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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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12 古き吸血鬼は「すまほ」を弄る

 午後の診察があるとのことで、図書館で用事を済ませた二人は、軽く近所で買い物して治療院へと戻った。


「買い物も随分と様子が変わったのだな。店番も居ないし、硬貨も使わなくなっているとは……てっきり窃盗したのかと思ったぞ」


「俺はお前に腕を掴まれて腕が折れるかと思ったよ」


 ユウジは治療院の一角にある休憩室の机に弁当を取り出しながら返す。


「ところでお前、普通の食べ物は食うのか?ほら、にんにくがダメとか、トマトジュースが好きとかよく言われるだろ」


「嗜好品としてなら嗜む、料理も問題ない。ちなみにニンニクは食っても死なないが、単純に苦手だ。トマトジュースも悪くないが、ブラッドオレンジやワインの類の方が好ましい」


「妙に洒落たもんばっか好き好むな」


「独りで暮らしている時は、川の水や雨水ばかりだったからの……」


「……今度買っておく」


 静かに闇を吐露したテネリスに、ユウジは憐みの視線を向けながら告げた。


「ついでに今後のために聞かせてくれ。今更な気もするが、十字架や銀なんかは大丈夫か?ここには銀を使った製品が色々ある」


「そうだな……」


 テネリスは腕を組み、指を一本立てる。


「まず、十字架は平気だ。昔、血を吸おうとしたら、人間が命乞いしながらロザリオを必死に構えるもんだから、哀れすぎて見逃したことはあるが、別に何とも思わない」


「……ということは、薬品箱の十字とかも大丈夫か」


「当然だ。十字が視界に入るたび苦しんでいたら生きていけぬ」


 テネリスは続けて二本目の指を立てる。


「銀は……まあ、苦手ではある。単純に触れるだけなら少し熱いくらいだが。お前の道具に触れなければ、そう問題は無いだろうな」


「そうか……聞いておいて何だが、弱点を俺に教えていいのか?」


「とうに通説として知れ渡っているのだから、否定したところで意味がない」


「それもそうか。……悪い、そろそろ次の診察が近いから、またあとで話そう」


 ユウジは弁当を口の中へと詰め込んでいく。ヴァンパイアであるテネリスですら、ちゃんと咀嚼しているのか心配になるほどである。


「この後は寝るなり遊ぶなり、自由にしていてくれ。ああそれと」


 ユウジは懐から「すまほ」を取り出し、テネリスに投げ渡した。


「使い方はもうわかるだろ?壊さなければ自由に使っていい」


「ああ、感謝する」


 食事の邪魔をするのは悪いだろう。テネリスはユウジに言葉を返すと、自身の部屋へと戻ることにした。




「さて、どうしたものか」


 テネリスはベッドに横になり、ユウジから教わった「すまほ」の機能を色々と試していく。未知の道具に触れて、テネリスは年甲斐もなく心が躍るような気分であった。


「……ん?」


 テネリスはふと視界に映り込んだニュースの一覧に手を止める。




 ・続出する配信者トラブル 対策は

 ・新人魔法少女 祥雲ユキの魅力に迫る

 ・廃墟系配信者襲撃事件 ICO「新たな幹部が関与している可能性あり」

 ・あの大物芸能人Tが女優Sと熱愛報道

 ・人気歌手が次回コンサート日程を電撃発表




「祥雲……ユキ……」


 テネリスの指は、己を容赦なく吹雪に包みこんだ魔法少女の名前に吸い込まれた。表示された記事にテネリスは目を通していく。


「……なるほどな」


 節々にユキを持ち上げる文章が挟まれているが、雑に要約すると「魔法の発現から僅か三か月程度でモノにした天才」「史上稀に見る広範囲攻撃が強力な魔法少女」「吹雪に飲まれた魔物は一体たりとも生還しなかった」「来る脅威への切り札として期待」と言ったところだ。


「実際、そうなのだろうな」


 己を散々な目に遭わせた者が称賛される記事を見て、いい気分はしない。だが、この記事の内容は誇張でもなんでもないのだろう。何せ、完全体ではないとはいえ、テネリスを川に投身せざるを得ない状況まで追い込んだのだから。


