17 黒神の少年は模擬戦をする
SIdeカイト
「お初にお目にかかります。私はSランク冒険者、カイト=クロバです。隣は私のパーティーメンバーのハク。本日は私達をお招3きいただきありがとうございます。」
そう言って俺は最敬礼した。
この手の作法は地球に居た時に叩き込まれた。
教えてくれたのは玄さんなのだが、そりゃあもう出来るまで休ませてくれなかったよww
お陰でこういう場面では恥をかかずにすんでいるがね。
「ハ、ハクです。・・・よろしくお願いいたします。」
ハクは緊張しているようだ。
まぁそうだろうな。
一瞬領主は俺の作法を見て目を見張ったが、すぐに元に戻した。
・・・少し丁寧すぎたかな?
「今日は旅で疲れているというのに済まないね。早速で悪いけど、”精霊の涙”について報告をしてくれるかな?」
「それでは私が。」
そう言いカレルがダグラスさんに報告していく。
流石に盗賊に襲われたところを話すとポーカーフェイスも若干崩れた。
だがそれは長年人の表情を読み取ることを教えられてきた俺だからわかることで、他のみんなにはわからなかっただろう。
・・・こればっかりは出来ないといけなかったからな。
色々な理由で。
カレルの報告も終わり、無事”精霊の涙”を回収できたと聞くと、ダグラスさんも笑顔になった。
ダグラスさんからしたら王女は姪っ子なわけで、かなり心配だったんだろう。
「それは良かった。今日はこちらで手厚くもてなさせていただこう。カイト殿とも話してみたいしな。」
・・・なんか目をつけられたな。
まぁ、悪い人ではないことはわかったし別に良いか。
「えぇこちらこそ。」
俺はそう返事をした。
夕食まではまだまだ時間があるので、各々自由時間となった。
俺達は特にすることがないので、領主の家の中を探索させてもらった。
ダグラスさんは温厚な人で、俺達の申し出を二つ返事で了承してくれた。
普通は自分の家を見て回りたいと言ったら嫌な顔をする人が多いと思うのだが、ダグラスさんは俺達を優しい眼差しで見ながら話を聞いてくれた。
・・・なんか父さんみたいな雰囲気だったな。
さて、
「見て回るって言ってもどこから行こうか?」
俺は隣にいるハクに尋ねる。
「そうですね・・・。領主様の家に来るなんてことは一生に有るかかないかですから、この際端から端まで見ていきませんか?」
おっと、ハクさんは意外に好奇心旺盛ですな。
さっきの緊張もどっか行ったみたいだし、この際領主の豪邸を制覇していこうか。
と、いうことで俺たちは家の隅々を探索しまくった。
まず玄関ホールから、応接室の反対側にある廊下を歩いた。
どうやらここは住み込みのメイドや執事たちの部屋が集まったところのようだった。
・・・しかし部屋の数が多い。
適当にそこら辺にいたメイドさんに聞いてみたところ、一階部分はほとんどがメイドたちの部屋であり、他には俺達が使っていた応接室と食堂、厨房しかないそうだ。
ダグラスさん達の寝室などは全て二階にあるらしい。
・・・いったい何人のメイド達を雇っているんだか。
次に向かったのは庭だった。
流石に寝室などがある二階には行く気になれず、様々な花が咲いている庭で過ごそうということになった。
「うわぁぁ。」
ハクは庭に出た瞬間に花に向かっていった。
しかし、とっても美しい花が咲いているもんだな。
パッと見だが、パンジーやチューリップと言った感じの花もあるな。
・・・まぁ色とかがだいぶ違うがな。
花もここは異世界だと感じさせてくれるとは・・・。
「失礼お客人。」
そう言って俺に話しかけたのは筋肉隆々でいかにも騎士と言った感じの鎧を着たおっさんだった。
「なんでしょう?」
おっさんは兜をしていないので、顔がよく見える。
しっかりとした顔つきで彫りは深く、髪の毛には若干白髪が混ざって入るがライトブラウン。
老いを感じさせない。
いくつもの修羅場をくぐり抜けた屈強な騎士という雰囲気がある。
「名のある冒険者とお見受けいたしましたが、お名前をお聞かせ願いますかな?」
そうおっさんが言うので、
「Sランク冒険者のカイト=クロバです。あなたは?」
「おっと、これは失礼。私はここの護衛隊長をしています。ジシムと申します。」
ジシムさんは俺に向かって腰を折った。
こちらも礼をし返す。
名前を聞くときはまず先に自分から名乗るのが筋だが、ジシムさんは本当に忘れていたみたいだった。
「それで何のようでしょう?」
「はい、私と1つ手合わせをお願いしたい。」
いきなりだな・・・。
ジシムさんは戦闘狂のようで、戦いたくてウズウズしてる。
そんな感じだ。
そして目が怖い。
いつもなら断っているのだが・・・。
ジシムさんすごく強そうだ。
体に流れている魔力の流れも無駄がない。
普通は体に流れている魔力を外に少なからず放出している。
しかしジシムさんはそれがほとんどない。
俺も普段からそうしているのだが・・・。
体の魔力を外に出さない=魔力操作が上手い&体に魔力を集めることが出来る。
ということだ。
体に魔力を集めることが出来るということは、身体強化魔法を使っているのと一緒だ。
身体強化魔法は、一度放出した魔力で魔法を発動し、それを体にまとわせる。
それに対して、魔力自体を体に集めることは魔力消費の量が格段にすくなるなるし、効果も良い。
身体強化魔法は魔法でプロテクターを作りそれを体につける感じ。
魔力を集めることは、筋肉一つ一つを強化するという感じだ。
魔力を集めたほうが効果が良いのは、元々体に馴染んでる魔力をそのまま使うので無駄なく魔力が強化に変わるからだ。
強化魔法を使うと少なからず魔力が外へ逃げてしまう。
それに魔法に変換してしまったら、筋肉単位で強化が出来ない。
せいぜい足全体を強化。
という感じだ。
しかし、これはとても高度な技だ。
つまり、これが出来る人は相当の強者ということになる。
これは俺の戦闘経験にもなりそうなので受けたほうが良いかな?
・・・それに何か裏がありそうだ。
裏と言っても悪意のあるものではなく、子供のいたずらみたいなものだと俺は考えている。
別に被害がないと思ったので、今回は受けることにする。
「ハク、俺はこれから手合わせしてくるけど・・・どうする?」
花を眺めていたハクに俺は声をかける。
「ご主人様が行くのなら私も行きます。」
ということで3人で豪邸の裏にある訓練場に来た。
ここはダグラスさんの護衛をする者達が訓練するところらしい。
俺達は他の人たちが訓練している場所からちょっと遠くに離れたところにある、小さなコロッセウムのようなところに連れてこられた。
「ここはいつもは一対一の模擬戦をするところです。」
そう言ってジシムさんはコロッセウムの中心に引かれてある線の上に立った。
どうやらそこが訓練の開始位置みたいだ。
俺はジシムさんの反対側にある線の上に立ち、刀を構える。
ジシムさんは片手剣と盾。
片手剣と言っても、クレイモアみたいな大きなものだ。
盾も少しばかり大きい。
タワーシールドをちっちゃくしたみたいなものだ。
「両者準備はよろしいですか?」
いつの間にか来ていた審判が俺たちに確認をする。
「こちらは構いません。」
「俺も準備は終わりました。」
ジシムさんと俺が返事すると、審判は少し間を空けて、
「始めっ!!」
俺とジシムさんの試合が始まった。




