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第21話 勲章授与4/4

 その後は特に問題なく食事会が終わり、和やかな雰囲気で退室するとメディアスに呼ばれ、別室に入ると国王様がいた。

「楽にしてくれ。それとここでは私の事を国王だと思わないでくれ」

 俺は眉間にしわを寄せ、首をかしげてメディアスを見ると首を縦に振った。

「いち、国の人間としてお礼を言わせて欲しい。今回は本当にありがとう」

 国王様はそう言い、棒立ちしていた俺の手を両手で強く握り上下に振り、ヘイにも同じ事をした。


「それに、毒の件やごちゃごちゃうるさい馬鹿どもを処理してくれて助かった。さすが大軍を退けた強者の言葉には重みがある。それに政治関係にも多少明るい。事前の報告書を読んではいるが、一度だけ言わせてくれないか? 我が国に帰属し、軍関係に関わって欲しい」

「あんた、さっきこう言ったよな? ここでは自分を国王だと思わないでくれと。城にいる初老の男の言う事をなんで聞かなきゃいけないんだ? 年上を敬うことはするが、まだそんな仲でもないだろ……」

 そう言った瞬間にメディアスの顔色が一瞬で青くなり、ヘイから肘鉄が飛んできたが、痛みを我慢する。


「そうかそうか、私はここでは国王ではなかったな。失礼失礼」

 国王様はニコニコと笑いながら俺の肩を叩く。食事会の時のような雰囲気は一切ない。こっちが素の国王様なんだろうか? どっちが本物だ?

「ただ、報告書にどこまで書いてあるかわからないが、俺は一般人としてルチルに滞在している。それに安宿屋の女主人と良い仲になっている。横やりや不幸な事故がない限りは多分永住になると思う。それに仕事として裏で何でも屋をやっている。だから何かあればその都度依頼(・・)してくれ」

「わかった。それと国王と思うなと言っても、中々態度を変えないのもいるが、君は素のままを出してくれてうれしく思う。それにズバズバと言うのもすばらしい。メディアス君、後の事は頼むよ。私は妻を止めに行ってくる」

 そう言って国王様は退室していった。何を止めるんだろうか? ってかこの態度が既に造ってあるものです。向こうだったら普通の人です。


「ひとまずはご苦労だった。毒を使った者を捕らえ、協調性のない馬鹿どもを失脚させる事ができた。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「いや、問題ねぇよ。馬鹿が減ればそっちもやりやすいだろう? やっぱりああいう風に、成り上がりを叩く馬鹿が多いのか?」

「あぁ、よほどの事がない限り私も他の貴族も叩く事もあるが、今回はかなり別物だ。裏付けもあれば、二人で五万を倒し、残りの三万を引かせた噂が国中に広がっている。何かしないと世論が騒ぐだろうし、それを読めたのか読めなかったのかは知らないが、奴等一派はほぼ壊滅だ」