 逆に言えば、テネリスはユキの魔法を受けて生還した唯一の存在という見方もできる。そう考えれば、真祖としての矜持は保てるだろうか。


 それに、ユキが外れ値なのであって、全ての魔法少女があんな滅茶苦茶な訳ではないようだ。接敵するたび広範囲を滅茶苦茶にするような魔法を発動するようでは、それはもはや魔物と並ぶ災害に等しい。


「……となると、普通の魔法少女はどうなのだ?」


 テネリスは慣れない手つきで動画配信アプリを立ち上げ、十五分ほどかけて検索欄に「まほしょじうょ」と入力して検索し、見知らぬ魔法少女の姿を観察することにした。


「確か、配信は現在のどこかの映像だったな」


 テネリスが選んだ魔法少女は、全体的にピンク色のフリフリとした服に身を包んだ、お世辞にも強そうには思えない魔法少女であった。場所は街の中だろうか。状況からして、丁度小さな魔物と接敵し、これから戦うところのようだ。


 それに、ぽこぽこと半透明の文字が画面に現れる。これは同じく配信を見ている誰かが文字を打ち込み、魔法少女に向けてメッセージを送っているのだろう。これも併せて、世間が魔法少女をどのように見ているか判断する契機になるだろう。




<配信:「新人魔法少女です。魔物退治に挑戦します!」>


「あそこの魔物を倒します!」


 ・がんばれ~

 ・怪我しないように!


「わぁ、突っ込んできた!」


 ・避けて~!

 ・ナイス回避!


「あ、危なかった。今度はこっちの番!『コットンベリー・ショット』!」


(杖の先端からボールのようなものが飛び、ただ浮いていただけの魔物に直撃する)


「やったぁ、倒せました!」


 ・すごい!

 ・かわいい!

 ・お疲れ様~

 ・特訓の成果出てる!!




「……うーむ……」


 画面越しに繰り広げられるほのぼのとした光景に、テネリスは唸り声を上げた。


 どうも、テネリス内での魔法少女の基準点がユキの水準に置かれているせいで、ものすごく退屈な映像に映ってしまう。勿論、新人と銘打っているのだし、当然と言えば当然なのだが。


 見方を変えると、魔法少女になれば誰でも一瞬で強大な力を手に入れるわけではないとも言える。


 魔法少女はICOとやらの監督の下、ある程度修行を積んでようやく魔法を習得するのだろう。かつて存在したヴァンパイアたちのように、力に溺れて身を滅ぼすような事態を防いでいるという意味でも、よくできた仕組みである。


「しかし、魔物も魔物で随分と弱いな」


 画面の向こうの魔女がポコポコと魔物を退治していく様子を後目に、テネリスは服のポケットから図書館で得た情報をまとめたメモを取り出す。


 恐らくこの魔物は区分で言うとB……いや、新人であることを加味するとCかもしれない。


「魔物も魔法少女も、下から上まで随分と差があるのだな……」


 申し訳ないがこの魔法少女では、テネリスが霧が丘街で戦った、破壊と殺戮のためだけに生まれたような魔物に対抗することはできないだろう。そう考えると、あの魔物たちは区分A辺りが妥当なのだろうか。


「となると、私は区分的にはS以上か?」


 勿論テネリスは魔物ではない――ヴァンパイアが魔物でないというのも何だか変な気もするが――けれども、仮にこの枠組みに自身を当てはめるとするならば、ユキに襲われて生きているので区分Aに収まる器ではないだろう。


「他の魔法少女の力も見てみないことにはわからないが……どうやって他の魔法少女を見たらいいんだ?」


 テネリスは「すまほ」の画面をぽちぽちと押してみるが、配信が一時停止したり、謎の画面が開いて意味のない文字を入力したりしてしまい、思うように操作ができない。そうして訳も分からず操作しているうちに「配信を開始します」との文章が「すまほ」に表示される。


「いや、開始しなくていいが……何がどうなっている?」


 テネリスはまたポチポチとスマホを弄るが、結局何がどうなっているのかわからずじまいであった。


「よくわからんな」


 面倒になったテネリスはスマホをベッドの上に放り、ふて寝することにした。ユウジと共に行動するために寝る時間が滅茶苦茶になっていたので、ある意味丁度よかったともいえよう。

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