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21 冷戦の終わり

 あれよあれよという間に聖騎士団の設立は承諾され、私に最も近い金剛の離宮をそのまま聖騎士団の兵舎兼私の住居として使う事となった。


 私には常に交代で2人の護衛がつき、うち1人は必ずガウェイン様で、ガウェイン様も聖域に来たのだから聖人として扱われるべきではないんだろうか、等と呑気に考えていたけれど、安心できるので口を出すのはやめた。


「橄欖石……ペリドットは、幸せを呼びこんだり安心感を与えるという効果が強いのです。どうか、ルーシー様がこの場に馴染むまでは……」


「お前、まわりっくどいなぁ」


 不思議そうに見ていたからか、ガウェイン様が丁寧に説明してくれたのを、騎士の一人が苦虫を噛み潰したような顔で咎めた。


「離れたくないです、って素直に言えばいいだろ。お前がルーシー様に気がある事なんて騎士団員全員知ってんだよ!」


「おい!」


 聖域は瘴気の影響が少なかったからか、穏やかな風が吹き小鳥が囀る聖域の渡り廊下でのそんなやり取りに、私は驚いてから肩を揺らして笑った。


 今は、いろんな離宮を回って聖人聖女の方々にここでの過ごし方や、どういう事を学べばいいのか、何をすればいいのかなどを聞いて回っている。が、どうにも孤児院育ちで下女というか、寮母として働いていた私には性に合わなさそうだ。


 最高位の聖女である私に、誰も何も指図はできません、という事は必ず言われる。


 だから一つ考えている事があるが、それにはこのドレスは余りにも不似合いだし、国が落ち着いてからグランドルム国王にちょっとお願いしようと思っていることがあるが、まだこの国は落ち着いていないので我慢していた。


 端的にいえば、まぁ、暇つぶしにお喋りをして回っているのだけれど、私の教養が無さ過ぎて正直つまらないというのが感想だ。


 そんな、外の騒ぎと切り離された場所で退屈な日々を送っていたが、いよいよ冷戦が終わったという話が飛び込んできた。


 また国王陛下自らが聖域に赴いての説明だ。今回同席したのは、ガウェイン様と騎士団長だ。


「彼の国の王は……ルーシー様を起点に自国の瘴気を反転させて我が国に向けていた事、周囲の人間を騙す為に魔法を使っていた事から、憔悴の果てに寝たきりとなり、国王が替わりました。魔法を使うだけの能力がもう残っていなかった前王のやったことは許されることではない、と全てを知った今の王……まさか父親に魔法を掛けられていたと思わなかっただろう王太子は……責任を取る意味でも、糧食の蓄えを解いて我が国への食糧支援を約束し、終戦協定を結び、和平協定も共に結びました」


「じゃあ……」


「はい。長い……長い、冷戦が終わりました。今後は、魔道具や魔法使いになりうる人材を育てるための貴石を彼の国に糧食の支払いとして少しずつ払う形に落ち着きます。聖人や聖女が我が国の聖域にいるように、彼の国にも移住を希望すれば聖域を作りそこで暮らす事も可能だと。そして……何よりも重要ですが、ルーシー様及び聖騎士団の皆さんが希望されるなら、何の咎もなく、もちろんそれは当然なのですが、受け入れる、と」


 確かに私は育った土地を懐かしく思う気持ちが無い訳ではない。騎士団の面々としてはますますそうじゃないか、と思ったけれど、騎士団長が肩を揺らし、こらえきれないというように笑った。


「いえ、和平協定が結ばれたのなら、いつでも往来できるという事。ならば、焦って戻る事も、所属をころころ変える必要もありますまい。ルーシー様が育った国に行きたいのなら護衛として付いていきますし、ここに居たいのなら我々もここに居ます。必要ならば休みをとって交代で帰ればよろしい」


 ローリニア王国の公爵家の出である騎士団長が、あっけらかんと言い放った。確かにその通りだ。


 別に、私は住む場所はどこでもいい。ただやりたい事があって、それができれば、だけれど。


「あの、国王陛下」


「どうか、ただ、国王、と」


「えぇと、では国王、さん。私からお願いというか、私はここで自分の好きに過ごしていいんですよね?」


「はい。ルーシー様の行動は何も制限されません。和平協定が結ばれた今、聖域を出るのも自由です」


 その言葉をよくよく飲み込んでから、これまで会話してきた聖人や聖女の方々との過ごし方とは違うけれど、自分のやりたい事を私は国王に告げた。

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