表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/72

第27話 見回りと怒り 前編

前後編連日投稿です。

 年越祭はグリチネの所に帰る余裕もなく、仕方がないので宿屋で年末年始を過ごし、祭りから十五日後には兵士と共に町を出て国境線に向かう事になった。

 復興途中の村で俺達に喧嘩を売った貴族を回収し、着いたら着いたで下働きをさせられていた。

 そして国境線付近で五日ほど過ごすと、どんどん兵士が増えていき、豪華なテントが張られ、ヘイが毎日呼ばれていた。俺は焚き火に当たりつつ兵士と笑いながらお茶飲んでたけどね。


「今日は後続の伝令が来た。明日にでも国境を越え、進軍を開始する」

「あいよー」

 俺達は特別に用意されたテントで過ごしているが、兵士と同じ食事で良いと言って無理矢理同じ物にしてもらった。無駄に兵糧を消費する事もないし。

「粗食ってすばらしい。王国で会議中は贅沢な食事ばかりで飽き飽きしてた。こういうので良いんだよこういうので」

「贅沢な食事って、脂質とか気になるよな。あの授与式で思ったわ」

「いや、魚とか野菜、果物も出たよ? けど何か違うんだよ。キャンプのカレーと同じで粗野で雑多なのが恋しくなる」

 ヘイはグチグチと言いながら、味の薄いスープにパンを浸して下品に食べている。本当育ちが良さそうなのに、下品に食うのが上手いんだよなー。


「ジャンクフードが無性に食いたくなるアレか」

「そうそう。けどコレは食べてれば栄養が偏り、変に痩せそうだけどね。現地で柑橘類とか野菜でも買って食べる事になるねー」

「新鮮な野菜の入手が殆ど絶望的だからな。レーションがない時代は瓶詰めにして湯煎して消毒だったっけ?」

「そして輸送中に割れると……。イタリアかフランスだかがフリーズドライを開発してどうのこうの」

「そしてレトルト系で水入れるだけで発熱する奴を日本が作ったと。エロと戦争は技術を発展させるな。整形技術も戦争での傷を隠す為だったとか」

「医療用シリコンは――」

「それ以上はいけない!」

 俺はあわてて止めた。絶対(ピー)に繋がる。



「約束の期限だ。今から国境を越えて進軍を開始する。コレは連合国として帝国を滅ぼす為の戦争だ! 競争ではないが気合いを入れろ!」

「「「うおぉーーー!!!」」」

 偉い奴が兵士達を簡単な言葉で鼓舞し、進軍を開始した。ちなみに国境の敵兵達はとっくに逃げ出している。

 そして二日後には帝国の町での防衛軍と接敵し、戦闘が開始された。


 お互いにらみ合って、合図と共に開始する戦闘ではないので、各隊がファランクスを組んで防壁に張り付いたり、門をぶち破ろうと必死だ。

「どうするよ?」

「援護で良いんじゃない? 城壁の弓と油と熱湯がなければ早いよ」

 ヘイはそう言い、消音器付き狙撃銃でどんどん弓兵を撃っていたので、俺はドローンに軽機関銃を付けて上空から撃つ事にした。


「駄目だ、油撒いてる場所は防壁内だわ。とりあえず撃ちまくっとくわ」

「側面とかが気になるけど、こっちも前面に集中してるし、別にここでいいよね」

 俺はイスに座り左腕の肘を付きつつ、ヘイは木箱に土嚢を置いて、そこに銃を乗せて座りながら狙撃している。知らない奴が見ればさぼってる様にしか見えない。

「お、魔法が飛び始めたぞ」

「すげー。CGみたいだ」

「アレなら、グレネードランチャーくらいならバレねなぇんじゃね?」

 そういえばヘイは魔法見るの初めてだっけ。

「やっちゃう? やっちゃおう! やーってやるぜ!」

 ヘイはノリノリで、弾が六発入るグレネードランチャーを取り出し、ポンポン音を出しながら微調整しつつ門の辺りを狙い、携帯型重機関銃でさらに撃って油を撒いている場所を露出させ、どんどんバケツを持っている奴を撃ち殺していた。


