が、光を通して初めて静かに触れ合った証だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