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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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22 古き吸血鬼は結論を導く

『今日の晩ごはんです!私の好きなハンバーグです!』


『テネリスさんの好きな食べ物も教えてください!』


 フミと連絡先を交換した日の夜、早速フミからメッセージが送られてきた。向こうから歩み寄ってもらえるのはありがたいが、若者のスタンダードを知らないテネリスは早速返答に頭を悩ませることとなる。


 こういう時は、他人から見たテネリスの好きそうな食べ物を答えるのがいいだろう。テネリスは「すまほ」片手にユウジがいる部屋に赴き、前置きも無く問いかける。


「ユウジ、私の好きな食べ物は何だと思う」


「……屍肉か?」


「よくわかったな。じゃあ、今日はお前が晩御飯だ」


「止せ、冗談じゃないか」


 屍肉を作り出そうとにじり寄るテネリスをユウジは押し留めた。彼もだんだんとテネリスに対する遠慮が無くなってきて――いや、割と早いうちからこんな感じではあったか。


 使えない壮年男の部屋をあとにして、テネリスは再び自室に戻る。


「ひとまず無難そうな回答にしておくか」


 テネリスはぽちぽちと「すまほ」に文字を打ち込む。


『レアアースステーキ』


『レアステーキのことですか?』


『そう』


『すごい!お嬢様ですね!』


 無難な回答をするつもりが、希少資源を貪る奇特な化物になるところであった。


 いまだに「すまほ」に文字を打ち込む動作には慣れない。どうも液晶がヴァンパイアの皮膚をうまく読み取れないのか、無反応や誤動作が頻発するのだ。今後ヴァンパイア用「すまほ」でも開発されない限り、この問題が解決することはないだろう。


 だが、フミもテネリスの誤字が著しいことは把握しているので、揶揄ったりもしない。本当によく気遣いができる子だ。


 新たな友人に思いを馳せたところで、テネリスは日課の情報収集のためにニュース欄を漁る。エンタメや経済、政治といった分類分けの中にある、「ICO情報」の欄である。


「……よし。今日も私のことは書いてないな」


 まずは見出しにざっと目を通し、テネリスに繋がりそうな内容がないことを確認する。そして、今日も平穏に暮らせそうだと安堵するまでがワンセットである。


 秘密裏に事が進んでいるとかなら話は別だが、基本的にはニュースのおかげで多少ならICOの動きを先取りできる。もし不穏な兆しがあれば、ユウジに相談していくらでも先手は打てるだろう。その場合、ほぼほぼ治療院での暮らしは手放すことになりそうだが。


「……治療院以外でも生きていけるように、か」


 最悪の選択肢として、テネリスが長年続けてきた辺境籠りという方法はあると思っていた。


 だが冷静に考えてみると、それが破綻した結果としてここに来ることになったわけで。潜伏先を選ぶとか、ある程度の計画性を持っておかねば、また同じことの繰り返しである。どころか、もしテネリスが追われる身になっていようものなら、血を得るどころか、安眠すら保証されない日々の始まりだ。


「酷い悪夢だな」


 テネリスが望むのは平穏な暮らしだ。血は好きだが、血で血を洗うような日々は御免被る。


 せめて魔法少女たるユキが幹部だ何だと言って襲ってこなければ、自分も魔法少女だと言い張ってICOに取り入るような未来もあったのかもしれないが。


「はあ、本当にあの時のことが悔やまれるな……」


 脳裏によぎるのは、ユキと遭遇した時の出来事だ。


 いまだに幹部扱いされたのは納得していないが、少なくとも魔法少女は「正義」であり、人々を守るという一貫した行動原理がある――つまり、あの場ではテネリスが「悪」となってしまっていたと言える。


 それは、かつて滅ぼされたヴァンパイアたちに重ねることもできる。彼らは力に溺れ、世界の敵となったからこそ、聖職者やヴァンパイアハンターなどの「正義」の手により排除されたのだ。


「はあ。過去を悔いて何かが変わるわけでもあるまいな」


 テネリスは「すまほ」から動画配信アプリを立ち上げる。そこには今日も、見知らぬ魔法少女が魔物と戦う様子が映っている。夜だというのにご苦労なことだ。


 いつものように適当な配信を開いてみれば、魔物を倒した魔法少女に対する称賛の文字がぽこぽこと流れていく。背景には魔物との戦いを通してボロボロになった道路や建物も映っているが、その事実を咎める者は居ない。


「ふん。私は魔物を倒したのに、敵だの幹部だの酷い扱いで……いや、もうそのことは考えないと決めたではないか」


 今は何を考えても例の一件に思考が引きずられてしまいそうだ。この半ば呪縛のようになりつつある思考を振り払うために、テネリスは「すまほ」を置いて枕に顔を埋めた。今はもっと建設的なことを考えよう。


 たとえば、この治療院のこと。ユウジはヴァンパイアとしてのテネリスを受け入れ、その力を必要としている。


 あるいは、フミの時。イチャモンをつけてきた不審者を撃退したことについて、フミはお礼を言ってくれただけでなく、友人になろうと歩み寄ってくれた。その様子に偽りはなく、テネリスの力を恐れる様子も無かった。


 これらは、テネリスが排斥されるべき存在、「悪」ではないと考えるには十分だ。求められて力を奮う分には、テネリスを恐れたり、非難する者は居ないのだ。


 そう考えた直後、テネリスの脳内に一つの結論がふっと浮かんだ。


「ああ、そうか――」


 テネリスは埋めていた顔を上げ、再び「すまほ」に目を向けた。深紅の瞳に、液晶の光が反射して輝く。


「――正当性のある暴力は、肯定されるのか」


 ならば、テネリスが「正義」になればいい。そしてヴァンパイアが「世界の敵」でなくなった暁には、きっと堂々と血を求められる世界が訪れるはずだから。

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