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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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31 透明な吸血鬼は治療院に帰る

 ショッピングモール内にボンッと大きな音が響き、最後の魔物が消滅した。辺りには爆発を抑えるための白い羽が舞い散っているが、魔法由来だからだろうか、雪が解けるように少しずつ消えていく。硝煙のような匂いが混ざっていなければ、多少はこの光景を幻想的と思えたのかもしれない。


「まったく、無駄に苦労する羽目になった……」


 テネリスは髪についた羽を取りながら白い魔法少女に向き直る。


「助かったぞ白いの。よい働きであった」


「は、はい。こちらこそありがとうございました」


 白い魔法少女は杖を持ったままぺこりと頭を下げた。戦闘形態とでも言うべき姿でこじんまりとした動作をされると、何だかシュールである。


「それで、あの。一つだけお聞きしたいことがあって」


「何だ?」


 白い魔法少女は周囲を見回すと、テネリスの傍に歩み寄って囁きかけてきた。


「テネリスさん、ですよね?」


「っ!?」


 テネリスは慌てて白い魔法少女から距離を取った。この反応が実質答え合わせのようなものだが、一度しらばっくれるくらいはした方がいいか。


 テネリスが警戒心を全開に思考を巡らせる傍ら、白い魔法少女はわたわたと手を動かしながら弁明する。


「あっ、待ってください!脅したりするつもりはなくて!……ええと、わかりませんか?」


 自分の顔を指さして尋ねてくる白い魔法少女の言葉に、テネリスは警戒を保ちつつ考える。


「……まさか、フミ、なのか?」


 愕然と呟いたテネリスの言葉に、白い魔法少女改め、フミは頷いた。彼女は、魔法少女だったのか。


 そういえば、ついさっきテネリスに囁きかけるまでの一連の動作は、撮影機材専門店でフミが見せたそれとほとんど同じであった。この白い魔法少女がフミだと思うと、だんだんそうだとしか思えなくなってくる……いやむしろ、なぜ別人と認識していたのだろうか。確かに全体的な色や雰囲気は全然違うが、話し方や仕草はそのままフミではないか。


「私のことはどうしてわかったのだ?こうして姿も隠していただろう」


「面識が無かったらそれでいいと思いますよ。でも、顔とか喋り方とか、特徴を知っていたら全然意味ないと思います……」


「……」


 テネリスは意味もなく黒いローブを深く被り直した。いつかユウジに言われた「テネリスの容姿は目立つ」という言葉の真の意味が、今になってようやくわかった気がした。


 自分の正体を隠そうとしたテネリスは一瞬で正体がバレ、正体を隠す気が無かったフミは気づかれなかった。なんとも滑稽な話である。


 ともかく、フミが魔法少女であるとわかった以上、テネリスは確認しなくてはならないことがある。もちろん、その返答次第では多少本気を出すのも選択肢のうちだ。


 いつでも血操術を使えるよう、服の内側に少しだけ血を忍ばせておく。


「私を、どうするつもりだ?」


「えっ?どうもしませんよ。強いて言えば……これからもよろしくお願いします?」


 ICOに連行されるくらいのことは予想していただけに、テネリスは肩透かしを食らった気分だった。


「このあと他の魔法少女やICOの職員さんが来て、事情を説明しないといけませんから。本当は一緒に帰りたかったですが、今日のところはここでお別れしましょう」


 フミの提案はつまり、テネリスを見逃がすということだ。それこそ、テネリスの力や素性など、聞きたいことは山ほどあるはずだろう。


「……いいのか?」


 テネリスが聞き返すと、フミは一拍間を置いて、人差し指を顔に当てた。


「この前に言った通りです。私たちの関係は、こっそり、です」


 そう言ってウインクしたフミの表情は、悪戯に成功した子供のようだった。




 フミが魔法少女だった衝撃の余韻を抱えたまま、テネリスは一人ショッピングモールを後にし、治療院へと帰宅した。


 するとちょうど閉館の時間だったのだろう、玄関を開けてすぐにユウジと顔を合わせることになった。


「テネリスか、おかえり。楽しんできたか?」


「ああ。色々あったが、概ね満足だ。見ろ、フミとゲームセンターで取った景品だ!」


 テネリスが腕に提げていた袋からクマのぬいぐるみを取り出して掲げると、ユウジは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。


「満喫したようで何よりだ。ああそれと、また何かぶっ壊して迷惑かけてないだろうな?」


「私を何だと思っている?何も壊して――」


 もはや恒例となりつつあるユウジのお節介を適当にあしらおうとしたところで、テネリスは一拍間を置いてぽつりと漏らす。


「……割と色々壊したかもしれぬな」


 魔物との出会い頭で頭に叩き込まれたベンチとか、魔物を誘導するために邪魔だったものを押しのけたりとか。流れ作業に刺激をもたらしたあの警備ドローンは……実行犯はフミだしセーフだろうか。


 ……冷静になってみると、フミがドローンを殴って破壊したという字面は何かの間違いとしか思えないが。


「おいおい。この治療院に損害賠償の請求書が送られてくるなんてことは御免だぞ」


「安心しろ。恐らく補償費はICO持ちだ」


「ICOってことは……魔物絡みか。ならまあ、大丈夫か……?」


「うむ」


 それで「大丈夫」という結論に落ち着くのも変な話だが、常識人面しているユウジも大概、一般的に見れば異常側の人間であった。




 そのまま流れるように自室へ戻ったテネリスは、今日一日を振り返りながら「戦利品」を部屋に飾った。


 同じ服を複製したような服ばかり並んでいたクローゼットには、テネリスの外見年齢に見合った衣装が増えた。枕元には小さな二体のクマのぬいぐるみが増えて賑やかになった。……何かよくわからない味の菓子が詰まった箱は、あとでユウジに渡すとしよう。


 一日で一気に生活感が増した私室を眺め満足げに頷いたテネリスは、「すまほ」を取り出し、ぽちぽちとメッセージを打ち込んで送信した。




『ふみ 今日はありがとう 楽しかった』


『送り先間違えてるぞ』


『黙れ 忘れろ 黙れ』




 この日から、テネリスはメッセージを送る前に相手を確認することを徹底するようになった。

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