 メディアスは黒い笑顔を隠そうともせず、胸の前で拳を強く握っている。


「そういえばさー。国王様は妻を止めに行くとか言ってたけど、何を止めるん? まぁある程度予測は付くけどさ、確信として情報が欲しいんだよね」

 ヘイは聞きにくい事を平気で聞いている。そこは突っ込むところじゃないだろうに。

「あぁ、地下だ。少し特殊な家庭環境で幼少期を過ごしていてな。貴族連中では知らない奴は新人か潜りだな」

 メディアスの顔が一気に冷静になっている。あまり良い話は聞かないんだろうな。


「ふーん。メイドは無事なのかな? 命だけは助けるって言ってたし」

「だから止めに行ったんだろう。なんだ、昨日抱いて情でもでも移ったか?」

「んーそう言う訳じゃないけどさ。約束を守らないのは個人的に嫌いなんだよね。そしたらそいつの事は二度と信用しないし。あ、友人とかなら問題はないけどさ」

 そう言ってヘイは俺の肩を叩きニコニコとしている。


「何か約束したか? 記憶にないんだが?」

「スピナくらいだったら多少は許すって事だよ。さて、地下拷問室にでもいこうか」

「おいおい、地下としか言ってねぇだろ」

「おいおい、あそこまで言ったらもう拷問室って言ってるようなもんでしょ」

 ヘイはニコニコとしながら、自動拳銃を抜いてメディアスの肩を叩いた。


「案内を頼むよ……。俺は国王様からでも嘘を吐かれたくはない。いいね?」

「あ、あぁ……」

 別に俺はどっちでも良いけどな。毒を盛ってる時点で八割り方個人的に敵だし。けどヘイが助けるって言うなら仕方がない。



 俺達は城の角の方に歩き、薄暗い廊下の奥にあるドアをメディアスが指した。

「あそこだ。私はここまでで十分だろう? 出発は明日朝だ。失礼するぞ」

 メディアスはそう言うとそそくさと部屋の方に戻って行った。近づかないのは、そういうのが嫌いだからか、関わりたくないからかだな。

 俺達は兵士を退かし、無理矢理ドアを開けて階段を下り始めると叫び声が聞こえ始めてきた。


「拷問室って本当にあるんだな」

「だねー。城とかって闇が深いよねー」

 なんか気の抜ける声だなー。けどしっかり銃は握ってるし、何かやる気満々じゃねぇかよ。

「スピナ。ジャガノ、武器は非殺傷系で固めてくれ」

「あいよ」

 恐ろしく淡々としたヘイの要求に軽く返事をし、俺は強化アーマー装備になり、ショットガンにゴム弾を選択し、階段を下りきってドアを開けると、なんか博物館や資料で見た事のある道具が沢山あり、これまたコテコテの拷問官がイスに縛り付けられてる全裸のメイド二人に、真っ赤に焼けた鉄の棒を押しつける寸前だった。

 ってか、拷問官は汚いおっさんが覆面付けてる感じだ。むしろ実際汚い。肌が露出してる部分が垢で汚れてる。


「はいはーい。そこまでー。ストップストーップ。やーめーろー」

 ヘイは自動拳銃をかまえ、壁に掛かっている拷問器具を数個打ち落とすと一気に場が静かになった。

「命だけは助けるって言ってたのに、何でごーもんにかけるのかなー? 僕は嘘が嫌いなんだよねー。あれ、国王様が止めに来なかった? 王妃様がいないからもう止めに入った後かな? はいはーい。その子達の命は助けるって国王様が言ってたんだから離してねー」

 ヘイはニコニコとしながらメイドの拘束具を外し、手を引いて俺の方に預けてきた。

「まで、そのメイドはおでのだぞ!」

 滑舌の悪い拷問官が我に返り、襲いかかってきたので胸を容赦なくゴム弾で撃つと痛みで床に倒れ、フォアエンドを引いて排莢をすませ、威嚇するようにショットガンをもう一度構える。

 石の上に落ちた空のシェルの乾いた音が変に気持ちい。


「おい、あの毒貴族がいねぇぞ。別な部屋なんじゃねぇの?」

「本当だ。どうしたんだろう?」

 そんな事を話していると、ドアがもの凄い勢いで開いたので、俺はそちらの方に銃口を向けると国王様と近衛兵数名だった。

「すまぬ。命令の行き違いでメイドがこちらに――」

「あぁ、助けましたよ。命だけは助けると言っておいて、四肢切断で性欲処理の道具とか最悪ですし。生きてるって事は、息してれば良いってもんでもないでしょう?」

「あぁ、もっともだ。ただ、これは本当に些細な命令の行き違いだ」

 国王様が近衛兵に命令し、メイド達に布を羽織らせると急いで拷問室を出て行った。


「いやー。危うく国王様を二度と信じなくなるところでしたよ。はははっ」

 ヘイはわざとらしく笑い、結局国王様の前でも銃をしまうことはしなかった。

「間に合って良かった。ではお前達、後は任せたぞ」

「「はっ!」」

 兵士が返事をしたので国王様が階段を上り、薄暗い廊下で口を開いた。

「貴族とそれ以外は別の場所でな。妻はそちらだった。そして兵士に尋ねたらメイドはこちらと言う。彼女達には怖い思いをさせてしまったな」

「トラウマが一日に二回か。ふさぎ込まなければいいけどな」

「しばらくは監視付きだとは思うが、私の権限で城から追い出す事はさせんよ」

 ある意味国王様がまともで良かったわ。最悪メイドの一族の首が柱に吊されるしな。


「とりあえず二人は別な場所へ、そして専属のメイドは悪いが変えさせてもらう」

「かまいませんよ。なぁスピナシア?」

「あぁ、問題はねぇよ。俺は夜中に呼ぶ事もねぇしな」

「やはりその鎧姿はスピナシア君だったか……。これだけ大きく、顔にドクロがあると威圧感がすごいな。まぁ、今回の件は申し訳なく思う。ゆるしてくれ」

「メイドに言ってくれ。俺には関係ない」

 ってかハートとか入ってるし、頬を赤く染めてるドクロを本当にそう思うのか?


