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悪いスライム(sideイリス)

 今日は二話更新です。

 私はイリス。元インプのサキュバス。


 インプは小悪魔とも呼ばれる種族。大した力はない。昔は妖精に分類されていた。

 サキュバスは淫魔だ。だが私にはそう言う欲求は無い。スライムをもちゃもちゃ揉んでいたい。職業もスライムテイマーだし。


 こうなってしまったのは私たちの友人の変なスライムのせいだろう。

 彼女は、彼女? 性別はあるのかしら?

 彼女は、規格外のスライムだった。出会ったその時から。

 彼女を初めて見つけた河童のサンシャインによると、その時は大した力を持たないアーシースライムだったらしい。嘘かもと思ってしまう私は悪くないと思う。だが、それがダンジョンマスターと言われれば私たちは納得してしまう。


 私たち三人は孤児で孤児がやり易い仕事なので冒険者になった。

 やせっぽちな私たちがCランク冒険者になるまでにはそれは色々な苦労があったが今回はアザレアの話だ。


 私たちが出会った時点で彼女はめちゃくちゃ強かった。ゴブリンはそんなに弱いモンスターではない。連携もするし奇襲もしてくる。現にCランクの私たちが苦戦していたのだ。私など魔力を使い果たしてしまった。

 十数匹で襲ってきた山賊ゴブリン、私たちを苗床にしようと考えなければあっさり殺されていたはずだ。だが。


 一瞬、そう、一瞬だった。

 私たちが苦戦していたはずの相手が、一瞬でソフトクリームのように溶けていた。


 私の仲間のカーシーのケイシーやオーガのユキメはその悪臭に眉を潜めていたが、私は違う。

 その強さ。圧倒的な力に興奮していたのだ。


 私がスライム好きにならないはずがなかったのだ。彼女を好きになったのだから。


 好奇心旺盛な彼女との町歩きは楽しかった。スライムのわりに意外と速いと思ってはいたのだけど、全然全力でなかったことを私たちはこの後に知ることになった。


 まずはジャイアントボアに楽勝。次の、Cランクの私たちが勝てるか分からない敵、ワイバーンをほとんど瞬殺。続くマンティコアさえも遊びのように殺した。強すぎる。

 さすがにSランクのギルドマスター、ブレイズさんには挑まなかったが、勝てたんじゃないかと思う。本人は疲れていたようだ。スライムも疲れるのね。でも、評価するならあれは酷い試合だった。浣腸は無い。わりと容赦の無い私でも思う。マンティコアが可哀想に見えたのは初めてだ。


 その後私たちは彼女のダンジョンに誘われた。


 ダンジョン。私たちモンスターにとっては憧れの存在。そこに住まうだけで進化を約束される。それは私たち冒険者にとって常識だ。もちろん敵対的感情を持って入ると死ぬことになる。

 中には財宝を与えてくれるダンジョンも有るし、討伐すればそれだけでAランクは約束される。ダンジョンは私たち冒険者の夢が詰まってる。


 だけれど一番大きいのはダンジョンボスになること。それで私たちは進化できるし、いくらでも強くなれるのだ。

 モンスターは力社会。強いものは望むだけ望むものを与えられる。

 力はどんなものより大事なのだ。それが無ければゴブリンにさえ蹂躙され、望まぬ結果をもたらす。実際に危なかったし。


 彼女のダンジョンで美味しいご飯も食べて、私たちは最高に満たされていた。のだが、まさか数週間も放置されるとは思わなかった。

 まあその間私たちはスライムたちと遊んでいたので楽しかったのだが。

 ユキメも料理が楽しそうでそれはそれで満たされていたようだ。

 ケイシーはずっとプールで遊んでいたが、さすがに一週間もたつと私とユキメは悩んだ。


 これ、どういうこと?

