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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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28 透明な吸血鬼は戦闘に介入する

 テネリスさんと別れた直後、私のスマホに着信が来ました。……私用ではなく、仕事用のスマホに。


 電話をかけてきたのはマネージャーさんみたいです。いまだに慣れなくて心臓に悪くて苦手意識がありますが、大事な連絡なので出ないといけません。


「――はい、白鷺フミです」


「フミちゃん、今どこにいるの!?」


「エッ?えーっと、ショッピングモール、ですけど……?」


 まさか、こっそりテネリスさんと友達になったのがバレてしまったのでしょうか――そんな風に身構えましたが、マネージャーさんの用件は全然違うものでした。


「今そこに魔物が出現するから、すぐに対応してほしいの!」


「えぇっ!?で、でも、ここに魔物が出るなんて予報は無かったはずじゃ」


 ICOの研究の成果もあり、最近は天気予報のように魔物が現れる時間や場所の予測ができるようになっています。その的中率はほぼ百パーセントなので、今日は安心してテネリスさんとここに遊びに来たのに……よりによって、ここに魔物が現れるなんて……。


「緊急事態なの!もし討伐できなくても、応援が到着するまで耐えてくれれば十分だから!」


「わ、わかりました」


 切羽詰まった様子のマネージャーさんに圧されたというのもありますが、魔法少女として魔物を倒すのは当然のことです。断る選択肢はありません。


 マネージャーさんとの通話を終えた私は鞄にスマホをしまって、変身用の杖を準備します。


「――お客様へお知らせいたします。現在、モール一階に魔物が出現しております。皆さまは係員の指示に従い、慌てず避難経路に従って避難を――」


「も、もう魔物が出現してる……?あっ、テネリスさんに逃げるように言わないと!」


 このままだとずっとあの場所で待っているか、私を探しに来てしまうかもしれません。……あれ、でもテネリスさんって強いし、一緒に来ようとしてしまったりするのでしょうか?


 そんな懸念を胸に、私が来た道を引き返すと――そこにテネリスさんの姿はありませんでした。


「も、もしかしてもう向かっちゃってる……!?」


 その証拠に、買った服やゲットした景品が近くのベンチに丁寧に並べられていました。前の不審者撃退のときも思いましたけど、テネリスさんって結構好戦的なのでは……!?


 ともかく、こうなってはうかうかしていられません。テネリスさんが魔物と遭遇する前に、私が先回りしないと!


「変身!」


 杖を構えて叫ぶと、白い光が私を包み、一瞬で真っ白なドレスを着た魔法少女としての姿に変わります。背中には小さな翼も生えるので、多少なら空を飛ぶことだってできます。


「今度は私が守る番です!」


 私は床から三メートルほどの位置で飛行し、避難する人々とその間をかき分けて進むテネリスさんの姿を見ながら、魔物が居る場所へ急行しました。




 ショッピングモールの吹き抜けに出ると、一階の一角にあった食品店がメチャクチャにされていました。


 少し前まではここで、色んな人たちが楽しく買い物をしていたはずなのに……こんな酷いことをするなんて、魔物の仕業に違いありません。


 店の表では、初動対応として十名くらいの拳銃を構えた警備員さんと、数機の銃を提げた警備用ドローンが包囲しています。


「動くなッ!動けば撃つ!」


「うるセェ!たダの人如きが指図すンな!」


 ――……どうして魔物に対して警告を?


 そう思ったのも束の間、警備員さんの警告に反発した魔物が、商品棚を持ち上げ、警備員さんたちに向けて投擲しました。


「好き勝手するのはそこまでです!『フェザー・ベール』!」


 私はすかさず防御用の魔法を魔物と警備員さんの間に差し込み、割って入ります。


「魔法少女の白鷺フミ、到着しました!皆さんっ、大丈夫ですか!?」


「あ、ああ。ありがとう!助かった」


 警備員さんたちの無事が確認できたところで、今回の魔物を観察してみます。私の四倍はありそうな、大きく、丸々とした身体の大きな男性……きっとこの店の商品を食べていたのでしょう。口元がとても汚れています。


「魔物は一体だけですか?他の場所に被害は?」


「あいつ以外は今のところ確認されていません。ただ……」


 私と話していた警備員さんが別の方に向けて目配せし、話すように促しました。


「――あの魔物はさっきまで普通の人間だった。普通じゃないように見える……」


「……人、だったんですか?」


 そういえば最近、似たような事例を身をもって体験しました。テネリスさんが私を守ってくれた、あの事件――まさか、今回も?


 だとしたら、あの「魔物」は人間ということになって――魔法少女のルールを守れば、討伐ができないということになってしまいます。今からマネージャーさんに連絡するわけにもいかないし、どうしたら……?


