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第24話 媚薬と殲滅1/4

毎度の如く連日更新です。


 暑さも一気になくなり、街の雰囲気が変わり始めた。こう、何とも言えない賑わいを見せている。

 何気なくグリチネと街を歩いていると、あちこちで酒が売っていて、馬鹿騒ぎしてる冒険者や労働者が多い。

「秋かぁ……。ってか一気に寒くなったな」

「たまにあるのよねぇ。一気に秋になる事が。今回はそれかしら?」

 買い物の帰りにいつもの店に寄り、少し厚着になった街の人を眺めつつ、今日のデザートと暖かい果実酒(ホットワイン)を頼む。

「あら、今日はもう飲むの?」

「鍋で暖めてるうちに、酒なんか飛ぶだろ。収穫祭が近いみたいだし、なんかそんな雰囲気だからな」

 街路樹の葉が赤や黄色になりかけて、少し風が冷たいので本当に気分の問題だ。

 そして今日のデザートと、シナモンが刺さった果実酒が出てきたので、グリチネに断り、先に飲ませてもらう。

 んーショウガも入ってるのか。こりゃ暖まるな。


「なにニヤニヤしてるのよ。少しだけ不気味よ?」

 グリチネはタバコの煙を吐きながら、俺の方を見てニコニコしている。

「ん? ショウガも入ってんだなーって思ってな。アルコールもほぼ飛んでるし、大人のジュースって感じで、のんびり二杯三杯いけそうだ。本でも読みたくなる」

 この場所から街のどこを見ても写真や風景画の様な感じで、そういう事をしてみたくなる雰囲気がバンバン出てる。

「柄でもない事を言うのね」

「教養はあるからな。本が高くなければ読んでも良いくらいだ」

 ニヤニヤしながらキャロットケーキを口に運び、何気なく遠くを見ると場にそぐわない雰囲気の奴がいる。


 筋肉質の奴は目が虚ろで、よだれを垂らしながらさまよっている。そして手には抜き身のナイフ。衛兵か自警団は捕まえないのか?

「なにを見てるの? 急に真面目な顔つきになっちゃって」

 グリチネも飲んでいたお茶を置き、振り向くと間の抜けた声を出した。納得したんだろう。

「出て行かないの?」

「関わりたくない。さっさと兵士が出てきて欲しいと思ってる」

 俺は本音を言い、太股のホルスターから銃を抜き、スライドを引いて弾が装填されてるかの確認だけをしておく。


「お、兵士だ。取り押さえたな」

 兵士が走ってきて、男を取り押さえるが二人とも吹き飛ばされ、男は大声を出して暴れ出したので、急いで立ち上がって駆け寄り思い切り蹴って転ばせ、ナイフを持っている手を思い切り踏みつつ蹴り飛ばす。

 嫌な音がしたので、手首は折れてるだろう。

 だが男は立ちあがり、中腰になって低姿勢のまま体当たりをしてきた。吹き飛ばされた俺は、襲いかかられたので仕方なく銃を抜いて肩を撃つが止まらず、噛みつこうとしてきたところで、兵士二人が男に体当たりをして乗りかかり、応援に来た兵士四人も加わって、どうにか取り押さえた。


「薬か何かか? 痛みを感じてねぇなありゃ……」

「ご協力感謝します!」

 俺は立ち上がり、銃をホルスターに戻すと兵士が敬礼をして男を縛る作業に参加している。六人でも捕縛が難しいのか、筋繊維も切れまくってる可能性が高そうだ。

 しかも縄もかなり頑丈に巻いている。かなりの力だったんだろう。

「お疲れ。災難だったわね」

「あぁ、たぶん明日朝にはお迎えだぞこりゃ。感謝される前に根堀り葉掘りコースだな」

 テラスにいた人達に拍手されながら座り、冷めたホットワインを一気に飲み干してキャロットケーキを急いで食べた。



 翌日、宿屋のドアを開けるとトニーさんがいた。わかり切っていた事なので盛大にため息を吐く。

「公爵家?」

「はい」

 今はいつものニコニコが少しだけ癪に障る。

 仕方がないのでいつものように馬車に乗り込み、公爵家の応接室に入るとヘイとボスがいた。

「……思っていた以上に事がでかそうだよ」

 どっかりとイスに座っているボスに、軽く挨拶をすると大飯が入ってきた。


「おはようございます。今日は空気が重苦しいですね」

 空気は読めてると思うが、大飯はいつも通り挨拶をした。

「あぁ、この街の裏社会のボスもいる。そして昨日俺はそれに関わる事件に関わった」

「よろしく。君の噂は色々な方面から聞いているよ。あ、僕の事はボスでいいよ」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。ご存じかと思いますが大飯と言います。以後お見知り置きを」

 大飯はボスに丁寧な挨拶をし、入ってくるタイミングを伺ってたのか、メディアスとウェスも入ってきた。

「ボスを筆頭に、朝早くから集まってもらってすまない。問題はとある薬による治安と外部からの脅威についてだ」

 俺達は全員茶化す事もなく話を聞き、ウェスが配った紙に目を通す。

 俺が昨日目撃した、キまってる奴の目撃情報と逮捕数、統一した症状が事細かに書かれていた。


「スピナは昨日遭遇して接触している。詳しく話してくれ」

「あ? あぁ。昨日の午後だ。上級区近くの行きつけのレストランで買い物帰りにお茶を飲んでたら、裏路地からこれに書かれたような奴が出てきた。取り押さえようとした兵士を振り切って、逆に襲いかかろうとしてたから止めに入ったが、もの凄い力で体当たりされて転ばされた。仕方なく武力行使にでたが、怯むことなく噛みついてこようとした。その後兵士六人がかりで取り押さえて頑丈に縛ってた。多分痛みを感じてねぇ動きだったな」

