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第29話 投降と決意 前編

 次の町からは、ジャベリンほどではないが、門にRPG-7を一発だけ撃って様子を見て、色々荷物が積んであるならもう一人が撃ち、簡単に門を破壊してから隊列を組んで進軍。

 そして狙撃で援護するという、誰でも簡単、昔の攻城戦! みたいな感じになった。軍隊単位がいる場合に限るけど。

 それこそ大飯や、こないだみたいに潜入で兵士を殺すさ。

 そして次の街で大飯とは合流できそうだ。街って言うとロセットさんが治めてた所か……。どうなってんだろうな。



「はいはい。偉い奴は外ね」

「麦も後続の軍に残るように最低限の補給して――」

「他国との進軍経路の隙間に町? 給料払ってるんだから傭兵団と後続の隊から五千人裂いて、連携とれるように連絡を密に。しっかりと略奪がないように見張って」

「傭兵団が合流したい!? 今いる奴等で予算組んでて余分に給料払えないし、略奪する可能性があるから断って。規律第一で。ってかこの近辺じゃ廃業だから。解散させて戦争が終わったら兵士に転職しろって言っておいて。それかどこかきな臭い国に行くか」

 ヘイは相変わらず忙しいなぁ……。何か手伝いたいけど、見回りくらいしかできないな……。


「ちょっと教会に行ってくるわ」

 今はギリギリ町と呼べるかもしれない場所にいるが、この町は俺が字を習った場所だ。

「懺悔?」

「忙しい様に見えて意外に余裕そうだな。この町は少し滞在して、教会で文字を教わったんだ。顔を出しに行っても問題はねぇだろ」

「あーはいはい。それは仕方ない。気をつけてねー。何かあったら殺っちゃっていいから」

 その言葉に俺は片手だけを上げて返事をし、値段が二倍以上になってる食べ物類や砂糖と塩を買って教会に向かった。


「すげぇ久しぶりだけど……。なんか人で溢れてる……。なんでだ?」

 思わずそう呟いてしまった。確かにあの上半身裸でムキムキの神様なら縋りたくもなるな。

「いくら野蛮な兵士でも教会は狙いません。安心してください」

 あー。そういう事ね。ヴァイキングは平気で襲ったらしいけど。

「騒がしいところすまないが、そんな事はねぇぞ。上がしっかりしてるから略奪も無意味な暴力もない」

「あら、貴方は……。覚えてるわよ。顔が怖いのに真面目な人」

 俺に文字を教えてくれた、シスターが顔を覚えてくれていた。

「こいつは落ち着いたら子供達に。砂糖と塩も何にでも使えるだろ。ちょっと世話になったから、何かお礼と思って」

 俺はシスターに買った物を渡そうと思ったら、逃げ込んでた町人にはたき落とされた。


「お前、ビスマス兵か? 何でそんな事が言えるんだ! 兵士なんてどこだって一緒で、偉そうにして略奪しかしねぇじゃねぇか!」

 男性は凄い剣幕で今にも殴りかかってきそうな勢いだった。ビスマスに所属ってわかる物は一切身につけてないんだけどな……。少しだけそれっぽい説明したからかな?

「すまないが、今はたき落とされた果物とかは傷むのが早いと思う。早めに処理してくれ」

 そして俺は食べ物を拾い集めて袋に戻し、少しだけ悲しみを込めた表情で言った。

「受け取るな! 毒なんか入ってたらどうするんだ!」

 そしてシスターはオロオロしていたが、俺は手と笑顔で気にするな的なジェスチャーをしておいた。

 どうもこの男は色々な事が信じられないらしい。仕方がないので俺はため息を吐きながら財布からお金を取り出し、荷物を返してもらって寄付金を入れる皿に銀貨三枚を入れてから帰ってきた。

