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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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36 透明な吸血鬼は画面に映る

「――配信がしたい、ですか」


「ああ。それこそ、魔法少女がしていることの真似事とでも思ってくれて構わん」


 それこそ、今時の若者たるフミなら、テネリスやユウジが知らないことを知っているかもしれない。ましてや、業として配信を行っている者となればなおさらだ。そう期待してのことであった。


「さしあたって、私を映せるカメラがないか探しておるのだ。ないならない、あるならあるで、はっきりとさせたい。そこで有識者たるフミを頼ろうと思ったわけだ」


「そういうことだったんですね。うーん、やっぱり普通のじゃ無理だと思いますし……私が普段使いしているドローンを試してみますか」


 そう言って、フミは自室からドローンを持ち出してきた。


 それは、ハトくらいの大きさの、鳥を模したドローンだった。左右に真っすぐと伸びて固定された翼にはプロペラが内蔵されており、金属製のかぎ爪は、球体型のカメラをがっちりと掴んでいる。


「ふむ、見るからに普通ではなさそうだな」


「そうなんです。ピーちゃんって呼んでます」


 フミは「ピーちゃん」の側面についた画面を操作しながら続ける。


「業者の人にお願いして、ICOから支給されたドローンをたくさん改造したんです。ちょっと熱が入りすぎて、普通だったら絶対持て余すようなスペックにしちゃったんですけど……まさか役に立つ日が来るとは思いませんでした」


「そんなに良い性能になっておるのか?」


「はい。聞いた話、魔物が出る穴に入ると行ける、向こう側の世界の調査にも使えるスペックらしいです。そっちのことは全然知らないんですけど……なんだか期待できる気がしませんか?」


「そういうものだろうか」


「少なくとも、幽霊が映るなんて話よりは信憑性があるはずです――よし、準備オッケーですっ!」


 フミがピーちゃんをふわりと投げると、静かな駆動音を立てながら二人が座っているソファの周囲を旋回し始めた。


「これで他の端末から共有コードを入力すれば、ピーちゃんからの映像が見られます。あ、もちろんローカルモードなので配信はしてませんし、ICOにも知られませんから、安心してくださいね」


「共有こーど……ろーかる?」


「つまり、対策は問題無しってことです。一緒に見ましょう!」


 フミは「大きなすまほ」を手に取ってテネリスの隣に座り、画面が見えるように身を寄せてきた。そして専用のアプリとやらを起動し、合言葉を入力すると、すぐにこの部屋の映像が映し出される。


 そこに映っているのは、リビングの白い壁紙、テーブルの上の中身が減ったコップ。そして、ソファに隣り合って座る二人の少女――フミと、銀髪の少女だ。


 テネリスは一拍遅れて、その事実を認識する。


「これは……私、か?」


 テネリスがピーちゃんに向けて手を振ると、わずかに遅れて、画面の向こうにいる銀髪の少女が、紅い瞳を丸くしながら手を振る。翼を揺らすと、それもまたしっかり反映されている。


 この現象が意味するところは、つまり――。


「すごい、すごいぞ! フミ! 私が映っているぞ!」


 テネリスは興奮して声を上げ、フミに向き直る。


「フミを頼って本当に良かった。感謝する……」


「て、テネリスさん。顔が、顔が近いです!」


「しかし……ふふ、そうか。私はこんな姿だったのだな。そうかそうか……」


 慌てるフミをそっちのけで、テネリスはによによと笑みを浮かべて頷いていた。


 過去に何度かテネリスの姿を他人に描かせたことがあるので、自分の容姿は何となく把握していた。だがそれは他人の目を経由しての自分であって、実際とはどうしても異なる部分がある。


