スタンピードが来て。
スライムバスケットで一作書きたいんですよね。小学生猫耳娘がスラバスリーグで大活躍! とか。まあこのお話を終わらせないと書けませんけど。
グリフォンちゃんをカリーナに呼んでもらった。カリーナに呼ばれた青い目のグリフォン、スカイちゃんは縮こまってしまったわ。伏せをして翼と頭を下げ、ギュッと目をつぶって震えている。ライオンの下半身に鷲の上半身と翼、黄金の毛並みが美しいグリフォンだ。
「ど、どうしたのスカイ! 貴女ドラゴンでも恐れないのに!」
まあ、あたしならドラゴン瞬殺できるからね。エンシェントドラゴンは分からないけど。たぶんノーマルのレッサードラゴンならこの子なら勝てるわね。三千は魔力を感じる。ものすごく強い子だわ。
「アザレアさんって何者なんですかぁ~?」
何故かルシアちゃんが動揺してるわね。
「強い強いスライムだよ! 魔神と戦えるらしいわ!」
「魔神と……真正の化け物じゃないの!!」
「内緒よ? スカイちゃんも怯えなくて大丈夫よ。それにしても本当に人が居ないわね」
「この時期は多くの人が城壁のある町に疎開してるんですぅ」
「ああ、なるほど」
魔物は強いから逃げたりしないけど、人間は弱いものね。天海嘯からは逃げるしかないのね。でも逃げられない人やその人のために残る人はいるみたいだわ。
しばらくスカイちゃんを撫でてると落ち着いてきたのか、くわぁ、って鳴いてくれたわ。可愛いわね。
そう言えばあたしこの星の言葉も普通に喋れるのね。言語翻訳はお得なスキルだわ。
「酷いことはしないわよー」
「酷いこと、ね」
「なに?」
気のせいかカリーナの目にブレイズさんに近い目の光が宿ってるわ。
「藪をつついたらエンシェントドラゴンが出てきそうだけど、貴女あの貴族たちに何かしたわよね。魔力が伸びてたわ」
「ふーふー、何のことかしら?」
「貴女口笛が絶望的に下手ね!」
そ、そんなことないわ。あたしは名作曲家だわ! 作曲家と口笛関係ないけど! てかそんな方向からバレると思わなかった。この人も魔力が三千近く有るわね。これはバレるわ。今度から気をつけて落とし穴使おう。
それに、どうも人間は魔力は少ないけどスキルが器用みたいなのよね。弱いからって安心できないわ。なんかあたしより搦め手上手そうよ。
「Sランクが人間では最高なのよね? 貴女と比べてどれくらい強いの?」
「う、うーん、スカイ込みでやっと打ち合えるくらいかしらね」
「Sランク数人ならあたしを楽しませてくれるかしら」
「絶望的なこと言ってくれるわね……」
「うーん。貴女たち若いんだから良いダンジョンで暮らしたらすぐにそれくらい強くなれるわよ。あたしのダンジョンなら一年で確実に魔力一万は行くわよ。それ以上は器の問題が出てくるけど」
「一万? どれくらいなの」
「貴女とそのスカイちゃんがそれぞれ三千くらい。連携を考えると五千から八千、単純計算で倍だけど一対多は経験値も物を言うから単純には計算できないけどね」
「すごい精密に魔力を測れるのね……でも一年で三倍ってすごくない?」
「実際あたし最初はその子と変わらないくらい弱かったのよ。魔力で言えば五ね。今契約で繋がってるからその子に千くらい魔力を譲渡してるからその子もかなり強くなってるけど」
「魔力譲渡?」
「カリーナとスカイちゃんが同じくらいの強さなのは従属契約で繋がってるパイプで無意識に魔力交換してるからよ。経験無い?」
「あ……そういえばこの子がいると魔力があんまり尽きないわ。すごい、新発見だわそれ」
新発見? 魔力感知が上手い人間なのに? たぶんSランクになるかどうかはそこで決まってるんだわ。情報が秘匿されてるのよ。ケチ臭いわね。そこもまた人間なのかも知れないけど。それに召喚術式を皆が持ってるわけでもないか。召喚獣無しでSランクに達した人はすごいわね。人間って魔物より個体差が大きいんだわ。
「ルシア、王都にはSランクいるかしら?」
「当然数人は常駐してますよ~。……何する気ですかぁ……」
「あのさ、一応従属してる体なんだから普通に喋りなさい」
「ええぇ……無理で」
「無理じゃない! ハイ!」
「はい……。えーと、よろしく、ね?」
オッケイ可愛い。まずはこのスタンピードで魔力に慣れさせないとね。あたしはいつか王都でSランク数人と打ち合いしてみたいわ。楽しみね。
「それで、効率の良い鍛え方ってダンジョン以外にもあるの?」
「あたしの近くにいれば擬似的にダンジョンにいるのと変わらないわよ。まああたしのダンジョンにいるのよりは数段落ちるけど」
魔力が強い魔王や魔神は魔力を強力に吸引しているから、魔力が強い人の周りには強い圧で魔力が集まるのよね。そこにいれば当然その人は強い魔力に曝される。放出してるわけじゃないから狂気には曝されない。まああたしでもうちのダンジョンほどの圧は無いけど、それなりに高圧がかかるわ。
あんな変態魔神天国と化してるダンジョンなんてうちだけだ。いつかこっちにしっかりしたダンジョン作って皆を鍛えてあげないとね。カリーナとスカイちゃんがパーティーに入ってくれるのはかなりお得だわ。今から連係を練習していけばルシアも最終的にSは余裕ね。
「じゃあ少し鍛練がわりにスタンピードの偵察に行かない? 私はその依頼でファスタに来てるのよ」
「良いじゃない。ルシアちゃんもいくらか魔物を狩ればお金になるわよ」
「わ、私、小鳥くらいしか獲れませんよ?」
「言葉!」
「わ、わ、私小鳥くらいしか獲れないよぉ」
「死んでも蘇らせてあげるからレッサードラゴンまではいけるわ」
「またとんでもないこと言い出したわねこのスライム……」
あれ、なんかまたカリーナの目線がブレイズさんのようね。青の星のブレイズさんだわ。しかも宇宙からブレイズさんの視線が来てるからダブルになってるわ! 被害妄想よね! たぶん! あたしは酷くない!