「戦争ってこんなもんなのかなぁ……」

 誰にも聞こえない声で呟き、教会から出た。



「ただいま」

「買い物? にしては少し多くない?」

「教会のシスターに男ができててな、間男の俺は退散してきた訳だ。落としたから傷みそうなのは食っちまおうぜ」

 そういいながらテーブルに果物を置くと、ヘイは無言で手を伸ばした。


「で、何があったのか詳しく頼むよ」

 お互い無言で果物を二個ほど食べたら説明を求められたので、とりあえずさっきの事を話した。

「ならその男を見返せばいい。幸いにも兵士達も規律を守り、攻撃されてから最低限の暴力で無力化はしている。気にしないでいいんじゃない? お金も置いてきたし、何かしらの恩返しはできてるよ。後で落ち着いた頃にもう一度来ればいい」

「だな。けど改めて戦争と兵士の事で再認識させられた。略奪とかが当たり前すぎなんだな」

「行儀がいいのは一部の国と人だけ。気にしない気にしない。ほら、ちょっと強い酒が支給品で出たから飲もう」

 ヘイは上官クラスに配られる酒を取り出して、ニコニコとしながら言ってきた。

「いや、そこまで落ち込んでる訳じゃない。気持ちだけもらっておく。煙草吸ってくるわ」

 それだけを言い、ポーチから刻み煙草が入った箱を取り出し、一本だけ巻いて外に出た。

「落ち込んではないけど、少しだけ心には来たんだよなぁ……」

 俺はゆっくりと煙草を吸い、持っている部分が熱くなってきたら霜が溶けてぬかるんでる場所に投げ捨て、灰色の空を見上げてからテントに戻った。



「お久しぶりです」

 街に着くまで二時間って場所で設営をしていたら大飯がやって来た。

「あぁ久しいな。ヘイだったらあそこの指揮官用のテントだぞ」

「後で会えるならいいですよ。寒いのでさっさとテントを作っちゃいましょう」

 俺と兵士がテントを作っていたので、大飯もそれに参加した。


「で、報告は読んでたが、結構暴れてたっぽいじゃないか」

 テントができたので俺達は中に入り、お茶を飲みながら雑談を始める。

「えぇ、もう色々吹き飛ばしてきましたので。門とか、門とか、門とか」

「いや、知ってるよ。今のお前からは想像もできない物だったし。世紀末だったり、ノリノリアメリカ系動画投稿者だったり、任侠映画風だったりで毎回楽しんでた」

「ヘイさんが録画してた夜中の破壊工作とか、そして結果的に意味なかったとかの報告も凄かったですね。自分も混ざりたかったです」

 ちょっと待って、それ俺知らない。だからグレネードランチャーとか普段使わないのノリノリで撃ってたのかよ。


「そのうち混ざれるよ。ってかロセットさんが治めてた街だけど、どんな風にしてきたん?」

「門の爆破、大きな屋敷の城門爆破、兵舎爆破、見張り塔の爆破」

 大飯は一本ずつ指を立て、少し思い出すように言ってきた。

「爆破しかしてねぇなぁ……」

「一番楽ですし、目に見えて被害が伝わりますので。それに民間人に被害でないようにするのは大変だったんですよ」

「そんだけやって出てないのも凄いわ……」

 俺は軽く笑いつつ、お茶を飲んだらヘイが戻ってきた。


「大飯じゃん、久しぶり。動画どうだった?」

「もうばっちりです。面白いですよ、グレネードランチャーもRPGもノリノリで。最終的に槌がめり込んで、兵士が必死に押してるのを見て、中途半端が一番ダメだなって思いましたし」