 死んでいないのは分かる。ダンジョンマスターが死ねばダンジョンは徐々に弱まるからだ。弱まるどころか強くなってるので多分必死にダンジョンを拡張しているのだろうと私たち二人は判断した。

 ケイシー、普段は真面目なのにおかしくなっちゃったわ。このダンジョンが魅力的過ぎなのは分かるけどずっとプールで遊んでる。ご飯は食べに来るけど。勝手にプール拡張してるし。まあスライムたちが協力してるのであれはあれで良いんだろうけど。


 狭い入り口を壊して一旦町に戻る。出入り口は岩とかで簡単に塞げる。水着とか食料品も買いたいし町に戻った。私は泳ぐのは好きだ。水の感触は気持ちいい。

 あんなに広い温水のプールや温泉なんて、きっと世界中を探しても見つからない。楽しい。とても充実している。


 でも、放置は無いと思う。

 アザレアは一人に慣れてしまってるんだわ。可哀想に。

 私たちはアザレアが帰ってきたらずっと一緒にいてあげようと話し合った。

 戻ってきたアザレアは化け物具合が増していたけど。私たちも強くなっていたけどアザレア、貴女の方がビックリするくらい強くなっていたのよ。


 私たちはこの時点でアザレアの無敵具合を認識していたけれど、その本質的な強さを見せつけられる機会が訪れた。


 戦争だ。相手は傭兵団。

 まあ盗賊に身を(やつ)す程度の傭兵なんて大したことは無いと思ってはいたが、敵を実際に見ると意外と装備も充実していて、これは私たちも厳しいとか阿呆なことを考えてしまった。


 そんなわけ無いじゃない。アザレアがいるもの。

 彼女はあっさり敵陣から全ての物資を奪い取り、あまつさえ天敵であるはずの炎の使い手を瞬殺。さすがにこれは絵本に伝説の勇者と載っていても、そんな馬鹿な話は子供騙しでも酷すぎると思うだろう。子供さえ騙されるわけない、と思うに違いない。でも現実。


 私は感動していたが、酷いと言っておく。彼女は自分が分かっていない。


 その後、B拠点で虐殺。C拠点に向かう時、彼女は突然人化して、様子もおかしくなった。とても不安定な様子で私たちは心配しきりだったが、何も感情を乗せてない目で敵を殲滅していくのを見て、ゾーンのようなものに入っているのだと判断した。


 でも、何故だろう。彼女は傷ついている。それが分かるから全力で走っているのに心配で彼女から目が離せなかった。


 C拠点に着いてからの彼女は凄まじかった。数百人はいる怪我人を瞬く間に癒し、そして、無理だ、無駄だと群衆が叫ぶ中で、彼女は死者さえも蘇らせたのだ。それは奇跡の御業。誰もがそう思っていた。


 彼女自身はそれを当たり前のことであるかのような態度。

 こんなの聖女と呼ぶしかない。戦い方はえげつないけど、モンスターならそんなのは当然だ。


 その後もたくさんの兵士が救われていく。戦争でこんなスライムがいたらもう負けるはずがない。報告はブレイズさんたちにも伝わったらしく、怒濤の進軍でA拠点まで撃破した。


 この戦争で最大の功労者は間違いなくアザレアだ。だけど彼女は死んだような目をしていた。疲れたのか、何かを思ったのか。


 私たちはモンスターだ。相手を駆逐蹂躙することに悩むことは無い。


 でも、アザレアは他のモンスターのことをいつも思っているように見えるのだ。

 後に味方になった河童のサンシャインも、アザレアが弱かった頃から彼女に惹かれていたように見える。

 生まれたてのスライムなんて叩き潰すのがセオリーだ。スライムが強くなると手に負えないのは私たちの常識でもある。アザレアはきっとその域、魔神にまで手が届く。そんな気がしている。


 私たちが出会った魔神は、冒険者ギルドを纏め上げている魔神、カル・ダモン様だけだが、彼女は桁外れの強さを感じさせられた。Sランクのギルドマスターさえも子供と思えるほどの強さだ。

 彼女はアークデーモンの一柱だがそのアークデーモンの中でも特別な強さを持っていた。魔神と呼ぶに相応しい。

 だが彼女はその強さに興味を持っていなかった。


 何故だか、アザレアと同じ匂いがする。アザレアはきっとあそこまで行く。

 その時には私たちが立派なダンジョンのボスの一人に成れていたらいいと思う。私たちはこれからも修行を続けるのよ。ケイシーは遊んでるだけだけど。そのわりに強くなってるから何かしら(つか)めているのかも知れないわね。


 あと、スライムテイマーになってるけどアザレアをテイムする気は無いからね? スライムダンジョン最高だとは思ってる。


 淫魔を惚れさせるなんて、アザレアは本当に悪いスライムよ。






 イリスがメインヒロインな気がします。

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