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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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8 古き吸血鬼は治療院に雇われる

 血を得られた喜びに浸っていたテネリスは、ある程度落ち着いたところで男に声を掛ける。


「――血を提供してくれたこと、感謝する。お前、名は何という?」


「……日隠(ひがくれ)ユウジ。ここ、『日隠治療院』の院長だ。……つっても、俺しか居ねえけどな」


 ユウジは白衣の襟を直しながら、相変わらず気怠そうに告げる。


「治療院……病院みたいなものか。一人で回せるのか?」


「まあそこは、大人の手腕でどうにか。……んで?頑張って磨いた白い床を真っ赤にしてくれた、おたくの名前は?」


 皮肉交じりに名前を尋ねてきたユウジに対し、テネリスは立ち上がって胸に手を当てる。


「私の名前はテネリス。何を隠そう、誇り高き真祖のヴァンパイアだ!」


「ヴァンパイアねえ」


「何だその反応は」


 柄にもなく威勢よく自己紹介をしたというのに、あまりに白けた反応にテネリスは不満の声を上げた。


 そんなテネリスをよそに、ユウジは懐から手鏡を取り出し、テネリスに向ける。


「……おお、本当だ。映らねえ……!」


「私がヴァンパイアと聞いて真っ先に確認することがそれでいいのか……?」


 テネリスにとって鏡に己の姿が映らないことは常識以外の何物でもないのだが、ユウジはそれが面白いらしい。


 テネリスが困惑していると、ユウジは軽く咳払いしつつ調子を戻す。


「いやまあ、血をがぶ飲みしてる時点で普通じゃないとは思ったが念のためな。……で、そんな誇り高いお方が、どうしてこんな場所に来たんだ?」


「色々とあってな。この際、別に隠す事でもない。話してやろう――」


 テネリスはゴーストタウンに訪れたことから、魔法少女に襲われたことまで一通りユウジに話した。




「――そうして血が足りなくなった私は、己と戦いながらここに漕ぎつけたというわけだ」


「色々と言いたいことはあるんだが……」


 ユウジは、いつの間にか淹れていたコーヒーに口をつけながら話す。


「そもそも、今まではどうしてたんだ?」


「今までか? 辺境で暮らしつつ、稀に出会う人間を助けて、その礼として血を得ていた。勿論、合意の上での。力を使わなければ、一度の吸血で十年くらい耐えられる」


「そりゃ随分と燃費がいいんだな」


「耐えられるだけで、決して楽ではないぞ?理性を保てなければ、ただ人を襲う化け物と成り果てるからの」


 それこそ、動物の血を飲むというのは耐える手段の代表例だろう。あとはトマトジュースを飲むとか、血に見える何かを口に含むなどが挙げられる。


「そうして、ヴァンパイアが居ると噂が立つようになったら別の場所へ移住する。私は、それを繰り返して上手く生きてきたのだ」


 テネリスにとってこれは実に賢い生き方であり、誇るべきことなのだが、どうもユウジにはその素晴らしさが伝わらなかったらしい。


 彼はまた、冷静に質問を続ける。


「同族はどうした。人間の血を吸ってきたなら、家来とかもいるだろ?」


「いない。あんなのと同族だなんて、考えるだけでゾッとする」


 テネリスは露骨に嫌悪を露にして返した。


「よく世間一般に語られるヴァンパイアは、力に溺れて本能のままに振舞い、自分の手で自分の首を絞めた愚か者のことだ。それと一緒にされるなど、侮辱に等しい」


 あれはいつの事だったか。


 テネリスが過去に見てきたヴァンパイアは誰も彼も、「僕がこの世界を正す」とか「全てを私のものに」とか「俺を虐げてきた者に復讐を」とか、それはもうわかりやすく碌でもない主張をしていたのを覚えている。


 それでいて、どんな大義名分を掲げたところで、誰も彼も起こす行動は似たり寄ったり。好き放題に力を奮ったところで生きづらくなるのは自分たちの方だというのが、どうしてわからないのだろうか。テネリスはずっと疑問に思っていた。


 そして今、テネリス以外のヴァンパイアは滅び、「ヴァンパイアは悪しき存在だ」という印象だけが置き土産として残され、テネリスは実に肩身の狭い思いをしているわけだ。


 だからこそ、それを理解できなかったヴァンパイアたちをテネリスは軽蔑していた。テネリスが「理性ある者」であることに拘る一番の理由は、ここにある。


 故に、理性を失って人を襲ったことは本当に記憶の彼方へ追いやりたい出来事のひとつとなってしまったわけだが……それは今は置いておこう。


「それと、『ヴァンパイアに血を吸われたらヴァンパイアになる』というのは迷信だ」


 テネリスはユウジの誤解を訂正する。


「細かい説明は省くが、ちょっと齧られたらヴァンパイアに、なんてことは無い。その点は安心するがよい」


「そうか。まあそれなら今頃、世界はヴァンパイアで埋め尽くされているだろうしな……」


「あるいは、ヴァンパイア同士で血で血を洗う修羅の世界が生まれているやもしれないな」


 テネリスが冗談めかして返すと、それが意外だったのか、ユウジは間の抜けた顔をしていた。


「ところでお前、これから行くアテはあるのか?」


「いや、無いな。適当に潜伏先を探すつもりだ」


「なら、ここで雇われないか?多少物騒なことが起こる時もあってな、強くて信頼できるやつを探していたんだ」


「……会ってからまだ一日も経っていないのに、私を信頼しているのか?」


 あまりに胡散臭いユウジの言葉にテネリスが怪訝な表情で問い返すと、彼は気まずそうに言葉を重ねる。


「……言い直そう。強さが信頼できるやつを探していたんだ」


「つまり、私の力を利用しようという魂胆か」


「ありていに言えばな。ただ、武器みたいに使おうってわけじゃない。この治療院で暴れる奴がいたら撃退するだけ、普段は好きに過ごしていい。報酬は血で払う。どうだ?」


 差し出してきたユウジの手を眺めながら、テネリスは考える。


 このユウジという男、信用に足るかと言われるとかなり怪しい部分があるが……今まで山や辺境のボロ小屋で、いつ来るかもわからない人間を待ち続けて過ごしてきたテネリスにとって、これは今までにない好条件に見える。


 何より、何やら大きな変化があったであろう世界について情報を集める上でも、堂々と街中に潜伏できるというのは素晴らしいメリットだ。


 あるいは、仮に騙されたとて、その時はいくらでもやりようがあるだろう。


「いいだろう。これからよろしく頼む」


 テネリスはユウジの手を握り返した。


「痛ッ!?おいおまっ、コレ何割の力で握ってやがる!?」


「えぇ……?いくらなんでも脆すぎるだろう……」


 優しく握ったつもりだったのに、釣り上げられた魚のように暴れるユウジを前に、テネリスは困惑の声を上げた。

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