「本当それ。兵士に仕事させつつ楽させようと持ったらこれだもん。ちょっと馬鹿にしすぎちゃったよ」

「本当少し考えればわかるのになー。多分あの時の俺達は自分達に酔ってたんだよ」

 その後は三人で笑いながら夕食を食べ、今後の事を少し話し合った。



 翌日に進軍し、先頭集団と歩きながら街が見える所まで来ると、門の上に白旗が立っていた。

「あ、白旗だ。一昨日色々盛大に吹き飛ばしちゃいましたからね」

 本当に門だけが綺麗に吹き飛んでいた。民間人への被害がなかったのか気になるな。

『ヘイ聞こえるか? 白旗が立ってる。それに門に障害物がない』

『マジで!? ちょっと今すぐそっち行くわ。白旗立ってると、スピナから連絡があったから行ってくる』

 ちょっと……。通信切り忘れてますよ。



「退いてくれ! うお! 本当だ……」

 ヘイは馬に乗ってやってきたが、かなり間抜けな声で驚いている。

「一旦兵を停止させろ! 様子を見に行ってくる。スピナはジャガノと近距離対応装備、大飯は中距離と近距離装備。二人とも殺傷系の投擲物」

「あいよ」「わかりました」

 俺は言われた通りジャガノとmk23、大飯はP130とVP70を、ヘイはAKー35とOVS-032を装備した。自動拳銃や自動小銃、狙撃銃があるからどうにかなるだろう。

「スピナが先行、大飯がその後方百メートル。俺が四百メートル後方をついて行く。各自事細かに状況説明。撃てるようになったら進行だ」

「「了解」」

 ヘイはいつもの服装だけど、何で大飯は今回PMC装備を選んだし……。


「なんでPMCなんだ?」

「潜入中に単色の茶色系の服だったから、同じだとやばいと思いまして。いやー、まさかこうなってると思わなくて」

 大飯は苦笑いをしながら言ったが、撃てるようになったので銃を抜き、弾を装填してからマガジンを変えた瞬間に二人の顔が真面目になり、二人もマガジンを変えて装弾数を一発だけ増やした。

