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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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24 透明な吸血鬼の意思が折れる

「……うむ。この程度であれば特段問題なくやれそうだ」


 昔のユウジの配信を見たことで「普通」を把握したテネリスはそう結論付ける。


 加えて、テネリスはすでに大まかな計画は頭の中で練っている。もちろんすべてが上手くいくとは思っていないが、ある程度の軌道修正には耐えられるよう、柔軟に対応できるような設計だ。


「ユウジ、大まかな配信のやり方を教えてくれ」


「それは構わないが……俺は基本的にお前の配信には付き合えないぞ」


「勿論わかっている。私に血を供給するためにも、ぜひ本業を全うしてくれ」


「言われなくてもそうするさ」


 ユウジはテネリスの言葉を軽くいなすと、スマホを弄って配信を始める方法を説明する。


「トップ画面の右上から配信開始を押して、タイトルや説明を入れたら配信が始められる。昔とインターフェイスが変わっているが、基本は同じだな……わかったか?」


「……ああ!」


「すげえ不安な返事だな」


 数拍ほど置いてからのテネリスの元気な声に、ユウジは苦笑した。いくら機械音痴のテネリスでも説明自体は理解できたが、実は「タイトルや説明を入れる」がテネリスにとって鬼門である。だが、この苦しみはテネリス以外にはきっと伝わらないだろう。


「それと一つ、ずっと気になってたことがあるんだが」


「なんだ」


「お前、鏡やカメラに映れないだろ。その辺はどうするつもりなんだ?」


「え」


 その言葉は、テネリスが脳内でくみ上げた緻密な計画を根本からひっくり返すような一言だった。


「あれだけ意気揚々と提案してきたんだ。考えなしってわけじゃないだろ?」


「……あ、ああ。もちろん当然だろう!?」


 実のところ、全然考えていなかった。ヴァンパイアのアイデンティティとも言えるような特性をどうして忘れていたのかと言われると耳が痛いが、すっかり頭から抜け落ちていたのは事実である。


 だが、その事実もバレなければ無かったことになる。以前「すまほ」のカメラで己を撮影したらどうなったかを思い返しつつ、持ち前の頭脳を総動員してすぐに軌道修正を試みる。


「私本体は映らないが、衣服などは普通に映るだろう。だから私は、透明人間として注目を得るのだ!」


「なるほどな。そういうことなら――」


 ユウジは「すまほ」を操作し、ある画面をテネリスに見せる。




 [ICO]霧が丘街にて配信者を襲撃した幹部疑惑のある人物「インビジブル(仮称)」に関する情報 懸賞金 最大一億円




「――よかったな、とっくに有名人だぞ」


「何もよくないが?」


 テネリスはユウジから「すまほ」をひったくり、まじまじと見つめる。これは恐らく、テネリスがまだICO関連のニュースを収集していなかった時期のものだろう。


 それにしても「インビジブル」とはあまりにもセンスに欠ける呼称だ。もう少し捻っても……いや、無駄にヴァンパイアに結び付けられそうな情報を盛られたらそれはそれで困るか。


「……だが私がこれを知らないということは、これまで私に繋がるような情報は無かったということだ」


「そうだな。だが配信で透明人間姿をお披露目してみろ、あっという間にこの国の誰かが一億円をゲットだ」


「む……」


 ユウジは多少揶揄っている部分もあるのだろうが、現状のテネリスのままにICOに目をつけられるのと、世間の支持が得られてからICOに目をつけられるのでは前提が大きく異なる。先入観も相まって、あっという間にテネリスは世界の敵として祀り上げられることだろう。


「正直に答えてみろ。お前の様子から薄々察してたが……自分が画面に映らないこと、忘れてたよな?」


「……そんなことない。今日の手伝いはナシだ、何かあったら呼べ」


 テネリスはにべもなく返し、ユウジの「すまほ」を持ち主の手に押し付けると、逃げるように休憩室をあとにした。



「…………」


 テネリスはベッドに身を投げて「すまほ」の画面を眺めていた。「配信開始」の文字が虚しく光り、配信をするなどと言いだした自分が馬鹿らしくなって、電源を切る。


「はあ、上手くいくと思ったのだがなあ……あの一件がこうも尾を引くとは」


 現代に適応した完璧な活路が見つかったと、気が逸っていたと言わざるを得ない。ここ最近で一番の落胆とやり場のない苛立ちに悶々とした気分になるが、感情に身を任せて八つ当たりをしたりはしない。テネリスは誇り高き真祖であり、理性ある存在なのだから。


「……寝るか」


 テネリスは毛布を頭から被り、目を閉じた。起きたら多少は気持ちの整理もついているだろう。別にすべてがダメになったわけではない、また考え直せばいいだけのことだ。それに、着眼点は悪くなかったはずだし、テネリスが知らないだけで他にもやりようはあるはずだ。


 だが、あわよくば、現代技術でヴァンパイアでも映るカメラがあったりしないだろうか。世界が大きく変化した今なら、そんな都合のいい話が一つくらい、あったって――。




「――ん……」


 テネリスが目を覚ますと、外はすっかり暗くなっていた。「すまほ」で時間を確認すると、午後六時を示していた。


 少し寝過ぎたかとため息を零すと同時に、未読のメッセージが二件届いていることに気が付く。


『テネリスさん、次のお休みはいつですか?』


『一緒にお出かけしたいです!』


 どうやらテネリスが寝ている間にフミがメッセージを送ってくれていたようだ。これは気晴らしにちょうどいいかもしれないと、テネリスは治療院の営業日カレンダーを確認する。


 この治療院は毎週日曜日と水曜日、それにユウジの気分で休業日が決まる、個人経営ならではの緩いスケジュールで営業している。それにテネリスも気分で手伝いをしたりしなかったりで、用心棒の役目も最後に務めを果たしたのはいつだったかというくらいだ。正直、休みを気にする意味もあまりない気がするが……。


 テネリスはぽちぽちとスマホを触り、返事を返す。


『いこう たしかあさってがやスミだ』


『明後日、水曜日ですね!』


『どこにいく』


『ショッピングモールにしましょう!午前十時に、はじめて会ったコンビニで集合でいいですか?』


『わかつた』


 テネリスはフミのメッセージを見て頬を緩めた。


「必要なものを準備しておかねばな」


 テネリスはベッドから身を起こし、フミと出かけることを伝えるためにユウジの部屋に赴いた。

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