「まあそっち方面は隠す気無いから、リザレクション使えるのは言っておくわ。スカイちゃんとか死なれたら嫌でしょ?」
「リザレクション……聖女しか使えないスキルなんだけど……。でもそうね、スカイに死なれたくないわ」
「まあ死なせないわよ。エターナルヒールかけてたら大丈夫でしょ」
「また伝説級のスキルの名前が出てきたわね……」
「一々驚いてたら付き合えないわよ? あたし色々隠し技持ってるし。あたしが全力出したら正気でいられないわよ?」
「だろうねえ……。でも驚かない自信が無いけど」
「なんでアザレアが私の使役獣になったんですかねぇ……」
「ルシアは運が良かったのか悪かったのよ」
「悪い方の気がするぅ」
まあ当分ゾンビアタックさせられるから良くは無いのかもね。魔力たったの五だったし。
話しながら移動しているとファスタ南門とやらに着いた。
「じゃあ前衛はカリーナとスカイちゃん、後衛はルシア、あたしは遊撃で、だけどピンチ以外は手を出さないからよろしく」
「まあアザレアに手を出されたらすぐ終わりだしね。スカイ、行くよ!」
「くああああっ」
あー、スカイちゃん可愛いわ。もふもふしたいわ。何故かケイシーの悲しそうな視線を宇宙から感じるわ。あ、あたしの魔力を赤の星に近いとこまで伸ばせるんだわ。ブレイズさんやケイシーも強いから何か感じ取られてる?!
もう少しあたしも魔神とか倒して鍛えたら赤の星にダイレクトで跳べるかも。修行ね。スライム生は死ぬまで修行。魔力を支配できる範囲を伸ばさないとね。
あら、レッサードラゴンとか出てきちゃってるじゃないの。これスタンピード始まるんじゃないの?
そういえばカルさんなら念話を飛ばせそうなんだけど来ないわね。一方通行なら行けるし確かカルさんなら青の星まで跳んでこれるはずだけど……。青の星に来たら怒りに耐えられなくなるとかじゃ……ないわよね? 清酒買ってくるとか言ってたし。いや、ちょっとお買い物と住み着くんじゃ意味が違うか。
お、ウインドショットね。ルシアが矢に風魔法を乗せて撃ったわ。レッサードラゴンの目に突き刺さった。カリーナとスカイが連係して追撃、首に深い傷を負わせたわ。この三人ならこのくらいは大丈夫ね。人間ならたぶんいい戦力だわ。
でも心なしか敵が弱い。
あっ、そうか、赤の星と青の星って総魔力量が違うダンジョンみたいなものなんだわ。魔力は太陽からも来るから太陽から遠い青の星の方が弱いのね。だから赤の星から青の星を見れるのは夜だけなのね。逆に赤の星は昼にしか見えない。なるほどね。まああたしら魔物だから夜もあんまり関係ないけどね。
「ん、来たわね」
「え、え、何あれぇ」
大草原に黒い渦が巻いて、土煙が上がっている。魔力圧が高まって魔物の自然発生が加速し、元からいた魔物も追いたてられる。天海嘯スタンピードの発生ね。
「ちっ、もう始まるのかい、スタンピード!」
「ほれ、一回引いて報告よ」
「分かってるわ、来てスカイ! 先に行くわよ!」
あたしが指示を飛ばすとカリーナがスカイに乗り撤退。なるほど、通信や運搬には適したコンビだわ。戦闘力が物足りないと思ったけど、これでAまで上ったのね。
あたしはルシアを右手から出した触手で巻いて南門にショートジャンプした。
「はわああぁっ! 心臓いくつ有っても足りませぇんっ!」
次回、スライム天使アザレア「今だ! 必殺! リザレクション!」
カリーナはブレイズさんに同情する。
リザレクションなのに必殺。