 多少端折ったが、多分上手く説明できてると思う。


「オオイ。冒険者の噂を」

 大飯は持ってきた紙を広げると、この間みたく冒険者の噂話を始める。曰く、ポーションは裏路地で売られており、媚薬としてジョークグッズ的な感じで扱われている。そして、同じ売人の顔は二度と見かけないと言われていると語った。

 そしてヘイが娼婦達から聞いた噂から、やはり媚薬として売られ、売人は同じ顔ではない事、売り文句として、コレを経験したら二度と普通じゃ満足できないと謳っている事、主にスラム近辺で広まっており、大勢が使用している事、中には大当たりが混ざっていて、当たると似たような症状になる事を語った。


「ふむ。こちらで持っている情報と差異はほとんどないね。犯行の手口から大規模な組織と思ってもいいだろう。売人に尋問をしたが、全員言っている事が違う事や、キャラバンである事を徹底はしている。つまり相手は国単位だと思う。まぁ、名目上キャラバンだからこれ以上できないのも現状だ」

 ボスはお茶を飲み、おもしろくなさそうな顔をしている。裏でも水際で止めようと動いてたんだな。

「機関からの情報だ。ボスが言っているのとほぼ同じだが、アラバスター側の街道をはずれた村で秘密裏に作成しており、キャラバンに渡っているのは確かだ。実際に潜り込んで働いてるのが一人いるらしい。広い地下で作業しているとの情報だ」

 ウェスも情報を出し、機関が現場に潜入してる事を明かした。


「皆の意見から総合すると、戦争する前に内部からじわりと崩す事に切り替えたのだろう。それとキャラバンは、全員アラバスターの工作員かもしれん。そうすれば一貫して嘘がつける。商人用の証明書を国が発行してればどこに行くのにも自由だ。この件に関しては機関に憶測として話して、できればそいつらの護衛になってもらいたいが、もう動いてる可能性も高い。なので遠くからの監視か、国境付近での見張りをしつつ、抜け道を探ってもらいたい」

「カードに刻印とかはどうなるんだ? 怪しまれねぇか?」

「馬鹿だなぁ。国ぐるみの犯行なんだから、来る時は普通にして、国境抜けして戻ればいくらでも再発行は可能だろ? 次は護衛が商人になってってローテーションを組めば四人一組くらいの最小単位のグループができる」

「あー……。ここで馬鹿正直者っぽい俺は、話しからふるい落とされる訳か」

「そうだ。実は少しだけ馬鹿って事になるから少し黙ってようか」

「あぁ。そうするわ」

 ヘイに少しだけ注意されるが、まぁスピナっぽいのを演じてるだけの俺だから、ボロが出るのは仕方ないって事にしておこう。お茶でも飲んで待ってよう。


「もう少し情報が必要ですね。冒険者達にそれっぽい事を聞いてみますし、国境付近方面への討伐任務に多く出るようにしますね」

「それと娼館で実際に当たりを引いて被害が出てる。販売禁止か取り締まりの強化をしたほうがいい。俺は統括や店主に勧告し、娼婦に使わせないようにさせるしかないな。来店前に飲まれてたら最悪だけど」

「なら僕は別なルートで探らせよう。この街で好き勝手されるのは気分が悪い。キャラバンの追跡もこっちでも受け持つ。君達よりは尾行が上手い奴を着けさせよう。まぁ組織も動いてると思うけどね」

 俺はなにをすればいいんだ? 聞くか? 好きに動いて最悪な方に転んだらまずいし。わからなかったら聞く事は大切だよな。


「俺はなにをすりゃいい?」

「街をうろついて、商人が媚薬を売ってたら買って詰め所に届けろ。専門の奴が成分を調べる。当たりなら手柄だ。そしてボスに言えば、先ほども言っていたが尾行をしてくれるだろう」

「女も買わない、酒も程々、ギャンブルもしない。どこの組織にも所属してねぇのが裏目に出たな。わかった。とりあえずブラブラしてみるわ」

 俺はお茶を飲み干し、立とうとしてヘイと大飯を見る。

「んじゃ俺も適当にそれらしい下級区の店から注意してくるかー」

「んじゃ自分達は解散でいいですかね?」

 そうすると空気を読んでくれ、解散の方向に持って行ってくれた。

「あぁ、私はボスとこれから街の事で話し合いをする。朝からご苦労だった」

「敵国側に入り込んでる組織の人間を殺さないようにね。僕も一回だけ若い頃にやって、もの凄く怒られたから」

 ボスはニコニコと笑い、上品にお茶を飲んでメイドにおかわりを頼んでいた。

 まぁ麻薬捜査班とか、売り手になって売人と一緒に捕まるまでがシナリオっぽいし、殺さなければどうにでもなるか。


「さて、どうするよ?」

「まずは娼館に勧告、不明瞭な安い媚薬の持ち込みや使用禁止を頼んでくるよ」

「自分はギルドへ」

 皆はやる事があっていいなぁ……。裏道をブラブラするしかないか。

「んじゃ俺はブラブラで。問題は顔割れだよなー」

「スピナと俺の事を知らないのはそれこそ潜りだ。気にするな」

「そうですね。有名者の特権ですね」

 三人で笑いながら帰り、街中央の大きな十字路で別れる事にした。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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