「三分後が楽しみで仕方ないんだけど」

「ゲームじゃないんだし十八分待ったらどうだ? ってかやっぱ駄目だな、破城槌が門をぶち破りそう。矢と油がなければ、町だけど城落としとかこんなもんじゃねぇの? ってか自分から大口径禁止とか言いながら撃つなよな。人が千切れ飛んでる」

「壁相手だし」

「いや、言い訳になってないから……」

 その後は適当に撃っていたが、ドローンのバッテリーが切れる前に門が開き、大量の兵士が町の中に流れ込んだのが見え、防壁の上にも兵士が乗り込んで制圧していった。


「俺達も行く? ここで待つ?」

「行かないとまずいだろ。無抵抗な一般人を攻撃してたり略奪してたら罰しないといけねぇんだし」

「あー。末端の管理ね。お行儀の良い奴ばかりじゃないってかー」

「テーザーガンと予備に自動拳銃。スタングレネードでいいんじゃね?」

「だねー。んじゃいこうか」

 俺達は装備を変更し、歩いて(・・・)町の中に入った。


「抵抗しなければ危害は加えない! だが、攻撃してきたら無力化はする!」

 そんな事を指揮官がしつこいくらい言っており、それが伝播するように兵士達も叫ぶ様に言い、一般人に攻撃をしない様にしている。

「今のところ問題はなさそうじゃん」

「だねー。裏道とか行ってみる? 見えない所ではやってるかもよ?」

 そして人のいない方へと歩き、しばらくすると兵士が囲むようにして、地面に倒れている男をかなり蹴り飛ばしていた。

 そしてヘイは無言でテーザーガンを、鎧のない太股の部分に打ち込むと、叫び声を上げながら地面に倒れた。

「抵抗するつもりか! 俺達はビスマ……スの兵……」

「過剰過ぎ。もうその一般人は無抵抗だよね? 死んじゃうよ? 部隊名と名前は?」

「え……その……」

「所属してる部隊名と名前は?」

 ヘイは目出し帽を取らず、特に声を荒げる事もせずに問い、隣にはスカルマスクの俺が立っているので、嫌でも悪夢の二人だとわかるだろう。

「まぁ言いたくないならいいよ、認識表見るし。スピナ、残りを一応狙ってて」

 そう言うとヘイは、地面に倒れてる兵士の首から認識表をたぐり寄せて、紐を切って奪っていた。


「近日中に上から連絡が入ると思うから、次からやらないようにね」

 そして一般人を起こして立たせると、軽く背中を押した。

「無抵抗なら一般人に手を出さないようにさせている。しばらく兵士が常駐すると思うが、短気を起こして喧嘩しないように。自衛させる事にしてるが、こいつ等みたいな馬鹿がいると殺されるまであるよ? 死人に口なし。短剣で切りかかられた事にされるかもよ? さて、お偉いさんの家に裏道通って行こうか」

 ヘイは覆面をかぶりながら笑顔で言い、親指で町の中央の方を指している。

「あぁ、そうだな。ってか占領下に置いた町の、治安維持と兵士のモラルがネックだな」

「日本みたいなお国柄じゃないって事だよ」



「庭に出て並べ!」

 なんかメディアスの屋敷みたいな家に着くと制圧が終わっており、使用人が並ばされていた。

「終わってるねぇ。まぁ非武装の使用人なんだから当たり前だけど……」

 ヘイは武装している死体の山を見ている。

「おい、使用人を壁の方に向かせろ。死体なんか見せながら高圧的になると嫌な事しか考えられねぇし、自棄になる場合がある。おいそこの新兵! 見える所に死体なんか置くんじゃねぇ! 城壁の外にさっさと運び出して並べろ! 家族にもわかるように兜を脱がせて認識表を胸に置け。そして死体にはちゃんと敬意を払え」