「――おィ!なにコソコソ喋ってルんだァ!?」


 私が迷っていても、相手は待ってくれません。とにかく今は、私のやるべきことをやらないと。


「……ひとまず、ここは私に任せてください。皆さんは他のお客さんの警備をお願いします」


「念のため、警備ドローンは近くに待機させておきます。どうか、よろしくお願いします」


「ありがとうございます。……さあ、私が相手です!」


「魔法少女……いイネ。僕のサンドバッグになってモラおゥかな!」


 どことなく嫌な笑みを浮かべた「魔物」は、近くにあった棚を持ち上げました。




=================================




 テネリスが逃げまどう人々をかき分けながら魔物のもとへ向かっていたら、その頭上を白い魔法少女が一瞬で抜き去って行った。翼を生やせるのに律儀に歩いていたテネリスは何だったのだろう――そう思うのも無理はなかった。


 そんなこともありテネリスが遅れて現地に到着したころには、すでに魔法少女と魔物の戦闘が始まっていた。こうなってはもはや出る幕も無いので、三階から見下ろす形で観戦に徹することにする。今までは「すまほ」越しにしか見なかった魔法少女の生の戦闘なので、どことなく新鮮な気分である。


「――『フェザー・ベール』!『イーグレット・ウィンドカッター』!」


「へへ、どこ狙ってルのカなぁ!」


 見たところ、今回の魔法少女はややディフェンス型寄りのバランス型といったところだ。相手の攻撃は結界でうまくいなしつつ、適度に牽制の攻撃も返している。


 一方の魔物側も、ボールのような巨体に見合わない素早い動きで魔法少女を翻弄しているようだが……あれだけ大きな的なのだ。攻撃が一切当たらないなんてことがあるだろうか。


 配信だけとはいえそれなりに魔法少女を見ているので、あの魔法少女がそれなりに場慣れしていることはわかる。だから、全然攻撃が当たらないのも、わざとそうしていると考えた方が自然だ。


 だとすると、援軍が来るまでの時間稼ぎだとか、そういった方向性で考えるのが妥当か……いや、攻撃を当てない理由としては弱い。


「何か、攻撃できない理由があるのか?」


 魔法少女の真意が読めないが、テネリスは一旦今見た光景をそのように結論付けた。


「しかし、あまり長引かれるとこの施設が崩壊しかねぬし……少し手出ししてやるとするか」


 テネリスは手元に血を浮かべ、血操術で武器を生成する準備を始めた。


 仮にも、このショッピングモールは初めてできた人間の友人との思い出を作った場所だ。そんな場所を、同日にどこぞの理性なき化物に目の前で破壊されるというのは、実に癪である。


「……ついでに、ICOに恩でも売れたら儲けものだな」


 現状、ICOにおけるテネリスの印象は祥雲ユキの「テネリスは幹部だ」という証言のみで構成されている。そこに魔法少女を助けた実績を並べられれば、帳消しとまでは行かずとも、後々の印象に影響する可能性は大いにある。


 そうと決まれば手を出さない選択肢はない。


 とはいえ、念には念を入れて「インビジブル」とテネリスが結び付けられないよう、その辺に落ちていた誰かの上着を回収し、血操術でいそいそと姿隠し用のローブに改造して羽織っておく。


「……うむ、問題無しだな」


 最後にもう一度確認を済ませると、テネリスは深紅の槍を片手に、仕切りを乗り越えて飛び降りた。




=================================




「――ずっと魔法が外レてるよ、へたっピだネぇ。今度ハこッチから行っちゃうヨ!」


「うっ……『フェザー・クッション』ッ!」


 私は大きな身体で体当たりしてきた「魔物」を魔法で受けとめ、押し返しました。まだ体力には余裕がありますが、攻撃を当てられないとバレてしまったのか、明らかに動きが変わってきています。


 それでも、仮にも人間を相手にしている可能性がある以上、私にできることは応援が来るまで耐えることだけ――人に魔法を撃ってしまったらきっと、たくさんの人に迷惑が掛かってしまいます。マネージャーさんは以前、何かあったら最大限働きかけると言ってくれていましたが……大変なことになってしまうのは、わかりきっています。


「そろソロ疲れてキタんじゃナいかな?トドメ、刺しちゃうよ~」


「う、うぅ……!」


 頭の中にたくさんの迷いが生まれて、だんだん混乱してきました。


 こんな時、テネリスさんみたいに力を奮えたら、どんなに良かったか――そう思ったその時。


 私と「魔物」の間に真っ赤な槍が刺さり、芯のある綺麗な声が私の上から聞こえてきました。


「――随分と楽しそうではないか。私も混ぜてくれぬか?」


「……あン?誰ダ、お前ェ……新しイ魔法少女か?」


「魔法少女?ふん、違う――」


 黒いローブに身を包み、ふわりと降り立ったその人は、首を横に振りながら槍を引き抜きます。不思議なことに、槍は粘土のように形を変えて、あっという間に鋭い刃を持った鎌に変貌しました。


「――正真正銘の、怪物だ」


 その人が嘲るような笑みを浮かべながら鎌を構えた瞬間、一瞬だけ見えた目は、吸い込まれるような紅い瞳をしていました。

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