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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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23 透明な吸血鬼は意思を示す

 世間的に見れば「悪」であるテネリスが善の存在、すなわち「正義」となるにはどうすればよいか。


 それはただ地元で困っている人の手助けをするとか、そんな細々したことではいけない。もっと大々的に、テネリス自身がどのような存在かを世に知らしめてやる必要がある。


 ではどのようにすればよいのか。その答えを、すでにテネリスは知っている。


「――視聴者のみんな、今日も応援してくれてありがとー!」


 それはICOが魔法少女の世間的な支持を集めるために推進している活動のひとつ――配信である。




「――というわけで、配信をするぞ!」


「いつから、お前は、目覚まし時計の仕事まで、奪うようになったんだ……」


 夜通し考えを練ったテネリスは、ユウジが起床する時間を見計らって意気揚々と告げた。ユウジは頭を押さえながら、布団を捲って体を起こす。


「ったく、寝起きの頭に寝言を叩き込みやがって……」


 ユウジはテネリスにグチグチと文句を零しながら洗面所へ移動し、顔を洗った。


「んで、配信だって?なんだ、ネットの変な触れ込みに感化されたのか」


「違う。私は綿密な計画を立てた上でそう決めたのだ」


 胸を張るテネリスを見て、ユウジは深くため息をついた。


「スマホを渡した時に注意しておくべきだったな。いいか。世の中にはお前みたいな情報弱者を餌にする奴らがわんさかいて――」


「そんな説教は求めておらん。というか、誰が情報弱者だ」


 食って掛かるテネリスに対してユウジが無言で鏡を指さした。ヴァンパイアが鏡に映れない関係上、そこにはユウジしか映っていないので、つまり彼は自分が情報弱者だと言いたいのだろう。


 朝から自虐するような精神状態なら、そこには触れないのが優しさだ。テネリスは話を続けることにした。


「いいか、よく聞け――私は、正義になることにしたのだ」


「はあ」


 したり顔で告げた真祖のヴァンパイアに対し、闇医者は間の抜けた声を上げた。


「以前、ユウジが言っていただろう?魔法少女がテレビなどで活躍するのは、世間から支持を得るためだと。そのおかげで街に損害を与えるぐらいのことなら、目こぼしされると」


「若干極端に解釈されているが、それに近いことは言ったな。……まさかとは思うが」


「ああ。私も正義の側に回って支持を得て、堂々と血を求められる世界を創り上げるのだ!」


 テネリスはそんなに広くない洗面所で手を広げ、真祖の威厳たっぷりに告げて見せた。その間、ユウジが歯を磨く音が虚しく響く。


「……で、この考えについてどう思う?」


「上手くやれるなら悪くはないとは思うが……具体的な手段は?ICOに擦り寄るつもりか」


「まさか。アレは魔法少女のための組織であって、私のための組織ではない。それに、全国規模の組織にもなれば面倒ごとも多いだろう」


 大前提として、ICOに下るならば祥雲ユキとの確執や幹部容疑の問題を解決する必要があり、テネリス自身に関する情報を大量に渡す必要がある。


 どうにかそれらの問題を解決し、ICOに所属したとしても、魔物退治やらテレビ出演の予定、それに組織の決まり事やら何やらでガチガチに制限された生活を送ることになる。


 仮にその対価に安定して血を得られるようになったとしても、それは実質的にICOに命綱を握られている状態である。決して望ましいとは言えないし、この段階でそんな危ない橋を渡る必要はない。


 この治療院がテネリスにもたらしている自由かつ気楽な関係というのは、案外血の安定供給と同じくらい大事なことなのである。


 首を振ったテネリスを見てユウジはああと声を上げる。


「なるほど、それでさっき言ってた配信をするって話に繋がるわけか」


「然り。ユウジが寝ている間に調べたから、私はわかっているぞ?今の世の中、『すまほ』一つあれば誰でも配信ができるのだろう?」


 テネリスは服のポケットからスマホを取り出し、手元でくるくると回しながら告げた。そんな余裕の態度を見てユウジは眉を顰める。


「間違ったことは言っていないが……誰でもなれるってことはそれだけ埋もれやすいってことだ。見てもらうためには色々と努力する必要がある」


「ふむ……まあ、決して簡単ではないだろうとは私も思っているぞ」


「そうだな。たとえ魔法少女でも真祖でも、日の目を浴びないことはあるし……上手くいかなくても続けないといけない」


「私は日の目を浴びない方が嬉しいぞ?」


「そうじゃねえ」


 渾身のヴァンパイアジョークを告げたテネリスに対し、ユウジは容赦なく頭に手刀を落とした。


「というかユウジ、先ほどから妙に実感が籠っているような気がするのだが……お前、配信をやっていた経験があるのか」


「……ああ。昔、少しな」


 ユウジは苦虫を嚙み潰したような顔で頷く。どうも良い思い出ではなさそうだが、ユウジが「今日も見てくれてありがとう!」とか満面の笑みで言っていた時代があるのだろうか。それはそれで見てみたい気もするが。


「一般人の配信というのをあまり知らないのだが、どんなものなのだ?」


「……まあ、お前なら馬鹿にしたりもしないか……その端末にまだアカウントが残ってるはずだ」


 ユウジはテネリスが持っていたスマホを取って操作する。


「もうだいぶ前のことだが、一年くらいやってやっと千人そこらだったはずだ。……それはそうと、動画のおすすめ欄がすげえことになってるんだが、お前普段なに見てるんだ?」


「魔法少女関連以外だと、サバイバル系、それにスプラッタ系だ」


「初めて聞くジャンルなんだが……ん?」


 ユウジはテネリスの趣向にやや引きつつ、怪訝な声を上げて手を止めた。


「何か、最近になってやたら登録者が増えてるんだが……テネリスお前、何かしたか?」


「む?何もするわけないだろう」


「そりゃそうだよな……何だろうな……?」


 ユウジは首を傾げながらテネリスにスマホを返した。そこには、今よりいくらか若かりし頃のユウジの動画がいくつも並んでいた。


「もしかして俺、配信続けてたらワンチャンあったのか……?」


 休憩室へ移動し、冷蔵庫から取り出した朝食を食べながら、ユウジはあり得たかもしれない未来に悶々としている様子であった。


 ちなみに、ユウジの配信はものすごく普通だった。本当に、世を知らぬヴァンパイアですら一目で「あ、普通だ」となるくらい、普通だった。

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