 だからこそ、映像を通して実際に己の姿を目の当たりにして、思いのほか感動しているのである。


「それで、このドローンはどうしたら手に入るのだ?」


「市販のドローンを改造すればいいと思います。撮影に直接関わらないオプションもたくさんつけてあるので、ちょっと仕様書を確認しますね」


 席を立ったフミは、棚の上に立てられていたファイルから薄い冊子を取り出し、メモにペンを走らせる。


 その間、一人残された真祖のヴァンパイアはピーちゃんで遊ぶ――もとい、実験をしていた。血操術で作りだした結晶も映るのか。見え方はどうか。配信をするとしたらどんな風にしようか。そんなことをあれこれ考えていた。


 そして数分後。顔を上げたフミがメモを見て頷いた。


「――これでよし、と。テネリスさん、ここに書いているパーツを全部買えば、ピーちゃんと同じになるはずです」


「ふむ」


 テネリスは貰ったメモに視線を下ろし――「超異形波コンバータ制御ユニット」の文字列を見てすぐに顔を上げた。断じて、一行目から何を書いているのか全然理解できなかったからではない。


「オンラインショップで揃えられるはずなので、雇い主さんと一緒に見てみてください」


「そうすることにしよう」


 例によってオンラインショップが何かは知らないが、とりあえずユウジに聞けば解決するだろう。テネリスは改めてフミに礼を告げる。


「フミ、何度でも言うぞ。本当に助かった」


「いえいえ! 私もテネリスさんが配信するところ、見たいですから! ……あっそれと、今使っているアカウントって、雇い主さんのですよね? なら、今のうちに専用のアカウントを作っておきましょう! 私がテネリスさんの第一視聴者になります!」


「ふむ……そうだな、その辺のことも今のうちに教わっておこう」


「やった! そしたらまずはスマホを貸して頂いて――」


 こうして、着々とテネリスが配信をするための準備が進むことになった。


 今日のテネリスは友を失うか、大きく関係が変わってしまう覚悟でここに来た。だが二人の関係はこれまでと変わらないどころか、より深いものとなった。




 夜だというのに話に熱中してしまい、時刻はすっかり深夜だった。治療院へ帰宅したテネリスは、寝支度を整えていたユウジを捕まえ、ドローンのパーツ一覧を見せることにした。


「――ユウジ。ここにある部品を使ったドローンが欲しい」


「もう寝るところだったんだが……その話は明日じゃダメか」


「ダメだ」


「十分くらいで済ませろよ……それで? お前が映るカメラが見つかったのか」


「うむ。私にはさっぱりだが、ユウジなら大丈夫だろうと、フミが」


「へえ? ……ああ、オーダーメイドドローンってやつか」


 ユウジはすぐにメモの意味するところを察して、「のーとぱそこん」を操作し始めた。


 ユウジの背後にまわって画面を覗いてみると、ドローン専門店のドローン注文画面が表示されていた。そこにパーツを並べていけば、テネリスの望むそれが手に入るというわけだ。


「――テネリス。これを見てくれ」


 童心にかえってワクワクしていたテネリスだったが、ユウジの無感情な声で現実に引き戻された。


「一体どうしたのだ。初めからずっと見ているだろう……」


「ここだ、ここ」


 ユウジの言葉に、テネリスは彼が示した箇所に目を凝らす。




 【ご注文確認】

 ・オーダーメイドドローン ×1 ¥6,600,000(税抜)




「俺の……俺の、見間違いか?」


「そう……だな。見間違いではないか? それか、何かパーツを間違えておらぬか」


「そんなわけ……いや、一つ間違えていたな」


 ユウジがミスを修正し、再度合計金額を確認する。




 【ご注文確認】

 ・オーダーメイドドローン ×1 ¥8,900,000(税抜)




「今度は私の見間違いか? 値段が上がったように見えるが」


「俺にもそう見える……今日はもう、寝るか」


 闇医者とヴァンパイアは、無言でえげつない桁数の数字が表示された画面を見つめた。


 魔法少女の財力は、すごかった。






 その後、朝日が部屋に差し込み始めた頃合いに、テネリスはフミにメッセージを送った。


『ふみ 今度配信する』


『見て』

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