「じゃ、行くぞ」

 俺はバイザーを下ろし、残り一キロを歩き始める。


「残り五百。変化なし」

『同じく』

『防壁、門の上辺りに人影一人、他は頭だけ出してる気配もなし』

 ヘイは対物狙撃銃用のスコープで覗いているのか、そんな説明もしてくれた。


「城門まで百。MAPにいまだ反応なし。ただし白旗を盛大に振っている奴が目視できる」

『こちらでも旗は確認』

『防壁に未だ人影なし。一斉に攻撃してくる可能性も捨てきれない。警戒しろ』

 白旗が別の色に変わった瞬間、隠れてた奴が一斉に頭を出すかもしれないしな。


「防壁門前、MAPに反応数名。綺麗に防壁に並んでいる気配なし、頭上に人影や熱源らしき物なし」

『未だに旗を振っている』

 俺が門のあった場所に近づくと、白旗を持った奴が死角から出てきた。奥には街の人がなんか普通に生活している。

『待て、白旗を持った派手な鎧の奴が誰か出てきたぞ。兜は脱いでいるし、街では戦争なんか関係ないって雰囲気で生活してる』

『このまま回線を開いたまま話してくれ。俺と大飯でそいつを狙えるようにしておく』

「『了解』」


「我々は降参します。戦闘前に兵士に死者多数、見張り塔も門もなかったらどうにもなりません。どうか、この命で残りの――」

 偉そうな奴が短剣を抜いて、首に突き刺そうとしたので、傷とかの度合いとか一切関係なしに、急いで右手の稼働してる肘を撃ち抜いた。

「バカ野郎! 無抵抗なら最初から殺さねぇよ! 誰でもいいからポーション持ってこい! 門の脇に詰め所あるだろ。ってかちょっと待ってろ!」

 俺は落ちてるナイフを蹴り飛ばそうとしたら、ナイフが吹き飛んだのでヘイがやってくれたと思い、街の人が見ていただけだったので、体当たりするようにドアを開けた。


「聞こえてただろ! ポーションをよこしやがれ!」

 詰め所でお通夜みたいな雰囲気で座っていた兵士を怒鳴りつけ、奪うようにして外に出たら大飯が既に門に着いており、二の腕を縛ってから肘部分の圧迫止血をしていた。

「軽く処置をしたので出血は目に見えて減っている。脈拍は興奮してるのか大体百四十。早くポーションを」

 大飯が簡潔に症状を言い、俺がポーションを傷口にぶっ掛け、もう一本は意識があるので無理矢理口に流し込んだら、思い切り吹きかけられた。


「死なせてくれ! 生きて恥をかくより死んだ方がマシだ!」

「きたねぇなこのクソ野郎。中々根性があるじゃねぇか! だけどな、それを決めるのはお前じゃねぇ。大飯、口に布突っ込め!」

 俺は派手な鎧の男を押さえつけ、大飯が余っていた布で口に布を押し込み、吐き出させないように口を押さえると、急いで走ってきたヘイも到着した。

「お前の階級によってはこのままだ。お前より偉い奴が全員自害しててもだ」

 ヘイは足を押さえながら縛り始め、口に詰めたタオルを吐き出せないように口元を押さえるように縛った。


「で、こいつ誰?」

 ヘイが聞いてきた。いや、聞かれても困るよ。

「いや、知らねぇ……。いきなり出てきたし」

「同じく。詰め所の方に聞いてみましょう」

 大飯がそう言って、兵士の鎧に指をかけて一人引っ張ってきた。大飯も中々強引だな。

「最近屋敷に来た貴族様です……」

 その兵士の言葉に俺達三人は頭を押さえて、やっちまったって顔になった。俺はバイザーしてるから誰にも表情は見られてないと思うけど。

「白旗を提案したのは?」

「このお方です。夜中にお偉い人達を集めて会議し、この様な事になったと上官に聞かされました。コレが一番、街にも兵にも被害は少ない方法だと」

 その言葉で、更に何も言えねぇって雰囲気で全員顔を背けた。


「お話がありますので、このまま門の外でお待ちください」

 俺達三人は門の外に出て、ヘイだけ上の連中を呼びに行った。

「でー……。おたく、どの様な立場の人間で?」

 気になったから聞いちゃったよ。どうなんだろう?

「今年の夏に伯爵となりこの地に来ました。この地を治めていた貴族の女性は、国境付近の小競り合いの講和に行って殺されたらしく、自分が……」

 あーはいはい。ロセットさんは殺された事になってるのね。


「その女貴族だが……。ルチルの公爵といい感じになって結婚を考えてるぞ? 講和を結びに来て、帝国側がルチル内で暗殺してビスマスのせいにしようとしてたらしいが……。それを阻止したからな。危険な状況を乗り切ったし、裏切られたから亡命。狙われたドキドキを恋と勘違いしてそのままの流れで……ちょっとな」

 そう言う事にしておこう。吊り橋効果のアレに似てるし。

「そうだったんですか。その女性は利用されてしまったんですね」

 伯爵は落ち着いたのか、縛られたままでも会話が成り立っている。

『今からお偉いさん連れて行くから。ってかその人皇帝の血縁リストに名前がないから、真面目に貴族やってて伯爵になったっぽいね』

 一応会話をオープンでしていたが、ヘイからの通信は無視して一応世間話っぽい物を続けた。



「では、この方はこのまま屋敷に戻らせて、ビスマス兵の監視下の元で業務と……」

「えぇ、皇帝との血縁関係はないですし、夏に来たばかりならまだあまり関わってないでしょうし。ですが書類関係は見ます」

「ならこの人を屋敷に連れてって。丁重にね。なんか街の人は無抵抗で……。ってか普通に生活してるし、全面降伏って言ってたと思う。だから見回りは軽装でいいんじゃない?」

「了解しました。見張りの兵にはそう伝えておきます」

 大隊長らしき男が表情を引き締めて言い、大げさにヘイに敬礼をしている。俺じゃないから別にいいけどさ。


「あの、ごっつい人。少しいいですか?」

「あ? 俺……だよな? なんだ」

 特にどこも縛られていない伯爵が、俺に近寄って話しかけてきた。

「前任の女性の私物は、親族が来た場合に備えて倉庫に保管してあります。もしよろしければ、戦争に区切りがついたら来る様にお伝え下さい。では失礼します」

 それだけを言い、兵士に両脇に着かれたまま屋敷の中に入っていった。

 暗殺されたとか聞かされてたんだっけ。なんだ、すげぇ良い奴じゃん。ってかヘイに言ってくれ……。

後編は翌日に投稿されます。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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