 俺が怒鳴ると急いで動きだし、どんどん死体の山が減っていった。


「あんたがここの家主だな、悪いが親族全員拘束だ、連れて行け。使用人はもう用はない。縄を切って屋敷に戻して掃除をさせろ」

「あの、私共はどうなるのでしょうか?」

 白髪混じりのオールバックの初老の男性が、臆することなく凛とした表情で指揮官に聞いていた。

「とりあえずはそのままだ。予定では帝国を滅ぼし、ここを統治する別な者が配属される予定になっている。しばらくは混乱が続くと思うが、へこまずに踏ん張って欲しい」

 指揮官がそう言うと使用人全員が安堵した表情になり、メイドさんなんかは抱き合って喜んでいる。


『キマシタワー』

『絶対に違うから。男共も肩組んだりしてすげぇ喜んでるだろ』

 ヘイがボソリと日本語で呟いたので、否定しておいた。

『うほっ!』

『そういうのもいいから……』



「コレが麦の生産量、税として取った量と送った量……。そして残ってる備蓄……。かなり少ないな」

「ぜーったい数字誤魔化してるよこれ。素人目で見ても少ないって! 過去十年分を見ても安定してないし」

 俺達は穀物庫に行き、麦の備蓄を調べているが初っぱなから汚職を発見した。

「ちょっとー。捕らえた奴から役人か関係者呼んできてー!」

 そしてヘイが書類を見ながら叫んでいた。


「連れてきました!」

「ありがとう。でさ、この数字とさ、麦の備蓄がどう見ても合わないんだよね。正直に言って」

 ヘイは袋に入って山になっている麦の備蓄を指し、書類のほうも指している。

「いや、あのですね……」

「収穫量……。税とした集めた量……。税として上に納めた量……。ドレを誤魔化した? まぁ収穫量をいじれば簡単だよねぇ……。一応さ、こっちも数字で兵糧として持って行く量を決めてるんだからさ、こういうのすんごく困るんだよね。商人に売ってポケットにしまっちゃった? これさ、上の指示? ちょっと、ここの町の代表呼んできて!」

 ヘイは関係者ではなく、先ほど捕らえられていたこの町の一番偉い奴を呼んでいた。


「ってな訳でかなり少ないんだけど、今は冬だよね? コレで次の春とか秋まで持つの? それとも戦争が起こるかもって事で、高騰してた麦を売ったとかじゃないよね?」

 それからヘイはグチグチと言いながら、隊長クラスと輜重兵のお偉いさんを呼んで倉庫の中で会議を始めてしまった。

 ってかこの世界の麦の収穫は日本の米みたいに秋だったな。

 予定数より少ない、このまま兵糧として持って行くと町の人が飢える、このまま補給なしで行くと何日くらい食料は持つかなど、一時間以上話していた。


「なら商人から買い戻せばいいだろ、足元見られるけど仕方ない。こいつの屋敷の調度品で買えるだけ買えばいい。使用人の私物は触るなって事にしてさ。どうせこの倉庫が密集してるどれかが大規模商店の支店用の倉庫だろ。どうせ信用できるのは金なんだし、買った時よりも高く売れれば問題はないだろ。最悪脅して奪うとか言えば十割引きだけど、それは国を更地にする場合じゃないと無理だな。この後に復興させるんだし」

「売ろうか!」

 素晴らしいくらいの即答だった。

「や、止めろ! 価値のある物が多いんだ!」

「大丈夫大丈夫。どうせ幽閉だし。よし、交渉のうまい奴に任せよう。はい、君は家族と一緒に馬車で王都行きね。家族の絵画とか、子供のプレゼントっぽい物は残すように言って、送ってもらうようにしよう」

 ヘイは貴族の襟を掴み無理矢理立たせ、ずるずると引っ張って城門の外に連れ出していった。

 酷いな……。まぁ、後から管理するのが入るから、空っぽのほうが楽っちゃ楽だよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