「そうであった。一国の王がタダのメイドに謝罪するなど言語道断だが、それで君達のご機嫌が直るのなら、私は喜んで頭を下げよう。私の不手際なのだが、メイドを救ってくれて感謝する。では私はこれで失礼する」

 国王はそう言って大きな廊下の方に歩いて行き、多分自分の部屋のある方へ曲がっていった。

「どうするよ? メディアスか?」

「一応耳に入れておいた方がいいだろう。二人で行くしかないなー」

 そう言い、俺は端末操作で着替えて、二人でメディアスの部屋に行き、先ほどの事を全て話した。


「そうか。お前達には迷惑をかけたな。国王様もお前達を引き留めるのに必死なんだ。心労は察してやってくれ」

「あぁ、俺達の存在はやばいからな。一国の王も下手に出るのはなんとなくわかるが……。威厳が少し足りない気もするんだが?」

 俺が少し突っ込みを入れると、メディアスがため息を吐いた。

「良き国王なんだが、前王がかなりのやり手で、そのせいもあってプレッシャーがな。それに即位して季節が五順しかしていない。まだ板についていないんだと思う。国王様に向かって言うのもなんだがな」

 なるほど。年月の問題か。ってかメディアスもなんか酷い事言うな。

「王妃様はどうなんだい? なんか特殊な趣味を持ってるみたいだが」

「あぁ……。ちょっと身内に恵まれなかった事はさっき言ったな。後は察してくれ」

「そんな事言われると勝手に想像しちまうが? 継母が嫌な奴とか、その連れ子が生意気だったとか。そして結婚を機に我慢する必要がなくなり刺した時の快感が……。だからそういう馬鹿なのが出るとつい刺――」

「……まぁ。まぁまぁまぁまぁまぁ」


 メディアスが両手を使い、なんか訳のわからないジェスチャーを変な表情で俺の言葉を遮った。

「あ、すまん」

 当たり? 当たりなの? 嫁に選ばれて良かったな。ってかよく貴族用の修道院に幽閉されなかったな。まぁ容姿が良いからな、仕方ないかな? ってか半分原作に近い白雪姫的な感じか。

「まぁいい。明日に帰るから、今日はもうゆっくりしていろ」

「あぁ、ロセットさんと仲良くな」

「あ、気が付かないで申し訳ありませんでしたー」

 急いで逃げるように廊下に出ると、ドアに何か硬くて重い物が当たった音がした。ちょーっとからかいすぎたかな?

「さて、ごろごろするか」

「そうだねー、なんか疲れちゃったよー。堅苦しいのは慣れてるはずなんだけどねー」

 愚痴を言いながら部屋に戻ると、別なメイドが入って来て、帰るまでの専属になるとか挨拶に来たが、良識のある時間にお茶を頼んだ程度で、後は夕食と朝食を定時に持ってきてくれた。



 そしてまた馬車で移動してルチルに帰り、宿屋に向かう。

「ただいま戻りましたー」

「おかえり。生きてたのね」

「あぁ、なんとかな。毒を盛られたり、貴族からなんかゴチャゴチャ言われたが、とりあえず口喧嘩で勝った。相手は僻地に飛ばされる。まぁ、手も出たがな」

「あら、清々しいくらいの馬鹿をやったみたいね。とりあえず夕食はもうすぐだから、座ってるかゴロゴロしてて」

「あぁ、ゴロゴロしてるわ」

 そう言って部屋に行き、ベッドに倒れるようにして寝転がると、やっぱりグリチネの付けてる香水の香りが仄かに香る。そしてポーチに入れてあるハンカチをサイドテーブルに置き、気が付いたら体が揺らされていた。


「ごはんよ」

「おう……。今行くわ」

 混む前に夕食を食べ終わらせ、配膳の手伝いをすると、顔見知りの客にどんどん尻を叩かれる。なんでだろうか?

「おう、グリチネちゃんに指輪渡したんだってな。ずいぶん長々と泊まってるから、いつかはこうなると思ってたが遅かったじゃねぇか! 幸せになれよ色男!」

 そう言う事か。よく見なくてもグリチネは左手の薬指に指輪をしたまま夕食の準備してたわ……。

「うっす。あざっす!」

「なんか留守が多いけどよ、心配じゃねぇのか?」

「顔見知りが多いですからね。何かあれば皆さんが出張ってくれるでしょうし、仇は討つと約束してますので」

「男らしいなー。ってな訳で麦酒」

「承りました。五番テーブル麦酒一つ」


「あーい。ってかこいつを怒らせない方がいいわよ。今街で一番噂されてる奴の一人だからね」

「ってーと……。アラバスターの二十万の大軍のか! すげぇなあんちゃん! 顔が怖いだけかと思ったら、腕も怖いのかよ」

「まぁ、それなりには……」

 噂ってこえぇ……。数が四倍に増えてるぞ?

「あと王都に行って、正式に男爵になって、勲章も貰ってきてるわよ」

「すげぇな……。男爵が場末の酒場で給仕かよ」

「惚れちまったもんは仕方ないですからね!」

 そういったら、カウンターから野菜の切れ端が頭に飛んで来た。

「そういうのは皆のいる前で言うな!」

 グリチネが叫ぶと店内の客が笑い出し、将来は尻に敷かれるとかなんか色々言われた。まぁ、確かに気は強いけどさ。そこまでじゃないと思うんだよね。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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